2013年8月1日記者発表された「ネット依存」に関する研究は厚生労働省がしたものではない。[2013年08月05日(Mon)]
不登校・ひきこもりをしている子どもたち・若者たちにとって、インターネットは必需品である。
インターネットで社会と繋がり、様々な事ができる可能性を持っている。
しかし大人たちは、パソコンや携帯を長時間見続けている姿を見て、ゲームばかりやってとか昼夜逆転しているとか否定的な事を言うことが多く、公的・民間問わず相談機関に相談すると、「携帯やパソコンを取り上げましょう」みたいな話にもなっている。
「ゲーム・パソコンばかりやっていて心配だ」という話は、ずいぶん昔からあって、「不登校あるある」みたいなものである。
実際にインターネットやゲームをした事のない大人たちが、自分ができないので理解できないだけのような感じがするが、ネットやゲームを問題視する事はなくならない。
ゲームと言えば、昔「ゲーム脳」という考え方があって、沖縄県外ではとっくの昔に科学的根拠が無いとされている。
(まだ一部の支持者はいるが)
沖縄県外でゲーム脳が相手にされなくなった頃、沖縄県内でゲーム脳に関する講演会が開かれ、沖縄県に「ゲーム脳」の考えが上陸した。
恐らくどこかの公的機関が講師を呼んだのだろうが、沖縄県にすっかりゲーム脳が定着してしまった。
不登校の相談をすると相談員から「パソコン・携帯を取り上げる」アドバイスをもらっている親御さんがいるようなので、まだまだゲーム脳の考え方は沖縄県では生きているのだなぁと思っていた。
そこに出てきたのが、「ネット依存」という話である。
2013年8月1日に記者発表された「ネット依存、中高生51万人 「病的」、睡眠障害の恐れ」との報道で、このニュースはテレビ・新聞で次々と報道され、ツイッター上でも拡散された。
ネット依存:中高生51万人が「病的な使用」
毎日新聞 2013年08月01日 20時11分(最終更新 08月01日 21時09分)
http://mainichi.jp/select/news/20130802k0000m040048000c.html
ネット依存の中高生51万人 厚労省研究班 2013年8月1日 17時45分 沖縄タイムス
http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-08-01_52370
琉球新報社説 ネット依存 「情報教育」が必要だ 2013年8月3日
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-210468-storytopic-11.html
この「ネット依存」の研究が厚生労働省の調査・研究であるという報道のされ方だったため、信じてしまった方が多かったのではないかと思われる。
本当に厚生労働省の調査・研究だったのか、厚生労働省の公式ホームページで元の資料を探すが、報道記者発表のところにもどこにもニュースの元になる記載が無かった。
そこで、月曜日を待って厚生労働省に直接聞いてみることにした。
2013年8月5日(月)午前(10時から10時半頃)、厚生労働省に電話、担当のがん対策・健康増進課の担当者が電話に対応してくれた。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Organization?class=1050&objcd=100495&dispgrp=0090
すぐに「ニュースにあるような研究は、厚生労働省がしたものではないので、研究者に直接聞いてほしい。電話番号を教えるから」と言われた。
恐らく、他にも問い合わせがあったのだろう、すらすらと返答があった。
他の問い合わせをした方々は、そこで研究者の電話番号を聞いて終わったのかもしれない。
しかし、研究者に電話をして発表した研究内容の資料を請求したところで、研究者は「私の研究は間違いない」というのは目に見えているし、それなりの資料は出てくるかもしれない。
こちらが問題にしているのは、厚生労働省がどこまで関与しているかどうかである。
国としての発表と思っている人は報道内容を信じてしまうし、内容を精査しなければいけない。
しかし、個人的な研究であれば、何をやっても基本的には許されるし、それにとやかくいう筋合いはない。
そんなところをいくつか担当者に聞いてみた。
いくつかの質問の答えは次の通り
・8月1日に発表したのは、厚生労働省ではなく、研究者が独自で発表したもの
・タバコやアルコールなどの依存に関する研究のおまけ的なものが
「ネット依存」だった。
・「ネット依存」の研究は厚生労働省がしたものでもないし、どこかに
委託したものでもない。
「厚生労働省研究班」というのはうそ。
・公募をかけて、それに応募があったものを委員会の先生方に審査して
いただき、採択された研究費補助事業である。
ホームページは、
ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 他分野の取り組み > 研究事業 >
平成25年度 厚生労働科学研究費補助金の概要
