検証・大震災:福島第1原発 汚染水対策、漂流2年半
毎日新聞 2013年09月07日 東京朝刊
バイパスの実現まであと一歩というところで、協力会社会長の不安が的中する。東電は今年4月5日、地下貯水槽から汚染水が推定120トン漏れたと発表した。「あれだけの(大規模な)貯水槽をビニールシートで造るのは普通じゃない」。原子力規制委員会の田中俊一委員長は現地を視察し、東電へのいらだちをあらわにした。東電は貯水槽をあきらめ、2カ月間で地上タンクにすべて移し替えることを決めた。
漁業関係者の不信感は一気に高まった。前月に、配電盤にネズミが入り込んだことによる第1原発の大規模停電があったばかりだ。
福島県漁連の野崎哲会長ら幹部は苦悩した。地下水の海への排出を認めず、このまま汚染水が増え続ければ最後は汚染水自体の海への放出を迫られかねない。「自分で自分の首を絞めることになる」。4月26日の組合長会議で、野崎会長がバイパス計画容認の姿勢を示すと、翌日新聞やテレビが「漁連が放出合意へ」と大きく報じた。漁連事務所は組合員からの抗議電話が鳴りっぱなしになった。
漁連幹部は進退窮まった。「もう理屈じゃない。地下水は国の排水基準を下回っていると伝えてもだめ。組合員は濃度ゼロ、放出ゼロを要求している」。バイパス計画は事実上、頓挫した。汚染水の漏えい量はわずかだったと修正されたが、地元の信用を取り戻すすべはなかった。