社説:20年東京五輪 未来への遺産を作ろう
毎日新聞 2013年09月10日 02時31分
東京に56年ぶりに聖火がともる。
国際オリンピック委員会(IOC)の総会で東京が2020年夏季オリンピック・パラリンピックの開催地に選ばれた。
前回1964年の東京大会は高度経済成長の中で開催され、第二次世界大戦で敗れた日本が復興した姿を世界に示した。新幹線や高速道路、ホテルなどの社会資本が整備され、「今日より明日がよくなる」という時代と結びついた記憶は当時を知る人たちにとって今も無形のレガシー(遺産)となっている。
オリンピック教育充実を 20年の東京大会は東日本大震災からの復興を目指す21世紀の日本にとってどんな意味を持つのか。次代を担う子どもたちにどんなレガシーを残せるのか。少子超高齢化が避けられない社会においてどんな役割を果たせるのか。アジアの隣人である中国、韓国との関係改善に貢献できないか。東京招致決定を契機に国民一人一人が未来の社会、世界との関係について考えてほしい。
景気の回復が実感できない中、経済波及効果に期待する人は多い。招致委員会によると、全国で約2兆9600億円が見込まれている。だが、過度の期待は禁物だ。試算はパラリンピックが閉幕する20年9月まで7年間の総額で、年間平均では約4230億円。名目GDP(国内総生産、12年度は約474兆6045億円)の0・1%にも満たない。
オリンピックは景気刺激の手段ではない。近代オリンピックの創始者クーベルタンの思想(オリンピズム)に基づき、スポーツを通じた教育と平和の運動が推進される場だ。
開催までの7年間は、オリンピズムを普及させるためのさまざまな活動(オリンピック運動)について子どもたちが学ぶ機会になる。学習指導要領の改定に伴い、中学と高校の保健体育の体育理論でオリンピックなどの国際競技大会について学習するよう規定されたが、時間が少なく、教材開発も遅れている。日本オリンピック委員会はオリンピック運動の推進に向け、動画などの教材をホームページからダウンロードできるようにしてほしい。
オリンピック教育はフェアプレーの精神などポジティブな面を学ぶだけでなく、過度の商業主義や勝利至上主義、ドーピングなど負の部分を学ぶことを通してバランスのとれた判断力を子どもたちに身につけさせることが重要だ。「国民の教養」という無形のレガシーにしたい。
パラリンピックの開催に向け、障害者や高齢者に配慮したバリアフリーの都市づくりも進めたい。段差などのハード面だけでなく、偏見など心のバリアーも取り除くことができれば東京は世界のモデルになる。