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/hojokin-koubo-h25/gaiyo/index.html
「T.厚生労働科学研究費補助金の目的及び性格
厚生労働科学研究費補助金(以下「補助金」という。)は、「厚生労働科学
研究の振興を促し、もって、国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛
生等に関し、行政施策の科学的な推進を確保し、技術水準の向上を図ること」
を目的とし、独創的又は先駆的な研究や社会的要請の強い諸問題に関する研究
について競争的な研究環境の形成を行い、厚生労働科学研究の振興を一層推進
する観点から、毎年度厚生労働省ホームページ等を通じて、研究課題の募集を
行っています。
応募された研究課題は、事前評価委員会において「専門的・学術的観点」や
「行政的観点」等からの総合的な評価を経たのちに採択研究課題が決定され、
その結果に基づき補助金が交付されます。」
厚生労働科学研究費補助金公募要項平成25年度厚労省.pdf
該当するのは次のところ
↓
6.生活習慣病・難治性疾患克服総合研究事業 ..................................... 55
(1)循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業 ........................ 55
・研究の内容に関しては、厚生労働省は関与していないし、国としても介入は
できない。
自由に研究するものである。
・研究費補助事業「ネット依存」の報告書は、2014年5月に発表される
予定であり、現時点のものは研究途中のものである。
・研究途中のものであっても、研究者が独自に自由に発表する事はこれまでも
あり、今回も自由に発表されたもの。
・この研究は途中のものであるので、論文はまだ発表されていないのではないか。
したがって、当然査読はされておらず、研究内容の検証はされていない。
・研究者は、何を研究するのかは自由であり、発表も自由である。
その発表をニュースにするかしないかは、報道機関側が判断することであって、
科学的に根拠があるかどうかを見極めるのは報道機関側の問題。
・あたかも厚生労働省がした調査・研究のように報道された事は、誤報である。
以上が、担当者の話。
つまり、厚生労働省は、研究費補助金を出したけれど、研究内容については知らないし、それが科学的根拠がなくても厚生労働省には責任はない。
あくまでも、研究者が自由に研究して、勝手に発表しただけの事。
研究途中であり、正式な報告書や論文が出ていないのであれば、現時点で否定も肯定もできない。
すでに、この研究発表をもとに、対策を講じろという報道があるが、それに踊らされてはいけない。
「発表があった」というだけで飛びついて記事になったものは、その後その研究に関する報道は大概消えてなくなっている。
学会等で第三者が検証し、他の研究者も同じような結論が出ているなどの過程を経て、その研究は科学的に正しいと思われるという学説になって初めて信じてもいいかもしれない。
科学的に検証されて結論が出るまでにはかなりの時間が必要である。
だから、「ネット依存」というショッキングな言葉に惑わされないように、冷静に判断する事が重要だと思う。
ただでさえ目の前の不登校をしている子どもの事を理解できず、おろおろしている親にとって、「ネット依存」のニュースを信じた実家・家族・知人・相談機関の相談員等からさらに不安を掻き立てられることになったら、ますます子どもとの距離が遠くなることだろう。
ここは冷静に対応していただきたいと思う。
国や地方自治体の行政職員がたびたびおかしな事をすることはある。
しかし、別にかばうわけではないが、今回の「ネット依存」の事も報道内容に誤りがあり、厚生労働省の職員はお気の毒としかいいようがない。
今回もまた、「確認することって大事」を実感した。
確認し過ぎる事は無い。
どんな肩書きの人が言った事でも確認することは必要。
「ネット依存」についてネットで調べたり、厚生労働省のホームページで確認し、担当者の話をこうやってブログに書いていると、それだけでも3・4時間はすぐに過ぎる。
「ネット依存」と大騒ぎしているが、子どもたち・若者たちもただぼーっとネットを見ているわけではなく、何かしら頭を働かせつつ見ているのだから、簡単な項目で判断はできない。
報道にもあるが、「ネット依存」の診断基準はないとのこと。
病的かどうかを判断するには、やはり医療従事者の中で共通の診断基準がなければ困る。
2013年5月。アメリカ精神医学会の診断基準DSM(精神障害の診断と統計の手引き)が19年ぶりに改訂された。
この診断基準は世界中で使われており、日本でもこのDSMを使っている。
内容が発表されたばかりで、日本国内でどこまでどうなっているのかはわからない。
改訂されたものは、DSM-5と呼ばれるもので、この中に「ネット依存」がどのように位置づけられているのか、どなたか調べていただけるとありがたい。
まあ、仮にDSMの中に「ネット依存」が入っていたとしても、8月1日に発表された研究内容が妥当なものかどうかは別の問題で、これまた検証が必要。
