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整体師な彼女
作者:楓蘭 仁
「もうちょっと左……」

「ここ?」

「あー…そこそこ…」








今日もまた、俺は整体術、簡単に言うとマッサージの練習台にさせられている。
今日は布団の上にうつ伏せに倒され背中の指圧。



あっ、そこいいね。ちょーきもちいー。



そして、気分を出す為だと言い張り、制服(自前)、そしてネームプレート着用の彼女。
少しふくよかな胸にしっかりと、
浜野蓮華はまのれんか」と書いてある。





端から見ると怪しまれそうな、…イケない感じの行為に見えてしまってもしょうがないと思う。だけど普通に健全な事だったりするのだ。マッサージだし。








グッグッグッグッ……





ようちーん。あっ、違った違った。…井村いむら様、どこか痒いところはございませんか?」

「それは美容院だ。」

彼女のいきなりの発言にちゃんとツッコミをいれる俺。そんな俺は偉いと思う。



「また屁理屈言うんだからー。」



いやお前が根本的に間違ってるだけだからね。


と思うだけにして、黙ってマッサージを受け続ける。
なんだかんだで気持ちいいし。






グリグリグリ……モミモミモミ……



………やばい、眠たくなってきた…



意識がどんどん遠のいて………















ゴリッ!!



嫌ぁーな音と共に





「!!!ぎゃあぁぁぁぁ!!?」

痛すぎて声が出た



「あ、ごめんごめん。ここは痛いのかぁー……メモメモ。」

「メモメモ。じゃねぇぇぇ!!俺の至福の時を返せや!!」

(多分涙目で)キレる俺。マジで超痛かった。

「初めに言ったでしょー?失敗する時もあるからって。」

「お前のその台詞は何回目だぁ!?そして見えないところからくる痛みってどんだけ怖いか知ってるかぁ!?あぁん!?」

一気に言う俺。



2〜3日に1回くらいの頻度で、俺のどこかをゴリッ!やらミシッ!やらする彼女。いや今日のは痛かった。本当に。



「もう同じミスはしないから、ね?」

と謝罪の申し訳なさそうな顔と笑顔が混ざった感じで言う彼女。



「……はぁー…、んじゃ、頼んだ……。」

とりあえず許す事にする。



実際彼女は同じミスは二度としていない。言われた事は、適当そうに見えてちゃんとする。それがわかってるから許す。

もう一つ、本当に謝っているのだからいつまでも許さない訳にはいかない。

彼氏として。















俺と彼女は同じ高校だった。違ったのは進路で、俺は就職。彼女は進学だった。

三年生最後の文化祭、俺はパンダの着ぐるみを着て、子供のご機嫌を取る事と、不審者の見回りをしていた。
…あの時パーじゃなくてグーを出していれば…。



交代の時間になり、ようやく自由時間。行くあてもなくふらふらーっとし、目に止まったのが



「マッサージ屋さん〜かわいい女の子がやるよ♪〜」





………完全に売り上げ対象が男であろう看板。一回800円というマッサージとしては安く、文化祭としてはクソ高い(と思う)値段。



「……休憩時間中、ねー。」



いや、上手い具合に生徒回せよ。全体の休憩時間をとるな、休憩時間を。



少し離れた所から、誰も並んでいないマッサージ屋を眺めていた
まあ…いろいろツッコミたい。……でもどうせならちょっとだけ、と興味が湧いたけど別にいーか、というどーでもいい気分だ。



ふう…と一息ついた所で、

「んっ…」

腰を少し捻ってから歩き出す。



コキコキッ!コキコキッ!



おおー、捻っただけで音がなった。ちょっと気持ちいいなー。





んぁー…とか言って歩いていると









「…ふっ、兄さんこってますねぃ…」





背後からいきなり聞こえてきた声





「おおぉう!?」

結構ビビってしまった。



「そんなに驚かなくてもー。……結構こってるみたいだねぇ。」

そう言って俺の体をペタペタ触ってくるちっこい女。…誰?…いやその前に

「…なんか用か?」

一歩離れてから聞く。

「いやねー、体がかわいそうだからマッサージしてあげよっかー?と思って。」

私そこの従業員さんだから。とマッサージ屋を指差しながら言う女。

「…別にいーよ。休憩時間中なら休憩しとけ。」

じゃなっ
と軽く手を上げ立ち去ろうとしたが、

「休憩時間中なら無料だよー。」

と声が聞こえてきた。

「………」

ピタッと止まる足。……タダ、か。いやでもなんでそこまでして?と考えてみるが、俺にマイナスは無さそうなのでどうでもよかった。

「……本当にタダ?」

「うん、タダ。無料。」

確認も取れた所で。

「んじゃあ、お願いします…。」



俺は、マッサージ屋さん、に入っていった。

















同じ高さの机が3つつながっている。机の上には座布団らしき物が見え隠れし、そこに白い布がかけられただけのまったくお金がかかっていない造りだった。

「じゃあそこの机、じゃなくてベッドにうつ伏せになってくださーい。」

女はそう言ってきた。
うん、今机って言ったよね?



