特集ワイド:強まる表現規制 問題の核心は「知る権利」 日本漫画家協会理事長・ちばてつやさんに聞く

毎日新聞 2013年09月05日 東京夕刊

「ヒマワリのような花、沼地に咲く花、いろいろあってこそ文化は元気づく」と語るちばてつやさん=東京都練馬区の自宅で2013年8月30日、丸山博撮影
「ヒマワリのような花、沼地に咲く花、いろいろあってこそ文化は元気づく」と語るちばてつやさん=東京都練馬区の自宅で2013年8月30日、丸山博撮影

 「今も同じ意見です」とちばさん。「規制」はじわじわと進んでいる。2010年、東京都青少年健全育成条例が改正され、過激な性的描写がある漫画の販売規制が強化された。今年5月には自民、公明両党と日本維新の会の3党が児童買春・ポルノ禁止法改正案を衆議院に提出。同案は政府が3年をめどに、漫画やアニメが児童への性的虐待などに与える影響を調べ、必要な措置を取ると定める。例えば子供の裸の描写が「児童ポルノ」として規制対象になる恐れが指摘されている。この改正案に特に強い危機感を抱く。「まず手をつけるのは大人も顔を背けるようなエロ・グロ・ナンセンス作品でしょう。誰が考えても規制しやすいものを取り上げて法律をつくる。だが、そこで終わりじゃない。成立してしまった法律はやがて、あらゆる表現に当てはめられるようになる」

 意見書「本当に守るべきもの」では、NPO法人・日本禁煙学会が公開中のアニメ映画「風立ちぬ」を制作したスタジオジブリに対し喫煙シーンの多さに「苦言」を呈したことにも触れている。別項にあるように作品から「喫煙推奨のメッセージを受け取ってしまう」のは「主題を見失った残念な鑑賞の仕方である」というのだ。「戦前戦中を描いているのだから、あえてタバコを吸う場面を消すと不自然。当時の飛行機を造る人たちの複雑な心境にこそ注目してほしい」とちばさん。

 「それはそれとして」と声を強めた。「私たちが表現の自由を言うと、“何でも好きに描かせてくれ”とわがままを言っているように受け取られるかもしれない。でも、そうじゃないんです。作り手側が自主規制をすれば、それによって重要な情報が読者に伝わらなくなるかもしれない。表現者が可能な限り自由に表現できる土壌があれば、それは受け手にとって『知る権利』の拡大につながる。事の核心はそこにあるんです」

 法規制を唱える政治家はなおも言うかもしれない。「悪質な漫画を放置しておいて、勝手じゃないか」と。「その線引きを誰がするのでしょうか。親が我が子を厳しく叱って見せないのは構わない。残酷なシーンや性的に過激なものを子供に見せたくないという気持ちは分かる。しかし、国や行政が線引きをして一斉に書店や書架から撤去させるのは話が違う。それでは戦前の軍部の検閲と同じです。国民の知る権利を守るには、あくまで描く側の良識と読者の自浄能力に委ねるべきです」

 「クールジャパン」と国を挙げて漫画やアニメを持ち上げる動きがある一方、いつしか息苦しさが増していないか。最終回まで戦い続けた丈の雄姿と白髪のちばさんがダブって見えた。

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