「ネット中立性」規則巡るベライゾンの提訴、口頭弁論開始へ

    By
  • RYAN KNUTSON AND SHALINI RAMACHANDRAN

[image] Associated Press

光ファイバーケーブルを設置するベライゾンの技術者(昨年12月)

 米当局は、インターネット上のトラフィックを平等に取り扱う力量を試されることになる。

 首都ワシントンの連邦控訴裁は9日、連邦通信委員会(FCC)が2011年に導入した「ネット中立性」規則に米ベライゾン・コミュニケーションズ(NYSE:VZ)が異議を唱えた提訴について口頭弁論を開始する。過去3年で2回目となるこうした紛争は、ウェブ運営において長く続いてきた慣行と、新しい収益源を発掘し、コスト回収の改善を図ろうとする通信事業者とのせめぎ合いでもある。

 この紛争の中核的な背景には、コムキャスト(Nasdaq:CMCSA)やベライゾンなど高速インターネット接続(ブロードバンド)サービス会社に対し、FCCが一部のネットサービスを優先しないよう命じる権限や、動画などデータ量の大きなトラフィックの取り扱いにかかる料金や速度の調整を命じる権限があるかどうかといった問題がある。

 FCCは、適切なネットワーク管理を除いて、一部のサービスを優先すればインターネットの繁栄をもたらした開放性が脅かされると指摘する。ベライゾンは、FCCは権限を逸脱していると主張している。

 より広い意味では、グーグル(Nasdaq:GOOG)やフェイスブック(Nasdaq:FB)などインターネット企業と、ベライゾン、コムキャストなど通信キャリアとの、急増するウェブトラフィックの価格設定や利益を巡るバランスの均衡が争点となっている。

 ネット中立性を巡る権限に関する係争では、FCCは10年にコムキャストが同裁判所に提起した同様の訴訟で敗訴した経緯がある。

 FCCが再び敗訴すれば、従来の固定電話線からインターネット通信にシフトする中、規制面で足がかりを見いだそうとするFCCの試みが著しく後退することになる。

 首都ワシントンのシンクタンク、ニュー・アメリカ・ファウンデーションのディレクター、ジーン・キンメルマン氏は「(FCCが敗訴すれば)克服できないわけではないが、大幅な後退につながり、差別的慣行を防止するために残された権限をどのように用いるかゼロから再検討することになろう」と述べた。同シンクタンクはネット中立性の規則を巡りFCCを支援している。

 これまで、ネット中立性の問題は少数の軽度な紛争にとどまってきた。しかし、ケーブルテレビ(CATV)・携帯電話サービス事業者が契約数の伸び鈍化に直面し、新たな収益源を求めるなか、より大きな疑問が持ち上がっている。

 リバティメディアのジョン・マローン会長を含む複数のケーブル会社幹部は、ネットフリックス(Nasdaq:NFLX)などコンテンツプロバイダーに対し、そのネットワークを通じて契約者世帯にトラフィックを送信する際に用いる容量について料金を徴収することに関心を示した。

 今年に入ってリバティがケーブル運営会社チャーター・コミュニケーションズ株式を大量取得することを主導したマローン氏は、6月に「リードはその経済モデルに使用している容量のコストを盛り込むべき」と述べた。

 マローン氏が言及しているのはネットフリックスの最高経営責任者(CEO)、リード・ヘイスティングス氏。ネットフリックスの動画ストリーミングサービスは、北米における毎晩のインターネットトラフィックの3分の1前後を占める。

 マローン氏は、自身がケーブル業界の統合を推進する大きな理由として、ケーブル事業者が手を結ぶことで有力なブロードバンド事業者として影響力を高めることが可能になると述べた。

 ネットフリックスの広報担当者は、「ラストマイル」のブロードバンド事業者に転送料を支払う意思はないとし、「消費者がインターネットサービス事業者にとって驚異的に高収益な事業である高速インターネット接続に料金を支払う」理由は「ネットフリックスのようなサービスを得るため」と述べた。また、ネットフリックスはすでにブロードバンド網の効率性を向上するためインフラに投資し、動画ストリーミングの提供を改善するため事業者に特殊サーバーを提供していると指摘した。

