日本企業と中国の関係が専門の田代秀敏・BBT大学教授が語る。
「私の分析では、日本企業が採用した中国人社員が次々に"スパイ化"していく最大の理由は、人事の問題にあります。日本企業は彼らを、日本人と同等に幹部候補として育成することは決してしません。そのため、昇進が遅いことに強い不満を持つ中国人社員たちが、愛社精神を失って、スパイ化していくという構図です」
北京在住の日本人弁護士も続ける。
「日本企業も、共産党幹部の子弟などを積極的に採用しているのだから、企業秘密が中国当局に渡っても文句は言えません。例えば、唐家璇元外相の息子は日本の大手広告代理店の社員ですし、商社などにも共産党幹部の子弟が少なからずいて、彼らは習近平主席ら『太子党』(革命元老の子弟)をもじって『社内太子党』と呼ばれています。日本企業としてはこうした子弟を社員にして、共産党とのパイプを作ろうとするわけです。
実際は『社内太子党』には、ドラ息子が多いのですが、中には優秀な人材もいます。例えば、東レは『社内太子党』のおかげで、不可能と思われた100%独資の中国現地法人の認可を得て、業界を驚かせました。
日本企業は、優秀な中国人社員ほど、社業拡大に役立つこともあるけれども、逆に国家的な産業スパイに変身するリスクもあるということを、熟知しておくべきです」
さらに最近、日本企業を悩ませているのが、中国からと思しきサイバー攻撃の問題だ。近著に『中国の情報機関』がある柏原竜一氏が語る。
「'11年9月には、三菱重工業の神戸造船所、長崎造船所、名古屋誘導推進システム製作所など計11ヵ所で、サーバー45台と、パソコン38台が、外部のハッカーによりウイルスに感染するという事件が起こりました。同様の攻撃は、IHIと川崎重工に対しても行われています。
この事件は、中国人民解放軍総参謀3部と4部が共同で犯行に及んだ可能性が高い。3部は通信傍受を担当し、4部はサイバー戦を担当しています。特に国家機密を扱う日本企業が、いま最も警戒すべき組織と言えます」
サイバーテロに関しては、6月にオバマ大統領と習近平主席との米中首脳会談が開かれた際にも、オバマ大統領が強く抗議した。これに対して習主席は、「わが国も被害者である」と強弁している。
前出の田代教授が続ける。
「中国は悪意を持って襲ってくるので、日本企業の側もそれを予期して防衛しなければなりません。しかし日本企業は、IT関連の設備投資を長年怠ってきた結果、中国人によるサイバー攻撃をブロックできないし、そもそも情報を盗まれたことすら気づかないこともあるほどです。