「黒(くろ)歴史」という言葉を最近知った。人に言えない、知られたくない過去、なかったことにしたい失敗などをいう。もともと人気アニメで使われていた用語が、意味を転じつつ俗語として広がったらしい▼前の恋人の写真を保存していて今の恋人に見られてしまう。その種の不都合な情報も黒歴史と呼ばれる。どんな愚行や醜態も、心の記憶に留(とど)まるなら、時に襲う胸の疼(うず)きに耐えればすむ。しかし、それがネット上に一度(ひとたび)拡散したら大変である▼アルバイト先などでの悪ふざけ写真をソーシャルメディアに投稿し、騒ぎになる例が相次ぐ。今度の舞台は餃子(ギョーザ)の有名チェーン。金沢市の店で、数人の裸の男性客がカウンターに並ぶ画像が公開されてしまった。会社は「公序良俗に反する不適切な行為」を防げなかったとおわびした▼コンビニ、宅配ピザ店、ハンバーガー店と、よくもまあ類似のことが続くものだと呆(あき)れる。よくないことと知ってか知らずか、ウケを狙うあまり逸脱に及んだのだろう。それが大っぴらになったらどうなるか、頭を働かせた形跡はない▼会社は会社でイメージダウンが怖い。謝罪や閉店といった対応を急ぐ。処分がいささか厳しすぎないかという声も上がり、議論が広がっている。当の若者らはどんな心境で事の次第を見守っているのだろう▼わが青春も顔から火の出る思い出に事欠かない。ふざけすぎてしくじりもした。おのれの苦い黒歴史を咀嚼(そしゃく)し、反芻(はんすう)する。思えばそれが、大人になるということか。