知的産業の人材育成の難しさ

1年くらい前に「教えるけど育てない」って話をしたけど最近そうも言ってられなくなった。深刻な状況。

■仕事内容と要求スキルが具体的な仕事とそうでない仕事

例えば、僕がやってるゲームの仕事だとだいたい開発現場は以下の3職種に別れる。

・プランナー
 ゲームデザイナーとレベルデザイナーとディレクターとマネージャーと雑用係を一緒くたにした職種。日本特有で海外だと存在自体が理解されない。

・デザイナー
 CGを描く。海外だとゲームデザイナーの方をデザイナーと呼ぶために「アーティスト」と呼んで区別する。僕は海外に合わせてアーティストと呼ぶ派だけど本稿ではデザイナーと呼ぶ。

・プログラマー
 コードを書く人。最近だとゲームコンテンツ寄りのコーディングはゲームデザイナーに任せて、ゲームエンジン寄りのコーディングに専念するケースも多い。

他にも音楽作ったりする人やデバッグ専門のテスター等がいるが、だいたいアウトソースするので机並べて一緒に仕事するのはだいたいこれら3職種。
この中で、デザイナー、プログラマーは仕事を請け負う時点で仕事内容が具体化され、その要求スキルと現在の自身のスキルを比較して足りなければ必要なスキルを見につけるという事が誰にでもできる。(できない人は採用されない。)

問題は「プランナー」で、開発工程の上流に位置するために自分で自分自身やデザイナーやプログラマーの仕事の内容を決めなくてはならない。その場合、自分のスキル以上の仕事内容を考える事ができず、具体化が足りない場合は、デザイナーやプログラマーが気をきかせてなんとか解決してしまう事が多いので、結果として本当に何もできないプランナーが出来上がる。また、本来別職種として扱うべき所を一括りにされてるため、採用時点でもどんな仕事をさせるか決まっておらず必要スキルの有無の判定も行う事ができずそのような何も出来ないプランナーが現場に入って来てしまう事が多い。

このゲーム開発現場における「プランナー問題」はIT業界の「システム・エンジニア」にもあてはまったりしないだろうか?

■自主性に任せるのは「罰則のない根性主義」

仕事内容が具体的で、要求スキルと自身のスキルの比較も容易な職種に関しては自主性に任せても、というより自主性なんかなくても基本的な職能の範中を逸脱しない範囲で色んな種類の仕事やらせればどんどんスキルアップすると思う。(デザイナーならば絵を描く、プログラマーならばコードを書くという所から外れなければ。)

しかし、このプランナーのように仕事からスキルアップのきっかけを見つけるのにも1つの能力が必要とされる職種の場合、適切な指導なしに自主性に任せた所でその自主性はとはもはや「やる気」や「根性」と同義にしかならない。自由で明るい社風を重視して、入社直後のちょっとした研修が終われば上下関係を出来るだけ排し、のびのびとやらせてる会社がある。けどそういう現場では結局人の仕事を観察してスキルを盗むやる気と根性のある人だけが成果を上げる。その一方で勉強のしかたが分からない、スキルアップの機会を見つけられない、自分に何が足りないか分からない人は、分からないままやがて根性なしの烙印を押される。

「こんなに自由に仕事できる環境でスキルアップしないのはやる気がないから。」

違う。指導がないから。

■”WHY?”の意識

では具体的にどのような指導をすれば良いか。ゲーム開発現場のプランナーで精度の低いあやふやな仕事をする人に多いのが「何をいつまでに」は分かっても「何故そうするのか?」を考えないケース。画像ファイルをデザイナーから受け取りプログラマーに渡す仕事1つとっても、何故そのファイルフォーマットなのか、何故その画像サイズなのか、何故必ず画像を正方形サイズにしなければならないのか、何故そのファイルの中心座標に絵の中心を合わせなければならないのか、なぜ一見1つに見える画像ファイルを複数のパーツに分けるのか、何故納品が遅れたのか。何故ファイル名を間違えたのか。このような細かなWhyの確認を上司と本人とで一緒にやる。毎日あらゆる仕事についてやる。

これらのWHYを理解する事でWHAT(何を?), WHEN(いつまでに?), WHO(誰が?), HOW(どのように実装?), WHERE(成果物はどのディレクトリに置く?)といった仕事の精度が高まる。

■いつまで使い捨てを続ける?

結局このような細かな指導にはそれなりのコストがかかるし、「こんな仕事の基本が分からないなら専門学校に学費払って教えてもらえ」と言いたい気持ちも分かるが、現に分からない人が多い以上、そういう人が分からないまま3年くらいで仕事を辞めて行く以上、必要コストとして考え直した方が良い。(そもそも採用したのはあなた達でしょう?)プランナーが未熟なまま放置されるのは管理者もプランナーの肩書きで色んな事やらされてる事に原因があったり、同時に解決しなきゃいけない問題は他にもあるが、基本的に自分のキャリアの事しか興味ない僕が危機感を覚えるくらいにはプランナーという職種の問題は深刻である。クリエイターとしての心構えみたいな精神論はどうでも良いからまず普通に仕事できる人を育てて欲しい。

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