「………」

俺は言われた通り横になる。
思ったより寝心地は良く、疲れているためか体の力がどんどん抜けていく。



「はい失礼しますよー。」



と声をかけられ、少し目を向けてみると、

「……みんなその格好でやんの?」

「ううん、これは自前。」

俺に、ナースっぽい格好を見せびらかす女。いや自前って。



「よっ、と。」

背中に手が当たる感触。

…どうせ男性客から売り上げををがっぽり稼ぐためにやる程度のものだろうな…。
と思い、正直マッサージ自体はほとんど期待していなかったが、









グリグリグリ…グッグッグッ…









素人でも、なんとなくわかるくらい……上手だ。遊びで、売り上げ目当てでやっている感じは、しなかった。





「気持ちいいー?お客さーん?」

「…あー…」

気の抜けた声でだが、返事はした。

「他の女の子はわかんないけど、私は整体師目指してるからねー。お客さん案外ラッキーだったかもねー。」

だから、か。微妙に手慣れてる感じがした。
……確かに俺はラッキー、








ゴルィッ!!









「!?あああぁぁぁぁ!!!」



じゃなかった。


「あ……ゴメンネゴメンネー。」



「やかましい!!てか今めっちゃ痛かったぞごらぁ!!ゴキッとかグキッじゃなくてゴルィッ!!って音がしたぞてめぇぇぇ!!」

日常では絶対聞かない音がした。ゴルィッ!って。



「あははー。お客さん名前はー?」

完璧にタイミングを間違えている質問。相手が男子だったら迷わずぶっ飛ばしている。

「あぁ!?井村だよ!!井村陽!!」


ムカついているがしっかり答える。うーん俺って紳士。


「私はねー、蓮華だよー。れんかさんでいーよ。陽ちん。」

ニコニコと満点の笑顔を見せる蓮華。
全体的に整ってる顔、トロンとしてる目、うなじにかかるくらいのサラサラしている髪。176cmの俺より頭一つ分近くは違う、小柄だけどしゃんとした姿勢、背筋。

……普通の感覚だったらだいたいの男はオチるんだろーが今の俺にはどーだっていーことだ。陽ちん…陽ちんて。



「…金払うから帰っていいか?」

今の怒り状態の俺の最大の譲歩だ。

「なんかイライラしてるねー?そんな時はマグネシウム!そして私のマッサージ!」

「カルシウムだ。」

そしてマッサージは全く関係ない。

「まぁまぁ、マッサージ受けてーゆっくりしなさいなー。」

モミモミモミ…と、絶妙な力加減で背中を揉む蓮華。さっきの痛みが帳消しになるくらい気持ちいい。

「うーん…陽ちん、今後も私の練習相手になってくんない?パートナーを探してるんだけどなかなか見つからないのさー。」

突然何を言うんだこの女は。

「……ワケがわからん。」

パートナーになるワケがわからん。

「いーじゃないのー。陽ちんは疲れが取れて、私は練習できて、一石二鳥。」

「国語の勉強をしなおせ。」

あぁ……こいつはこういう性格なんだ…今やっとわかった…。

「いーもーん。勝手にするからー。」

「あぁそうですか…」





喋ってる間もずっとマッサージしてくれている蓮華。やっぱこいつ…上手だ…。…これなら別に受け続けてもいいかな…部活も引退して、放課後は暇だし……。

この時俺は、練習台くらいにはなってやるか、という決心が、















ゴロィン!!!















「!!?ぎゃあぁぁぁぁす!!!」






つきそうでつかなかった。

















何日かたっての、授業が終わった直後の昼休み。
クラスメート達がガヤガヤし始める中、俺は一息ついていた。

「ふうー……っと。」

背中を思いっきり伸ばして、首を回す。
コキッと音がなりなんとなくスッキリ。





「だいぶこってるねぃ、陽ちん。にやり。」



「!!?」

びっくりして振り向く。この登場の仕方にはなんとなく覚えがある。
てか自分でにやりって言うなよ。



「げっ、バカ。違った、蓮華。」

「ひどいなー、陽ちんー。人の事バカって言った方がバカになるんだよー。全くー、そんな常識も知らないなんて、おばかな陽ちん♪」

わざとか?わざとなんだよな?ここにいるバカは?なあ?

