本田雅一のAVTrends

SCEアンディ・ハウスCEOに聞く、PS Vita TVとPS4の戦略

Vita TVでもPS3ゲーム? “One Sony”の中のSCE

PS Vita TVを持つSCE アンディ・ハウスCEO

 据え置き型ゲーム機大幅刷新のタイミングとなる今年、日本でのビジネスプランは? と注目が集まっていたソニー・コンピューター・エンターテインメント(SCE)の次世代ゲーム機「PlayStation 4(PS4)」。その発表の場であったPlayStation Meeting 2013に注目が集まっていたが、低コスト化と薄型・軽量化を果たした第2世代のPlayStation Vitaに加え、PlayStation Vita TV(PS Vita TV)という隠し球が用意されていた。

 発表のニュースリリースを遠くドイツで受け取った筆者も、3通に別れて送られてきたPDFに驚きを隠せなかったほどだ。

 PS Vitaの心臓部にDualShock 3を組み合わせたPS Vita TVは、Vita用ゲーム、PS用ゲームなどのゲーム機でありながら、低価格な動画サービス端末としても充実した製品になっている。同価格帯のApple TVに対しては明らかにゲームコンテンツの面で勝っており、Androidベースのカジュアルなゲーム機に対しても、オーソライズされた質の高いゲームがあるという点で遊びやすい製品になっている。

PS Vita TV。DUALSHOCK 3は別売
PlayStation 4

 発表から一日を経た今日行なわれた、SCEのアンディ・ハウス社長が記者とのグループインタビューに参加したが、やはり質問は初のお目見えとなるPS Vita TVに集中した。

PS Vita TVの狙いとPS4の日本投入遅れの理由

--- PS VitaをベースにTV向け情報端末を作ろうと考え始めたのはいつごろのことでしょう?

SCE アンディ・ハウスCEO

ハウス:「構想としては2011年8月からありましたが、実際にスタートしたのはちょうど1年前ぐらいですね。日本では長らくインターネットを通じたストリーミングビデオ配信があまり流行してきませんでしたが、質の高いゲームがたくさん用意されている強みを活かして展開すれば、日本でもストリーミングビデオ市場が盛り上がる可能性があると思います」

「そこでVitaが持つ資産を基礎に、テレビ向けエンターテインメント端末を作ればいいと考えていました。SCEはプレイステーションネットワークで、ゲームだけでなく動画や音楽の配信を行うプラットフォームを提供しているので、これにメジャーなサービスを組み合わせることで、プレイステーションの強みをテレビ端末として出せると考えました」

「今、日本ではストリーミング配信のデファクトと言えるような事業者が存在していませんから、今からでもデファクトを取りに行けるかもしれない、という考えもありました」

--- PS Vita TVでプレイステーションユーザーの掘り起こしを狙うならば、“非ゲーマー”が注目する製品でなければなりません。どのようにゲーマーではない層に訴求できるとお考えでしょう?

PS Vita TV

ハウス:「PS Vita TVは、とにかくファミリーみんなで愉しんでもらえることを考えています。そのために重視したのが、リビングルームで邪魔にならない小ささ、それに価格の安さです。SCEが販売する据え置き型ゲーム機として、はじめて1万円を切って発売しました」

「加えてテレビで愉しんでもらうにはコンテンツが必要ですから、まだ開発初期の段階からニコ動やTSUTAYA TV、Huluと手を組んで、ローンチ時から選べるように準備をしています。ゲームコンテンツはPS Vita TV上で動くタイトルが、過去のカタログを含めて1300本もありますし、その中にはとても安価に遊べるものもあります」

「我々はPS Vita TVのユーザーが、ゲーム以外のコンテンツ(映像配信だけでなく、従来のVitaでも利用可能な電子書籍なども含む)とゲームコンテンツを、半々で遊んでくれるのではと考えています」

--- SCEはGailkaiの技術を使ったクラウドゲーミングサービスを拡大していく予定ですが、PS Vita TVでも将来的にクラウドを通じてPS3フォーマットのゲームを遊べるようになるのでしょうか?