まだまだ未確認な情報に、簡単に飛びつくのはやめて冷静になろう。
インターネットで社会と繋がり、様々な事ができる可能性を持っている。
しかし大人たちは、パソコンや携帯を長時間見続けている姿を見て、ゲームばかりやってとか昼夜逆転しているとか否定的な事を言うことが多く、公的・民間問わず相談機関に相談すると、「携帯やパソコンを取り上げましょう」みたいな話にもなっている。
「ゲーム・パソコンばかりやっていて心配だ」という話は、ずいぶん昔からあって、「不登校あるある」みたいなものである。
実際にインターネットやゲームをした事のない大人たちが、自分ができないので理解できないだけのような感じがするが、ネットやゲームを問題視する事はなくならない。
ゲームと言えば、昔「ゲーム脳」という考え方があって、沖縄県外ではとっくの昔に科学的根拠が無いとされている。
(まだ一部の支持者はいるが)
沖縄県外でゲーム脳が相手にされなくなった頃、沖縄県内でゲーム脳に関する講演会が開かれ、沖縄県に「ゲーム脳」の考えが上陸した。
恐らくどこかの公的機関が講師を呼んだのだろうが、沖縄県にすっかりゲーム脳が定着してしまった。
不登校の相談をすると相談員から「パソコン・携帯を取り上げる」アドバイスをもらっている親御さんがいるようなので、まだまだゲーム脳の考え方は沖縄県では生きているのだなぁと思っていた。
そこに出てきたのが、「ネット依存」という話である。
2013年8月1日に記者発表された「ネット依存、中高生51万人 「病的」、睡眠障害の恐れ」との報道で、このニュースはテレビ・新聞で次々と報道され、ツイッター上でも拡散された。
ネット依存:中高生51万人が「病的な使用」
毎日新聞 2013年08月01日 20時11分(最終更新 08月01日 21時09分)
http://mainichi.jp/select/news/20130802k0000m040048000c.html
ネット依存の中高生51万人 厚労省研究班 2013年8月1日 17時45分 沖縄タイムス
http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-08-01_52370
琉球新報社説 ネット依存 「情報教育」が必要だ 2013年8月3日
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-210468-storytopic-11.html
この「ネット依存」の研究が厚生労働省の調査・研究であるという報道のされ方だったため、信じてしまった方が多かったのではないかと思われる。
本当に厚生労働省の調査・研究だったのか、厚生労働省の公式ホームページで元の資料を探すが、報道記者発表のところにもどこにもニュースの元になる記載が無かった。
そこで、月曜日を待って厚生労働省に直接聞いてみることにした。
2013年8月5日(月)午前(10時から10時半頃)、厚生労働省に電話、担当のがん対策・健康増進課の担当者が電話に対応してくれた。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Organization?class=1050&objcd=100495&dispgrp=0090
すぐに「ニュースにあるような研究は、厚生労働省がしたものではないので、研究者に直接聞いてほしい。電話番号を教えるから」と言われた。
恐らく、他にも問い合わせがあったのだろう、すらすらと返答があった。
他の問い合わせをした方々は、そこで研究者の電話番号を聞いて終わったのかもしれない。
しかし、研究者に電話をして発表した研究内容の資料を請求したところで、研究者は「私の研究は間違いない」というのは目に見えているし、それなりの資料は出てくるかもしれない。
こちらが問題にしているのは、厚生労働省がどこまで関与しているかどうかである。
国としての発表と思っている人は報道内容を信じてしまうし、内容を精査しなければいけない。
しかし、個人的な研究であれば、何をやっても基本的には許されるし、それにとやかくいう筋合いはない。
そんなところをいくつか担当者に聞いてみた。
いくつかの質問の答えは次の通り
・8月1日に発表したのは、厚生労働省ではなく、研究者が独自で発表したもの
・タバコやアルコールなどの依存に関する研究のおまけ的なものが
「ネット依存」だった。
・「ネット依存」の研究は厚生労働省がしたものでもないし、どこかに
委託したものでもない。
「厚生労働省研究班」というのはうそ。
・公募をかけて、それに応募があったものを委員会の先生方に審査して
いただき、採択された研究費補助事業である。
ホームページは、
ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 他分野の取り組み > 研究事業 >
平成25年度 厚生労働科学研究費補助金の概要
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/hojokin-koubo-h25/gaiyo/index.html
