2013年6月24日(月)15時、国際人権法学者である戸塚悦朗氏の邸宅(大阪府箕面市)を岩上安身が訪ね、インタビューを行った。日本軍慰安婦問題の専門家として知られる戸塚氏は、1973年から弁護士として活動するかたわら、ロンドン大学やソウル大学、ワシントン大学で客員研究員を務めたほか、神戸大学助教授を経て、龍谷大学教授として教鞭を執った経歴を持つ。現在は、弁護士も大学教員も引退し、国際人権法政策研究所事務局長、および日本融和会ジュネーブ国連代表として、人権状況の改善活動に取り組んでいる。
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インタビューの冒頭、戸塚氏は、国際人権法学者の立場からみた、日本の人権状況について、「人権途上国である」との認識を示した上で、人権被害者が最高裁で敗訴した場合に、国連に被害救済を訴えていくことができる「個人通報権条約」への日本の批准が、日本の人権状況を改善する上で必須であるとの見解を示した。特に、精神病院において患者への不当拘禁や虐待が蔓延している問題や、いわゆる代用監獄の問題、年間1万人が命を落とす過労死の問題、さらに、戦前の日本軍慰安婦問題について、「これまで別個の問題として解決に取り組んできたが、実は根がつながっている。全体が一体の構造的な問題と認識し、解決に取り組んでいく必要性を感じている」と述べた。
◆「日本軍慰安婦制度は、国内法でも国際法でも明らかに違法」との見解を示す
戸塚氏は、日本軍慰安婦問題について、「慰安婦」とされた女性の過酷な実態を「性奴隷(セックス・スレイブ)である」とした上で、1926年に国際的に確立された、奴隷制度を禁止する「奴隷条約」に日本が批准していないことに加え、奴隷制度の禁止は国際慣習法上、世界の常識であるにもかかわらず、いまだに禁止条約に批准しないことが、「国際法規の遵守義務を定めた、憲法98条2項に違反する」と厳しく指摘した。
日本軍が設けた慰安所について、戸塚氏は、「あれは娼妓(しょうぎ)だ、商売だという(意見がある)が、まさに『奴隷』だった」と述べた。これについて、岩上が、娼妓行為を行う場所や業者の登録、娼妓行為を行う女性の登録を義務づけた「娼妓取締規則」によって、奴隷化防止の体面を保とうとしていた実態を説明した上で、「戦地や外地を転々とし、戦い続ける軍隊についていく業者に、娼妓取締規則で場所を指定することや、業者を警察が監督するなど、できるわけがない。完全に違法だ」と指摘した。
2013/06/24 【IWJブログ: 従軍慰安婦制度は「奴隷制度であり、 醜業条約違反であり、強制労働条約違反」~戸塚悦朗氏インタビュー】
これについて、戸塚氏は、慰安所が内務省の法規に基づかない、軍が作った極秘制度だったとした上で、「『当時も合法だった』という(意見がある)が、国連は『(慰安婦は)奴隷である』という報告書を出した」とし、さらに、「ILO(国際労働機関)も『強制労働条約違反である』という報告書を出した。つまり犯罪である。日本はこの条約を1932年に批准しているのだから、違反者は処罰しなくてはいけない」と指摘した。
奴隷制度を禁止する条約として、戸塚氏は、日本が1927年に批准した「醜業(しゅうぎょう)3条約」の存在を挙げた。醜業3条約では、21歳未満の女性を醜業(売春)目的で使役することを禁止しているほか、成人の場合でも暴力による醜業の強制を禁止することや、だまして醜業させることを禁止している。この条約に付随する植民地除外規定については、「内地(本国)で許可して制度を作り、内地の軍が依頼して女性を集め、日本の船で内地に寄り、外地に連れていったのだから、全て日本に関係があるし、日本軍がやっている以上、植民地除外規定は適用されない」との見解を示した。
戸塚氏は、国際法律家委員会(ICJ)が日本政府に対して送付した、「慰安婦制度は奴隷制度。重大人権侵害の被害者なのだから、個人補償をすべき」と指摘した報告書(※1)が、外務省官僚によって事実上「葬り去られた」ことで、国家による謝罪や補償、関係者の処罰を伴わない、民間基金による慰安婦問題の解決を打ち出した「村山談話」につながったプロセスの内幕を語った。
(※1)
一方、1965年の日韓請求権協定によって、「賠償責任は終了した」という、日本政府が採っている立場について、戸塚氏は「犯罪問題を含むものではない」との見解を示した上で、「国際法には時効がない。日本政府には(当時の関係者を)処罰する義務があるし、被害者補償もしなければならない」とした。これに関連し、日韓の国交正常化までの交渉過程で、日本側首席代表が「犯罪問題、不法行為が明らかになれば補償する」と述べたことを記した議事録が存在することも挙げた。
