いまや世界最大の白物家電メーカーに成長した海爾集団は、昨年3月、京都市内に洗濯機の研究開発センターを開設した。その際、パナソニックやシャープなどの技術者を、百人規模でヘッドハンティングしたことが、地元で話題を呼んだ。
海爾集団は来年秋には、埼玉県熊谷市に、1・6haの研究開発センターを建設する予定だ。今度は東京近郊に住む大量の技術者のヘッドハンティングを狙っているわけである。
防ぐ方法はない
また、日本企業の中国事業展開に関する情報も、中国当局にとって、必要な情報とされているようだ。上海の大手日系企業の総経理(社長)が明かす。
「私が片腕として上海に同行させた日本採用の中国人幹部社員が、怪しい言動を見せるのです。2年前の東日本大震災の直後には、『被災した東北工場を中国に移転させるのか、それとも台湾や東南アジアに移転させるのか』ということを、執拗に聞いてきました。彼は昨年秋には、『尖閣問題で中国の工場を撤退するかどうか』ということを、やはりしつこく聞いてきました。そこまでは、業務上の関心事と思って、正直に答えていました。
しかし最近は、『本社の役員で安倍首相に反感を持っている人はいないか』とか、妙なことを聞いてくるのです。そこで、上海日本総領事館の知人の外交官に、非公式に相談したところ、『その男は中国当局のスパイに間違いない』と指摘されたのです」
北京の中国日本商会幹部も証言する。
「楽天、GREEなど、一時は日の出の勢いだった日本企業が、最近はどんどん北京から撤退しています。これによって大量の中国人の現地社員が失業し、社会不安の要因となっている。そのため中国当局としては、撤退情報は事前に入手したいのです。それで、撤退の噂が出ると、その社の中国人社員に接近していくという構図です」
現在、中国人を本社で正規社員として雇用する日本企業も、急速に増加している。法務省によれば、'11年には5344人の中国人留学生が、留学終了後、本国へ帰らずに、日本企業に就職している。
だがこうした優秀な中国人社員たちが、中国当局に、次々にピックアップされていっているのである。これまで発覚したケースから推定すると、最初はカネをチラつかせ、それでも動かないと、今度は法治国家では考えられない社会主義国家特有の脅しに出るというパターンだ。
こうした硬軟両用の手法によって、中国人社員たちは、いとも簡単に「転ぶ」というわけだ。
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