- 滋賀県立膳所高
講師:鷲田清一さん
- 講師プロフィール
なぜか図書室にミニスカ男子、マイケル・ジャクソン風女子もいる。「ファッションに造詣(ぞうけい)が深い哲学者・鷲田清一さんを歓迎しよう!」と、ひとひねりした服装で集まった生徒たち。「目移りしちゃう」と鷲田さん、破顔した。
今目にしているものは本当にその通りのものだろうか。鷲田さんが出していた宿題は「見ているものに正反対の意味合いを感じた経験を作文してください」。
多かったのは、「家族や友人の言葉の裏に違う一面を見た」というもの。日原奨希(しょうき)くん(3年)は、「起立、礼」の時に土下座し、シロアリを「彼女」と呼ぶ同級生の奇行の裏に「自己顕示より深いニュアンスが含まれていると感じた」経験を書いた。
「反対のものがあると気付いただけでは足りない。その先に居る本当のその人を知るべき」と記したのは山口紗希さん(2年)。鷲田さんはこの意見に注目、「一人の人間にも相反するものが共存する。では、相反する立場の人が世の中で共存するにはどうすればよいか。話し合って」。
「妥協点を見つける」「多数決に従う」など、8班に分かれた机のあちこちで意見が飛び交う。10分後の発表では、「男女で多数決する場合、性同一性障害の人の属性は誰が決めるのか」「介護の場合だと、被介護者1人に対して介護する側は何人もいる。多数決してよいのか」など、「多数決がベストか?」で議論が白熱。橋詰知輝くん(2年)は「多数決より高次元の結論を出せと言われたら、〈神〉のような別格の存在が必要になる」と、鷲田さんに迷いをぶつけた。
「我々は神になれない。つまり、人間の議論に最終結論はないんです」と、鷲田さん。「大切なのは複数の視点を受け入れ、違う次元で考え続けること」。このひと言で、さらに議論が白熱。授業は予定を大幅に超え、3時間に及んだ。
●大津市、全校1320人、渕田豊朗校長。授業を受けたのは、1〜3年生の図書委員38人。担当は国語の今井英夫先生と学校司書の西川千晶先生。
濱栞音(はましおん)さん(3年)
「相手の意見を受け止めてこそ別の次元が見えるというお話に、ハッとしました」
田中敬也(ひろや)くん(2年)
「哲学っていろんな分野の底にある、やわらかな学問だなあと思いました」
鷲田さん
「哲学的なテーマをストレートに受け止めてくれた皆さん、ありがとう! 考え続けてください。それが哲学です」
(文・安里麻理子 写真・吉永考宏)
(朝日新聞朝刊掲載2012/2/6)