岩上が、「保守派や現在の大臣は、『公娼制度があったから、慰安婦は合法だった』などと表明しているが、間違いだ」と指摘したのを受けて、戸塚氏は、「慰安所は『公娼制度』(に基づくもの)ではない。登録も指定もされていない」とした上で、「国内法だけの問題ではない。仮に国内法で合法であっても、国際法上は違法である」と述べた。さらに、「慰安婦制度は奴隷制度であり、醜業条約違反であり、強制労働条約違反である」と厳しく指摘した。
これに関連し、戸塚氏は、「慰安婦制度は、日本の国内法では合法だった」との意見があることに対し、「国内法においても違法だった」という証拠資料を提示した(※2)。これによると、1932年、長崎県に住む女性を、「上海に行けばいい仕事がある。高給が稼げる」と業者が言葉巧みにだまし、海軍の指定慰安所に送り込み、女性の意に反して性的な業務に就かせた「醜業詐欺」について、長崎県警察部(長崎県警)が業者ら10人を摘発し、長崎地裁、長崎控訴院(長崎高裁)、大審院(最高裁)でいずれも有罪判決が出た(※3)。この刑事事件において、「海軍指定慰安所」「海軍指定娯楽所」に連行され、性的な業務をさせられたことが裁判書類に克明に記され、それを当時の警察、検察、裁判所がいずれも当時の刑法において、「国境を越えた誘拐罪」であると認定した。この点について、「暴行脅迫による連行」と、「言葉巧みにだました連行」とが、当時の法律の条文においても罪刑においても同様に定義されている点を戸塚氏は重視(※4)。「連行した方法は違っても、本人の真意でない点は同じ」とし、安倍晋三首相がいわゆる「狭義の強制性はなかった」と強弁している点について、方法は違えども、犯罪であることに変わりはないとの見解を示した。
(※2)
(※3)
(※4)当時の刑法は、1907年に成立した現行刑法が適用されている。
また、戸塚氏は、「違法性を大審院が認めたのだから、慰安婦制度をやめればよかった。外務省や内務省は、最初は『やめる』と言った」と述べた上で、「内務省の文書には、どうしても『軍が(慰安婦は)必要だ』と言っている、とある。橋下さんの発言(あれだけ銃弾が飛び交う中、精神的に高ぶっている猛者集団に休息を与えようとすると、慰安婦制度が必要なのは誰だって分かる)と一致する」と述べた。
戸塚氏は、慰安婦制度について、募集の際の運用過程に抜け穴があり、規制が形骸化していた点を指摘。さらに、慰安婦制度そのものが、軍や兵士にとって、祖国で「銃後の守り」に徹している家族や恋人には決して明かすことのできない、恥ずべき秘密であったこと、さらに、内務省も軍も、「慰安婦」の募集であることを承知で応募した女性に対して、仕事内容を「売店」や「食堂」と公言するように強要したり、慰安所を設置する業者や移送業者に対し、軍が緘口令(かんこうれい)を敷いたりしていたことを指摘した。
また、問題が発覚しないよう、現地の憲兵や警察への根回しをするように通達を出すなどしていたとも指摘した。その上で、「彼ら(軍・業者・兵士)も合法だとは思っていない。やっていることは全て違法だとわかった上で、全てのものをだましてきた」とした。
戸塚氏は、「朝鮮人慰安婦の証言では、ほとんどがだまされて連行されているし、半数以上が20歳以下である」とし、「長崎の日本人女性の証言と酷似している」とも指摘した。また、1924年に国際連盟が、公娼制度を「奴隷(人身売買)の温床になる」として廃止するよう、加盟各国に勧告したことを紹介し、「日本にも国際連盟から調査団が来たが、当時の日本政府はいろんな嘘をつき、防御した記録が出てきている」とし、「その時代と、慰安婦問題を否定し、違法ではないと主張する現在の状況とは、非常に似ている」と指摘した。
岩上は、慰安婦制度について、「軍はどうしてもそれが必要なんだ、それがなくては作戦遂行がうまくいかないんだと言うのなら、早い話が、そんな作戦遂行もできないような戦争なんか、やめればいい」と指摘した。
◆「韓国併合は無効」であるとの見解を示す
戸塚氏は、1910年に日本が行った韓国併合について、「日本の常識では、韓国(当時は大韓帝国)側が希望したので、韓国を日本の一部にしてあげようといって併合したことになっている」とした上で、実際には、それは事実ではなく、必ずしも韓国側が併合を希望したものではないという根拠を複数示した。