 同様の動きはモバイル分野でも起きている。ベライゾン・ワイヤレスやAT&T(NYSE:T)の幹部は、「1-800」(無料通話)方式のようにコンテンツ事業者がデータ転送コストを支払う取り決めに関心を示している。各社はワイヤレスデータの収入増を目指しているが、契約者に支払う意思のあるものを巡る制約に直面している。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは今年、ウォルト・ディズニー(NYSE:DIS)が過半数株を保有するスポーツチャンネルESPNが大手通信事業者1社以上との間で、ESPNモバイル動画を視聴するユーザーがその利用を巡って月次のデータ料金に加算されることを心配せずに済むよう、ワイヤレスデータ料金の補助について協議したと伝えた。こうした問題は、今回の訴訟結果に左右される可能性もある。

 通信会社は長年にわたり、いわゆる「コモンキャリア」規則に基づく規制の対象になってきた。つまり、各社は法律によってすべての米国人に通話へのアクセスを提供し、競合他社が生んだトラフィックに自社のネットワークを開放することが義務づけられている。

 だが、FCCはインターネットを別に取り扱い、ブロードバンド事業者にコモンキャリア規則を適用しなかったため、事業者はネットワークへのアクセスを確保する必要がなかった。しかし、当局はネット中立性を推進しており、05年には事業者は合法なインターネットコンテンツを阻止および差別することはできないと宣言していた。

 2年後には、コムキャストはファイル共有プログラムのビットトレント(BitTorrent)へのアクセスを制限しているとして、FCCから処罰された。それに対し、コムキャストは、厳しく迅速な規則作成手順を踏まなかった政策の下ではFCCに処罰する権限はないと提訴した。10年にはワシントン控訴裁がコムキャストに有利な判決を下した。その際、今回のベライゾン訴訟でも判事の1人を務めるデビッド・タテル判事が法廷の意見書を作成した。

 FCCは係争中、「オープン・インターネット・ルールズ」として知られる新しい規制を策定した。

 ベライゾンはこうしたルールに単独で挑んでいる。主要競合3社であるAT&T、TモバイルUS(NYSE:TMUS)、スプリント(NYSE:S)はいずれも規則を支持している。コムキャストは、NBCユニバーサルをゼネラル・エレクトリック(NYSE:GE)から買収する際、FCCの規則を少なくとも18年まで順守することで合意した。

 この規則は、ブロードバンド事業者による合法なトラフィックの阻止を防げるほか、ネットワーク管理慣行の情報開示を義務づけるもの。コムキャストやベライゾンの光ファイバーサービスFiOSなど固定線サービスも、トラフィックの減速や劣化につながる「不適正な差別」を回避しなくてはならない。モバイルブロードバンドの規則はそれよりも緩く、不適切な差別を回避する義務はない。これは、モバイルネットワークの競争が激しく、技術面でも厳しい制約に直面しているためだ。

 ベライゾンは、自社のインターネットサービスを実質的に規制するルールはコモンキャリアに対するもので、FCCは依然としてこうしたルールを適用する権限を持たないと主張している。

 一方、FCCは法廷に提出した文書の中で、ルールは妥当で、この訴訟は単なる「コムキャストの再放送(再現)」ではないと主張した。また、ルールはコモンキャリア規制をインターネットサービスに拡張するものではないと指摘した。さらに、ブロードバンド事業者がウェブ出版主からの支払いを義務づければイノベーションを妨げることになると警告。「次のグーグル、フェイスブックは決して始まらない可能性もある」と述べた。

Copyright © 2012 Dow Jones & Company, Inc. All Rights Reserved

本サービスが提供する記事及びその他保護可能な知的財産(以下、「本コンテンツ」とする)は、弊社もしくはニュース提供会社の財産であり、著作権及びその他の知的財産法で保護されています。個人利用の目的で、本サービスから入手した記事、もしくは記事の一部を電子媒体以外方法でコピーして数名に無料で配布することは構いませんが、本サービスと同じ形式で著作権及びその他の知的財産権に関する表示を記載すること、出典・典拠及び「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版が使用することを許諾します」もしくは「バロンズ・オンラインが使用することを許諾します」という表現を適宜含めなければなりません。

www.djreprints.com