Updated: Tokyo  2013/09/09 03:28  |  New York  2013/09/08 14:28  |  London  2013/09/08 19:28
 

「東京五輪」決定、56年ぶり開催へ-デフレ脱却を後押し

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  9月9日(ブルームバーグ):国際オリンピック委員会(IOC)は7日(日本時間8日)、2020年の第32回夏季オリンピック競技大会(五輪)を東京で開催することをブエノスアイレス総会で決めた。56年ぶりの「東京五輪」再現になり、デフレ脱却を目指す安倍晋三首相の政策「アベノミクス」を後押しする経済効果を期待する声が出ている。

マドリード、イスタンブールを含む3都市について第125回総会で秘密投票があり、マドリードがまず脱落、決選投票で東京が圧勝した。東日本大震災の復興加速などを目指して招致に乗り出した東京は、コンパクト五輪をアピール。投票直前のプレゼンでは安倍首相が安全な開催を強調、皇室の高円宮妃久子さまも復興支援に感謝を伝えた。

東京での五輪は1964年以来。過去に大会が複数回あったのはアテネ、パリ、ロンドンとロサンゼルス。東京都は五輪開催の経済波及効果を3兆円弱、雇用誘発は15万人超と試算している。株式市場では建設や不動産といった関連銘柄の株価が招致成功を先取りして上がっている。

大和証券の木野内栄治シニアストラテジストは8日、東京五輪は景気マインドを押し上げるうえに「アベノミクスの『第4の矢』として日本経済のデフレ脱却をより確かにする」と述べた。国土強靭化政策に沿う形でインフラ整備が進み、観光産業も拡大すると予想。経済効果は小さいとの見方は「誤解である」と強調した。経済効果については副次的要因を含めて7年間で150兆円と試算している。

マドリードは東京とともに戦った16年大会(リオデジャネイロ開催)に続いて初の招致を逃し、イスタンブールは12年大会に続く挑戦だったが、イスラム圏初の開催はならなかった。20年五輪にはカタールのドーハ、アゼルバイジャンのバクーを含む5都市が名乗りを上げ、IOCは昨年5月の理事会で3都市に候補を絞っていた。

投票

IOC総会での決選投票で東京は60票を獲得、イスタンブールは36票だった。1回目の投票では東京が42票で首位、イスタンブールとマドリードが26票で並んだ。再投票でイスタンブール49票、マドリード45票となり、マドリードが除外された。

1回目にマドリードに投票した票のうちほぼ3分の2が決選投票で東京に向かったことになる。ジャック・ロゲIOC会長は投票後の記者会見で東京五輪について、安全な開催、素晴らしい運営を期待したい、との趣旨を述べた。会見の模様は日本テレビが中継した。

20年東京五輪は7月24日から8月9日までで、28競技が行われる予定。未定の競技が1つあり、レスリング、野球・ソフトボール、スカッシュからIOC総会が8日総会での投票で決める。パラリンピックは8月25日から9月6日までで22競技。

原発問題

IOCが6月下旬に公表した3都市の評価報告書では、東京は宿泊料金の高さが懸念事項として挙げられ、イスタンブールは交通渋滞のリスク、マドリードはスポンサーを獲得できるかといった点が指摘されていた。報告書がまとめられた後に、イスタンブールでは中心部で公園の再開発をめぐる反政府デモが拡大していた。

また東京は東京電力福島第一原子力発電所での汚染水問題、マドリードは25%超の失業率や財政問題、イスタンブールはドーピング問題という課題も抱えていた。安倍首相は投票直前のプレゼンで福島原発について、状況は制御されており東京にはいかなる悪影響もこれまで及ぼしたことはなく今後とも及ぼすことはない、と英語で訴えた。

IOC次期会長選に立候補しているリカルド・カリオン財務委員長(プエルトリコ出身)は投票前のインタビューで、開催地決定に向けて「非常に複雑な要因をはらんでいる。非常に興味深いが、決断の難しい投票だ」と述べていた。

