めがみっくす!+
第二話「大蛇と女神とハイテンションなオレ」
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「こんな棒っ切れ一本であんなんと戦えるかぁーーーーー!!」
さすがにブチギレるオレ。
突如目の前に出現したちゃぶ台を認識するや否や、往年の野球アニメのおとっつぁんよろしく、両手で勢いよくちゃぶ台返しの必殺技をキメる。
まぁ、そのアニメは観たことないけどな。懐かしのアニメとかで見た時のイメージだ、イメージ。
だって至極真っ当、世界の中心近くで叫びたくなるくらい当然の主張だろ?
どこぞのLv.1の勇者的な主人公が旅立ちの町周辺のスライムっぽいの数匹と戦うとかならこんな武器でもいいだろう。中ボスとか出てくるまでに経験値を積めるからな。
うにょとか言うその辺でうごうごしてるのは役に立つのかわかんねーし、ひのきの棒で最初から中ボス戦って、どんだけバランス無視したクソゲーだよっ!
ヴァーチャルとは思えないくらいリアルでこんだけスゲー最新式システムでこのバランスの悪さって、このゲーム作った会社はどんだけ予算のムダ遣いしてんだ? そう思うだろ。マジで。
ちゃぶ台返しの大技を決めて、片膝着いて両手を天に掲げてそのまま固まってるオレ。納得できない叫びとその余韻で、なんか「ジーザスっ!」って感じのポーズになっちまってる。
「勇児くんすごいです!」
そして、なぜかディーテに褒められたオレ。
「???」
えっ、怖がられるとか怒られるとかじゃなくて褒められた? ヘンなポーズのまま疑問符で頭を埋め尽くされるオレ。
「いきなり具象化(リアライズ)のスキル使えるなんて才能あるですよ~」
「具象化? なんのこと?」
そのまま聞き返すと、「それです」とディーテがちゃぶ台を指差す。
ディーテの古書店にあったものと同じだよな。よく見ると、急須と湯のみも近くに転がっている。
そういやコレ、どこから現われたんだ? 目の前に現われたんでノリでひっくり返したけど、確かにさっきまでなかったよな?
「やっぱり私の目に狂いはなかったです。勇児くんはこのゲームプレイヤーの才能あるですよ~♡」
極上の笑み、再び。眼福眼福。
「うっ、そ、そうか?」
なんかよく分かんないけど、ディーテに褒められて赤くなるオレ。心情とは異なって視線を逸らして照れ隠しをする。
ディーテの笑顔で疑問とか吹っ飛んだ。まぁ、大した事じゃないよな、ははっ。
「その具象化のスキルはですねぇ――」
「ったく、あいかわらずぶっててムカツクやつだぜ」
ディーテが説明しかけたかけた時、ぶっきらぼうな声がどこからか聞こえた。男みたいな荒っぽい口調だけど、若い女性の声だ。
「うふふっ、今度の指揮官さんは可愛らしいですのねぇ」
続いてもう一人、おっとりした感じの声も聞こえた。こちらも女性の声だ。可愛らしいって、オレのことか? ポッ、と赤くなってみる。
「へっ、ただのクソガキだろ」
…すごく失礼なやつだ。とりあえず、オレ的にこの声のヤツは敵に決定。
「あら、遅かったですね」
ディーテが声の方に振り返る。オレもつられてそっちを見てみる。
「………」
オレ、絶句。
振り返ったオレの視線の先には、すっげー美少女が二人並んでたんだ。
――――――
「で、こいつが今回の指揮官かい?」
壮麗な槍を携えた際どい格好の美少女がオレを顎で指して言った。「そうですよー」といつもの調子のディーテ。
やっぱりこの女は失礼だ。美少女だけどな。
そう、美少女だ。うん、美少女だ。
じー。
じーー。
じぃぃーーー、はっ!
正気に帰るオレ。
ヤベェ、トリップしてた。だってしょうがないじゃん。
乱暴な口調のこいつが着てるのって、ゲームでしか見ないようなビキニみたいな鎧だぜっ! もう一度言う。ビーキーニーの、ヨロイっ!
ほっそりしてるのに引き締まった肢体が、健康的なのにエロてぃっくに見えるのはオレの心が邪な故なのか?
いや、絶対にただのビキニよりエロい気がする。
コスプレか? コスチームプレイってやつなのか? 本物見るのははじめてだけど、すげークオリティだ。鎧だって本物にしか見えない。硬質ダンポールでも使ってるのか?
しかもそんな格好で、加えてむっちゃ可愛いんだぜ? ディーテもそんじょそこらのアイドルじゃ裸足で逃げ出すレベルだぜ? それがあとふたりもいるんだぜ?
