| 2012年7月27日(金) |  |  | 
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 27日開幕のロンドン五輪は前回の北京から大きく様変わりする。4年前の国威発揚ムードとメダル至上主義は後退し、開会式も人海戦術から、自由と躍動感あふれるパフォーマンスへと転換。史上最多3回目のホスト都市となったロンドンは英国流の新たな「五輪像」を披露する。一方、欧州全域には経済危機の暗雲が覆い、五輪にも影も落とす。 ▽夢のバトン 「19世紀後半に近代スポーツを生み出した英国には大変な恩がある」 バッキンガム宮殿を訪れた国際オリンピック委員会(IOC)のロゲ会長は23日、英国をたたえ、エリザベス女王にうやうやしく返礼した。 サッカーやバドミントン発祥の地とされる英国。そうした近代スポーツの“老舗国”が今回の五輪開催で目指したのは「若者を元気づける」「将来へのレガシー(遺産)」の二つだった。 「北京と同じことはできないし、やろうとも考えていない」。北京五輪を体験した英国五輪関係者の多くは当時、こう明言していた。 東京(1964年)、ソウル(88年)、北京、そして次回開催地リオデジャネイロ。猛烈な勢いで経済成長を続け、五輪の成功で“一等国”の仲間入りを果たす。 成熟した英国はそうした新興国の生々しい「野望」ではなく、若者にスポーツの素晴らしさを伝え、集中的な再開発によって貧困地域を再生させるという「夢のバトン」の引き渡しを選んだ。 ▽お祭り気分 「人々はロンドン五輪に驚嘆し、生涯の思い出とするだろう」。キャメロン首相は今月上旬の演説で、大会成功へ強い自信を示した。 今や英国スポーツの殿堂となったロンドン東部の五輪公園。かつては広大な工場地帯で、周辺は英国で最も貧しい地域とされてきたが、英政府は同地域の再開発を五輪開催事業の目玉に据え、市民の協力ムードを育ててきた。 開幕日を迎えたロンドンは、少し肌寒さも感じるほど。中心部の目抜き通りには参加各国の国旗が掲げられ、各地に観戦用の大型スクリーンが設置されるなど、お祭り気分が高まっている。 ボクシングの試合を見に行くのを心待ちにしている会社員ルカス・モチャさん(29)は「今日は歴史的な日だよ」と早くも興奮気味だ。 ▽しわ寄せ ギリシャ、イタリア、スペインなどユーロ圏各国を直撃してきた欧州危機。英国は通貨ポンドを維持しユーロ圏には入っていないが、危機の影響は免れない。 キャメロン氏は「五輪開催による今後4年間の経済効果は、130億ポンド(約1兆6千億円)」と強調するが、25日に発表された4〜6月期の国内総生産(速報値)は前期比0.7%減。五輪開催費用は当初の34億ポンドから約3倍の約93億ポンドまで膨れ上がり、財政再建の足かせになりかねないとの指摘もある。 英民間調査団体「高額報酬委員会」は、英国の一般労働者の賃金が長引く不況で抑制され、企業幹部との所得格差は60倍を超えたと分析した。 「生きる伝説になる」(ウサイン・ボルト選手)、「無敵艦隊スペインを日本が撃破」―。早くも五輪ドラマが始まる中、不況のしわ寄せが及ぶロンドンの貧困地区からは「高額の五輪チケットには手が出ない」「短期間のお祭りに興味はない。地元に利益はない」と冷めた声も聞こえた。(ロンドン共同=半沢隆実、黒崎正也) (共同通信社) |