支持率

東京は16年にも五輪実現を目指したが、決選投票にも進めなかった。また日本の都市では88年大会で名古屋、08年大会では大阪が招致を進めたが、いずれも敗れていた。冬季五輪で日本は72年に札幌、98年に長野で開催している。20年東京大会は冬季を含めると4度目の日本での五輪になる。

16年の失敗は国民の低支持率が響いた。今回も昨年4月公表のIOC調査では、五輪開催支持率が東京は47%、マドリードは78%、イスタンブールは73%だった。

この支持率が同年夏のロンドン五輪での日本人選手の活躍、50万人の観衆(日本オリンピック委員会発表)が詰めかけた凱旋パレードを受け、3月公表の調査では70%に上昇していた。

IOCに提出した申請ファイルによると、五輪開催が決定した東京は全35競技場のうち20を建設する予定だ。特に64年東京五輪のスタジアムだった国立霞ヶ丘競技場は19年までに最新の競技場に建て替える。20年五輪では8万人収容のメーンスタジアムとして開・閉会式、陸上競技、サッカーとラグビーの会場にする。

経済波及効果

全国で3兆円弱と試算した経済波及効果の内訳は、東京都が1兆6800億円でその他地域が1兆2900億円。まず建設予定の競技場や選手村といった関係施設整備費として3560億円、開・閉会式などの大会運営費として3100億円、関係者や観客の消費支出とグッズやテレビ購入といった家計消費支出で5580億円を見積もり、この合計が1兆2200億円。

この投資や消費から生み出される生産増加、それを基にした所得増加、さらに消費・生産・所得という2次波及効果までを対象に経済波及効果を算出した。計算では道路や鉄道を含むインフラ整備費は除いた。雇用誘発では東京都で8万3700人、その他で6万8500人と予想した。

安倍首相は招致決定を受けた会見で「東京五輪開催決定を起爆剤にデフレを払しょくしたい」との意向を示した。招致成功の背景については、確実に安全な五輪を提供できるという訴え、五輪精神を理解して世界に伝えていくことができるのは東京だという訴えがIOC委員の心を打ったのではないか、と語った。会見はNHKが中継した。

開催決定後の株価

過去5大会の五輪について開催都市決定から開会式当日までの株価推移を見ると、96年アトランタ大会では米ダウ工業株30種平均は2.2倍に上昇。同様に2000年シドニーはASX全普通株指数が64%高、04年アテネではアテネ総合指数が27%高、08年北京は上海総合指数が36%高、12年ロンドンはFTSE100指数が6.5%高となっている。

アテネはITバブル崩壊、北京とロンドンはリーマン・ショックを含む世界的な金融危機を挟みながら株価は上昇した。ロンドンでは開催決定後、一時27%上昇している。16年のリオデジャネイロの場合、ボベスパ指数は一時19%高まであったが、低成長や反政府デモなどで下落に転じている。

野村証券の山口正章エクイティマーケット・ストラテジストは8月20日に書いたリポートで過去5大会と株価では、経済効果が波及すると見られる開催直前よりも「開催決定年に好パフォーマンスを見せるケースが多い」と指摘した。

日本では冬季大会で98年に長野で開かれ、開催決定から開会式までの日経平均はバブル経済崩壊の中で31%下落していた。64年の東京大会の株価については山口ストラテジストによると、開催決定を挟んで株価が急騰して61年に高値を付けたが、65年まで長期低迷した。

地価

株価とともに代表的な資産価格である土地の価格について、みずほ証券の石沢卓志チーフ不動産アナリストは、五輪開催決定による押し上げ効果を予想した。

石沢アナリストは、五輪開催がなくても来年の東京圏の公示地価は上昇するとしながら、上昇率が上乗せされて「1-2%くらいになるだろう」と予想した。さらに「インフラ整備が強化されれば、短期間だけの上昇ではなくて継続的に上昇する形になる」と付け加えた。

20年東京五輪の招致オフィシャルパートナーは21社で、トヨタ自動車、ミズノ、アシックス、日本航空、大和ハウス工業、グリーや楽天といった企業が名を連ねていた。これまで招致に関する呼称やロゴが自社イベントなどで使用できたが、招致活動が終わって契約はいったん切れる。新たな大会パートナーは組織委員会などが改めて募る予定だ。

