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ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)の国内推薦が決まった南アルプスの「核心地域」に含まれ、世界のライチョウ生息地の南限とされるイザルガ岳(静岡市葵区・長野県飯田市)で、2010年5月を最後にライチョウの姿が確認されていないことが市民グループの調査で分かった。約4キロ北東の仁田岳では今年も確認され、南限が北上した可能性を指摘する声もある。国は昨年、ライチョウの保護計画を策定したが、早急に生息域の把握が求められそうだ。
調査したのは県内の野鳥愛好者ら約50人でつくる静岡ライチョウ研究会。イザルガ岳は登山道入り口から山頂付近まで片道約8時間かかり、国の特別天然記念物であるライチョウの生息実態はほとんど分かっていなかった。このため会員は1997年以降、ライチョウのつがいが営巣・繁殖する初夏から秋を中心に年数回、現地調査を続けてきた。
以来14年連続で1〜6羽を確認したが、朝倉俊治会長(60)によると「11年以降は羽毛やふんだけで、個体や繁殖の痕跡は確認できていない」という。
ライチョウは長距離を飛べず、毎年ほぼ同じ山域で繁殖を繰り返す。同会は07年から国の許可を得てライチョウに個体識別の足輪を着けて移動範囲を調べた。その結果、イザルガ岳から北東へ約5キロ離れた茶臼岳などとの往来が確認された。
非繁殖期は茶臼岳などで集団で過ごし、繁殖期になると周辺の山に分散する傾向もみられた。朝倉会長は「毎年繁殖していた山の環境の変化で他の山に移る場合もあるのでは」と推測する。
イザルガ岳付近は高山植物のハイマツが生える南限でもある。冷涼な気候を好むライチョウはハイマツ帯に生息し、コケモモの実など高山植物を餌とする。ライチョウの生態に詳しい信州大の中村浩志名誉教授は「温暖化の影響で生息域が狭まったり、シカとの競合で餌不足が起きていることも考えられる」との見方を示す。
行政連携し実態把握を
国は北アルプスなどを含む全国のライチョウ生息数について、約30年前は約3千羽いたが、現在は2千羽以下に減ったと推定する。
野生生物の絶滅危険性を示す環境省レッドリストでライチョウは昨年8月、2類(危険増大)から1B類(危険性高)に見直された。国は同10月、静岡など7県を対象にした保護増殖事業計画を策定。生態調査や保護策を関係機関と検討している。
静岡など3県にまたがる南アルプスの生息数について、県自然保護課は「確実に減っていると言えるだけの調査の蓄積がない」と慎重な見方を示す。当面は国と3県、市町村の協力による実態の把握が求められる。