これによると、国連総会の下部組織である国際法委員会(インターナショナル・ロー・コミッション)が1969年に採択した「条約法」に、「国家の代表個人に対する強制があった場合、締結した条約は無効」という規定がある。この条約法の起草段階のものとして、1963年に国連総会に提出された書類の中に、1905年の韓国保護条約について、「無効とする規定に該当する」旨が記述されていることを戸塚氏は指摘した。その理由として、条約締結にあたって、日本軍による韓国閣僚や皇帝本人への強制があったとの見解を示した。また、戸塚氏は、保護条約が国際法上において無効という前提に立てば、保護条約によって日本側が設置した統監府および、天皇が任命した統監によって韓国側と結んだ韓国併合条約が、無効になるとの見解を示した。
加えて、歴史学者の李泰鎭(イ・テジン)ソウル大学教授の証言として、日韓両国に保管されている保護条約の原本のうち、英語版には「コンベンション」というタイトルがついているのに、日本語版と韓国語版にはタイトルがついていない点や、日本の外務省が公開している条約集にはタイトルがついているという奇妙な事実を指摘し、「偽造、捏造といわれても仕方がない」と語った。
また、原本について、「実際には、原本ではなく原案である可能性もある」とした上で、「この原本には、日本側も韓国側も、外相が署名し押印している。ところが、日本の憲兵が、本来ではない(正式ではない)印鑑を持ってきて押印させ、無理やり署名させた」とし、「その際、韓国の首相が、卒倒するほど反対した」と述べた。
同じく、李教授の証言として、保護条約締結の最終手続きとして必須となる、韓国側の高宗(コジョン)皇帝と、日本側の天皇とによる「批准書」が、日韓両国から見つかっていないことを指摘した。この問題を報じたNHKの番組において、歴史学者の海野福寿(うんのふくじゅ)氏が、「当時は『略式』という手続き方法があり、批准は不要だった」との見解を示したことについて、戸塚氏は、独自調査によって、海野氏のいう「略式」の見解に誤認があることや、統監府の初代統監だった伊藤博文の事実上の秘書官で、保護条約締結にも関与した倉知鉄吉が、「批准は必要」との立場を採っていること、また、いわゆる「ハーグ密使事件」において、オランダ政府高官が、皇帝による批准の有無を重視していたこと、さらに、当時の国内外の権威ある国際法学者が、一人残らず「批准は必要」との見解であることを詳細に語った。
加えて、戸塚氏は、伊藤博文が統監の任務を終えて帰国した際に、天皇に提出した復命書(報告書)についての問題点を指摘した。これによると、国立国会図書館の憲政資料室に保管されている、枢密院事務局長の都筑馨六(つづきけいろく)が「高宗皇帝が(批准を)ぐずっていたが、最後は理解し同意した」との主旨を書いた原案において、「皇帝が同意しなかった」という記載を消した痕跡が残っていることを挙げ、「(伊藤博文から)天皇が嘘を聞かされていたのが真相だと思う」と述べた。さらに、大韓帝国最後の純宗(スンジョン)皇帝の遺言に、「私は併合条約に批准しなかった」との主旨の記述があることも紹介した。
これらのことから、戸塚氏は、「1905年の韓国保護条約は無効である。これを基に作られた1910年の韓国併合条約も無効である」とし、特に、「併合条約自体にも批准書がない。批准がなければ条約は効力がない。やはり、無効だということを認めないといけない」と力説した。その上で、「日本の外交は、最初の段階から嘘で固められてきた。一番大事な、『同意したか、していないか』のところでさえも嘘。しかも、『批准がなかったら無効』とわかっていたはずなのに、立派な国際法の学者でさえも沈黙した」と厳しく批判した。
さらに、戸塚氏は、「日本は、不当性を認めなければいけない。不法な占領下で起こした慰安婦問題についても、国際条約や国内法において犯罪だったと認めなければならない」とした。その上で、日本の採るべき針路について、「かつて、私たちの国は、命をものすごく膨大に奪った。それを認めて反省し、これからは命を大事にする、被害者にしっかりと謝る、国際条約を全て守る、個人通報権条約も批准する、これこそが、日本が『病気』から立ち直るプロセスだ」と強調した。
このほか、戸塚氏と岩上は、豊臣秀吉が引き起こした朝鮮侵略や、明治維新期の志士らによる征韓論の台頭、さらに、「万葉集」の時代から繰り返されてきた、「お国のため、天皇のために命を捧げる」といった、国家の権力者のために命を犠牲にすることを過剰に美化する日本の「文化」などについても、幅広く意見を交わした。
【文中一部敬称略・IWJテキストスタッフ久保元】
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