過去の夏季五輪での日本のメダル獲得数は、前回ロンドン大会が最多で38個(金7、銀14、銅17)、続いて04年のアテネ大会での37個(16、9、12)。64年東京大会は29個(16、5、8)だった。これからの五輪は、14年2月に冬季大会がロシアのソチで、16年に夏季大会がリオデジャネイロで、18年に冬季大会が韓国の平昌で開催される。

祖父の岸信介元首相

東日本大震災による東電福島第一原発事故による汚染水問題で政府は3日、対策費用として国費470億円を投入することを決定した。汚染水問題について東電任せにせず、政府が前面に立ち解決に当たる方針だ。

安倍首相は、サンクトペテルブルクでの20カ国・地域(G20)首脳会議とIOC総会出席に向けて離日する4日、福島第一原発の汚染水問題について、国費投入を示した上で「7年後の20年には全く問題はないということをよく説明していきたい」と述べていた。

64年東京五輪が決まったのは59年5月のIOC総会。安倍首相の祖父岸信介元首相が当時の首相を務めていた。安倍首相は祖父と同じく東京五輪を実現することになる。

五輪招致に成功すると安倍首相は消費増税の秋の引き上げ判断に踏み切りやすくなる、と大和証の木野内氏は予想している。招致実現と消費税上げの判断について安倍首相は会見で、「直接関係はない」としながら縮み志向の中で目標が与えられたとして「成長には明らかにプラスだ」と強調した。同時に判断は経済指標などを分析しながら適切にすると述べた。

オールジャパン

五輪招致成功を受けて猪瀬直樹東京都知事は、「これから7年間、オールジャパンの体制で万全準備を進める」とコメントした。そして開催を通じて被災地の復興をさらに加速させ、世界にオリンピックムーブメント(五輪精神)を広げていく、との方針を示した。

五輪招致委員会の竹田恆和理事長も、国、経済、スポーツをはじめとする各界の一致協力した体制で招致活動に取り組んだことを示し、世界の関係者に謝意を示した。また猪瀬都知事と同じく、イスタンブールとマドリードに敬意を表した。2氏の発言は招致委員会が発表した。

経済同友会の長谷川閑史代表幹事(武田薬品工業社長)と新浪剛史・副代表幹事兼東京オリンピック・パラリンピック招致推進委員長(ローソン最高経営責任者)も東京五輪について「政官民挙げて招致に取り組んできた成果」と連名でコメント。同友会としても「全面的に支援していく」と協力を約束した。

また富士通の山本正已社長は、五輪招致による設備投資や個人消費の増加が「日本経済回復の追い風となる」と指摘。観光客は「日本ならではの、おもてなしの心に触れていただくことを期待している」とコメントした。

五輪招致決定を受けて東京スカイツリー、東京タワーや都庁第一本庁舎、レインボーブリッジと東京ゲートブリッジが8日からライトアップされる。

掛け屋

英ブックメーカー(掛け屋)のウィリアム・ヒルによると、日本時間6日午後の段階でのオッズ(払戻倍率)は東京が1.83倍、マドリードは2.25倍、イスタンブールは7.00倍と東京が1番人気だった。スペインのムンド紙は、IOC委員98人中50人が首都マドリードでの五輪開催を支持していると4日報じた。

6日の東京株式相場は5日ぶりに下落に転じた。為替の円安一服や五輪開催地決定への不透明感が出て、幅広い業種が売られた。TOPIXの終値は前日比10.02ポイント(0.9%)安の1147.82、日経平均株価は204円1銭(1.5%)安の1万3860円81銭。

債券相場は6日下落した。長期金利の指標となる新発10年物国債の330回債利回りは、0.79%と8月5日以来の高水準を付けた。為替相場のニューヨーク6日終値は1ドル=99円11銭だった。

記事についての記者への問い合わせ先:東京 上野英治郎 e.ueno@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:Teo Chian Wei cwteo@bloomberg.net;大久保義人 yokubo1@bloomberg.net

更新日時: 2013/09/09 00:00 JST

 
 
 
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