「なんの用だ。俺の安心できる昼休みを邪魔しにきたのか?」

「だからー、勝手にするって言ったじゃん。二人の約束を忘れたのー?陽ちん?」

クラスの奴らの視線が集まる。男女問わず、だ。女子が興味の対象を見る目、男子が視線だけで人を殺せるような目。
……こいつ、案外人気あるんだなー。と、男子の視線から冷静に考えがまとまった。

「約束したでしょー?わかりやすく言ってあげよっか?」















「お金いらないから、私が気持ち良くしてあげる♪って。」















ぶほおぁっ!!
と何も口にしていないのに盛大に吹き出す俺。

キャー!ストレート!
と盛り上がりが最高潮になる女子。

………
眉間ってこんなにシワよるんだー。ってくらいの顔で無言のプレッシャーをかける男子。



「蓮華あぁぁ!!!」

蓮華の腹に腕を回し、そのままヒョイと持ち上げ俺は教室を出ていった。教室がこんなに居づらいと感じたのは初めてだ。





とりあえず、屋上に。逃げる場所の定番だ。幸い誰もいない。2人っきり。これも定番だ。



「てめぇぇぇはぁぁぁ!!!どの面下げて教室に戻ればいいんだぁぁ!?俺はぁぁ!?」

「まーまー。マグネ、じゃないね。ナトリウム足りないよー?」

もうツッコミがめんどくさい。



「本当に付き合っちゃえばいーのさー。私は陽ちんが、大好きだよ?」



こんなに運命的な、というより安っすいドラマ的な告白をされて嬉しくないのは俺だけなのだろうか。



「あ゛ーもう、いや!つかそれで状況打破できるんだったらそれでいい!!マッサージって事はお前から!みんなに話せ!!わかったか!!?」

ガシィッ!と蓮華の肩を掴んで言った。

「おーけー。彼氏の、陽ちんのためならしょうがないなー♪」









………俺はもう…頭がイタイヨ………















卒業まで、後ニヶ月ちょっととなり、卒業して県外に出ちまえば終わると思っていた。しかし、

「陽ちん就職だよねー?卒業したらどこ行くのー?」

「……都心だ。○○町の会社に入って寮に住むつもりだ……。」

「おぉー、運命だー。私の専門学校の寮と一緒だー。よろしくねー陽ちーん。」



俺はこの日から神様を嫌いになった。





















そして今。うつ伏せだ。
今日は腰付近を重点的にするらしい。

「陽ちーん、聞いてー。」

「何?」

「私指圧テスト92点だったよー。これが92点の指圧なのだー。」

グッグッグッ……
と丹念にマッサージを続ける蓮華。……全然悪い気はしない。

「まぁ…頑張って、な。」

素っ気なく言う俺。

「私、自分でお店開いたらねー、整体、に新ジャンルを加えたいのー。」

初耳だ。少し気になる。

「…どんなん?」

一応聞いてみる。



蓮華は、まずは…と呟き



「お帰りなさいませーご主人さ」

「却下。」

言い終わる前に却下。



「じゃー…ご飯?お風呂?それともわ、た」

「いやマッサージしてもらいにきたんだろ客は。」

すかさずツッコミ。





「陽ちん私の肩揉んでー。」

話の脈絡が全くない蓮華。でもこれくらいもう気にしない俺。

「……ほら、後ろ向け…」

後ろを向かせ、

モミモミモミ……



「あぁ〜…陽ちーん…92点の私が91点をあげよう。」

お前よりは下なのね。

「…92点が100点になったらお願いしていいか?」

なんとなく言った言葉。

「100点になってもだよー。恋人なんだからー。」

「あぁ、そう。」

へへへーと笑う蓮華。

















俺はこんな彼女が、








だんだん好きらしい












Fin
ノリで書き上げたちょっと実話シリーズ第5弾。ここまで阿呆ではありませんが、作者にも似たような友達がいます。……あいつは今どうしているのだろうか…。「いつかヤられるかもしれない俺」が1000Hitしました。めっちゃ嬉しいです。私の作品を読んで、楽しんでくれるだけでとっても嬉しいです。今後もよろしくお願いします。
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