「T.厚生労働科学研究費補助金の目的及び性格
厚生労働科学研究費補助金(以下「補助金」という。)は、「厚生労働科学
研究の振興を促し、もって、国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛
生等に関し、行政施策の科学的な推進を確保し、技術水準の向上を図ること」
を目的とし、独創的又は先駆的な研究や社会的要請の強い諸問題に関する研究
について競争的な研究環境の形成を行い、厚生労働科学研究の振興を一層推進
する観点から、毎年度厚生労働省ホームページ等を通じて、研究課題の募集を
行っています。
応募された研究課題は、事前評価委員会において「専門的・学術的観点」や
「行政的観点」等からの総合的な評価を経たのちに採択研究課題が決定され、
その結果に基づき補助金が交付されます。」
厚生労働科学研究費補助金公募要項平成25年度厚労省.pdf
該当するのは次のところ
↓
6.生活習慣病・難治性疾患克服総合研究事業 ..................................... 55
(1)循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業 ........................ 55
・研究の内容に関しては、厚生労働省は関与していないし、国としても介入は
できない。
自由に研究するものである。
・研究費補助事業「ネット依存」の報告書は、2014年5月に発表される
予定であり、現時点のものは研究途中のものである。
・研究途中のものであっても、研究者が独自に自由に発表する事はこれまでも
あり、今回も自由に発表されたもの。
・この研究は途中のものであるので、論文はまだ発表されていないのではないか。
したがって、当然査読はされておらず、研究内容の検証はされていない。
・研究者は、何を研究するのかは自由であり、発表も自由である。
その発表をニュースにするかしないかは、報道機関側が判断することであって、
科学的に根拠があるかどうかを見極めるのは報道機関側の問題。
・あたかも厚生労働省がした調査・研究のように報道された事は、誤報である。
以上が、担当者の話。
つまり、厚生労働省は、研究費補助金を出したけれど、研究内容については知らないし、それが科学的根拠がなくても厚生労働省には責任はない。
あくまでも、研究者が自由に研究して、勝手に発表しただけの事。
研究途中であり、正式な報告書や論文が出ていないのであれば、現時点で否定も肯定もできない。
すでに、この研究発表をもとに、対策を講じろという報道があるが、それに踊らされてはいけない。
「発表があった」というだけで飛びついて記事になったものは、その後その研究に関する報道は大概消えてなくなっている。
学会等で第三者が検証し、他の研究者も同じような結論が出ているなどの過程を経て、その研究は科学的に正しいと思われるという学説になって初めて信じてもいいかもしれない。
科学的に検証されて結論が出るまでにはかなりの時間が必要である。
だから、「ネット依存」というショッキングな言葉に惑わされないように、冷静に判断する事が重要だと思う。
ただでさえ目の前の不登校をしている子どもの事を理解できず、おろおろしている親にとって、「ネット依存」のニュースを信じた実家・家族・知人・相談機関の相談員等からさらに不安を掻き立てられることになったら、ますます子どもとの距離が遠くなることだろう。
ここは冷静に対応していただきたいと思う。
国や地方自治体の行政職員がたびたびおかしな事をすることはある。
しかし、別にかばうわけではないが、今回の「ネット依存」の事も報道内容に誤りがあり、厚生労働省の職員はお気の毒としかいいようがない。
今回もまた、「確認することって大事」を実感した。
確認し過ぎる事は無い。
どんな肩書きの人が言った事でも確認することは必要。
「ネット依存」についてネットで調べたり、厚生労働省のホームページで確認し、担当者の話をこうやってブログに書いていると、それだけでも3・4時間はすぐに過ぎる。
「ネット依存」と大騒ぎしているが、子どもたち・若者たちもただぼーっとネットを見ているわけではなく、何かしら頭を働かせつつ見ているのだから、簡単な項目で判断はできない。
報道にもあるが、「ネット依存」の診断基準はないとのこと。
病的かどうかを判断するには、やはり医療従事者の中で共通の診断基準がなければ困る。
2013年5月。アメリカ精神医学会の診断基準DSM(精神障害の診断と統計の手引き)が19年ぶりに改訂された。
この診断基準は世界中で使われており、日本でもこのDSMを使っている。
内容が発表されたばかりで、日本国内でどこまでどうなっているのかはわからない。
改訂されたものは、DSM-5と呼ばれるもので、この中に「ネット依存」がどのように位置づけられているのか、どなたか調べていただけるとありがたい。
まあ、仮にDSMの中に「ネット依存」が入っていたとしても、8月1日に発表された研究内容が妥当なものかどうかは別の問題で、これまた検証が必要。
まだまだ未確認な情報に、簡単に飛びつくのはやめて冷静になろう。