ハウス:「PS3用ゲームのストリーミングは、まずはPS4ユーザーに提供される予定で、その後、PS3に、その次にPS Vitaへと提供することを発表済みです。PS VitaとPS Vita TVは基本的に同じハードウェアプラットフォーム上に作っていますから、このタイミングで提供できる準備が整っていれば、PS Vita TVにもPS3用ゲームのストリームサービスを提供できると思います」

--- PS4は欧米でかつてないほど予約の勢いがあるとのことですが、この勢いを持続させるための条件とはなんでしょう? また日本はなぜ遅くなるのでしょうか?

ハウス:「ゲームタイトルの開発に関して、PS4用ゲームの開発は順調ですが、本当の意味でそのパフォーマンスや特徴を引き出したゲームが出てくるまでには、少し時間が必要だろうという感触があります。欧米ではPS3で大規模オンライン対戦ゲームが流行しましたが、日本ではあまり受けない。日本のユーザーが喜ぶタイトルが揃うのは来年ですし、そのタイミングならば、マーク・サーニーの作った最新ゲームをバンドルすることもできる。日本のユーザーをないがしろにしているのではなく、むしろ大切にしているからこその来年発売です」

One Sonyの中のSCEのポジションは?

 と、このように昨日で不明瞭と思われる点が次々に質問として出てきていたのだが、筆者がもっとも注目していたのは、「One Sony」を掲げる新しい平井体制におけるソニー戦略とSCEの戦略がどのように交錯していくのか……である。

 そこで、PS Vita TVにはOne Sonyの象徴とも言えるNFCの搭載やXperiaとの連動機能が発表されていないことを念頭に質問してみた。今年のIFAにおけるソニー製品のラインナップを見ると、いずれもスマートフォンに多様なコンテンツが集まり、道具としても複数の機能を集約したユーザーとの接点であることを基本コンセプトに、100種類を越える製品にNFCを搭載。Xperiaを起点にしてコンテンツを愉しむ仕組みを作り上げている。

 一方、PS3、PS Vita、nasneの連携に代表されるように、SCE内部で完結するユーザー体験の質が高いことは、従来の製品を見れば明らかで、ここにPS Vita TVが加わることで、楽しみの幅がより拡がっていくことは、具体的な機能デモを交えなかったとしても容易に想像できる。

 では、この“ふたつの異なるソニーがつくる世界”は、相互の摺り合わせや連携がきちんと取れているのか。もう少し突っ込めば、単に“データ連係する”だけでなく、ユーザーのアクションによるトリガー(イベント発生)に対する振る舞い方や、データ受け渡しについて、きちんと繋がっているか? が重要になってくると思うからだ。

 これまでも、nasneにVAIOが対応したり、Xperia向けにアプリが提供されたりと言った、主に機能やデータハンドリングの連携はあったが、ユーザー体験の質を揃えるには、もっと深い部分での”共通の意識”が必要だと思うからである。


--- PS Vita TVはPlayStationワールドの中でベストなユーザーエクスペリエンスを実現しているとは思うが、一方でPlayStationワールドの中で閉じているように思えます。平井・ソニーが掲げる「One Sony」活動にPS Vita TVは関わっていないのでしょうか?

ハウス:「私(アンディ・ハウス氏)は'13年1月より、ソニーネットワークエンターテインメント(SNE)の役員としても仕事をしています。“One Sony”という意味では、その中心はハードウェアではなく、ネットワークサービスを中心としたデバイス同士の情報共有になると思います」

「元、SCE社長だった平井一夫がソニーのグループCEO兼社長になってから、グループ全体における統合したユーザー体験を大切にしています。たとえば、SNEにアクセスすると、PlayStation 3/4においても、ブラビアにおいても、コンテンツストアを検索する際のユーザー体験は統一されています。できる限りルック&フィールを統一しています」

--- PS VitaからPS Vita TVに、写真を「スロー」するとテレビ上に表示されるといった機能の解説がありますが、このデータスローはソニー製品と互換性があるのでしょうか?

ハウス:「ソニー製品の中での“スロー”と互換性検証を行なっているわけではありません。SCEの製品間で、ごく簡単な手順を定義して、それをオープンな仕組みとして提供する形です」

 さて、ここまでで判るように、SCEはソニーとゲーム機を連動させる上の、業界標準づくりは、あまり積極的に取り組むテーマではない、と考えているようだ。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  個人メディアサービス「MAGon」では「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を毎月第2・4週木曜日に配信中。