おっと、かなり興奮してるな、オレ。テンションがおかしいだろ。ちょっと落ち着こう。
フー、フーーー、フーーーーー。
…いや、これじゃ変質者っぽいな。オレは改めてフーーーと息を吐くと、もうひとりの、おっとりした感じの美少女に視線を移す。
彼女が着ているのは歴史で古代ローマとかの人が着てたっぽい服、と言えば分かりやすいだろうか? 一見お嬢様っぽい黒のドレスだけど、背中が広く開いていて二の腕も大きく露出している。
うっ、これはこれで刺激的だ。タイプは違うけどこの人もかなりの美少女だし。
いや、美少女美少女としつこいか。でも分かってくれ、それくらいしか表現しようがないんだ。生まれて初めて、自分のボキャブラリーの貧困さを呪っているオレがいるんだ。男なら察してくれ。もし男じゃなければ気にするな。
「おいっ、聞いてるのかよ指揮官さん」
ビキニ鎧の美少女がぶっきらぼうに言う。気が付くと、ジト目でオレを見てる美少女たち。
「あうっ…」
オレは開いた口が塞がらない、というかだらしなく開いてないか心配になる。やっぱりこういう時って、鏡見たら鼻の下がのびてたりするんだろうか?
しまった、このままじゃグレート紳士なオレ(自己診断)の沽券に関わるイメージダウン!
うおっほん、と咳払いして誤魔化してみる。
「き、聞いてる、よ?」
どもった。恥ずかしい…
彼女たちの「ほんとうに?」という視線がオレに集中。
「ゴメンなさい。聞いてませんでした…」
ここは正直に謝る。
「大丈夫か? こんなんが指揮官でよ――」
ビキニ鎧の美少女が迷惑そうに言った。
「あらあら、こんな状況じゃしかたないですよね。ふふっ」
ドレスな美少女がフォローしてくれる。
ああっ、この人は優しい人なんだなぁと、オレちょっと感激。
「勇児くん、もう一度言うですね。こっちの露出狂がアテネ、そっちの腹黒いのがヘラって言うです♪ このふたりも戦いに参加するんですよ~」
です♪ って、極上の笑顔ですごい毒吐いてるよね、ディーテ…
「けっ、性悪ぶりっこが何言ってやがる」とビキニ鎧の美少女が。「腹黒なんてショックですわぁ」とドレスな美少女が呟いている。
ああ、でも良かった。ひのきの棒とうにょだけで戦うわけじゃないんだな。女の子三人とはいえ、正直オレはほっとした。
………ん? 何かがオレの頭の隅に引っかかる。
アテナ、ヘラってギリシャ神話の有名どころの女神だよな? ディーテって、もしかしてアフロディーテのことか?
ああ、いや、これはゲームなんだからハンドルネームか。ディーテは普段からディーテだけど、外国じゃ神様とか天使の名前を子どもに付けたりするしな。それにあやかってるんだろう。
やばいやばい。ヴァーチャルフィールドがリアル過ぎて現実とごっちゃになってるな、オレ。
これはゲーム。そう割り切らないと…昔の有名筋肉俳優主演のハリウッド映画みたいな結末になっちまってもイヤだしな。
オレも「フェニックス一樹」とか「アクエリアスの神」とかみたいなハンドルネームにしたいな。あとでディーテに設定方法を聞いてみよう。
「それにしても…ゴルゴンか。いやなヤツと当たっちまったな」
とぐろを捲いて「キシャーーー」と威嚇している大蛇を眺めながら、ビキニ鎧の美少女――アテネがバツが悪そうに言った。
「知ってるのか、アレ?」
威嚇してる大蛇を指す。
「んー、まあな…」
どうも歯切れが悪い。さっきの悪態付いてたときとは全然違う。
「あれはゴルゴン三姉妹。蛇の化け物たちですわ」
アテネに代わってドレス美少女のヘラが教えてくれる。ん~、ゴルゴンってなんか聞いたことある名前の気もする。
「三姉妹って、アレは女――といかメスなのか?」
まあ、蛇の性別なんて正直どうでもいいが。
「ふふっ、ゴルゴン三姉妹はね、長女のステンノー、次女のエウリュアレー、末っ娘のメドゥーサの俗称なの」
「おっ、メドゥーサは聞いたことあるな。どっかの英雄に首切られて楯にされたんだろ?」
神話を聞いたときには子ども心に、いくら化け物相手とはいえ英雄もヒデェことすんな、って思ったもんだ。
「そう、英雄ペルセウスに倒されちゃったの。アテナのせいでね。ふふっ」
「んっ? アテナのせい?」
そんな話だっけか? 小学生の時に聞いたか読んだかした話だから、よく覚えてない。
「ふふっ、それは本人に聞くといいんじゃないかしら」
ちょっと意味深に呟くと、ヘラはアテナを見て意地悪っぽい表情で言った。
アテネは「フンッ」とそっぽを向いている。
「そんな大昔の話は今はいいです。そろそろ戦闘開始ですよ~」
と、マイペースなディーテ。
ちょっと気になるが、今はそうも言ってられないか。
「で、指揮官のオレはどうすればいいわけ?」
オレはさっきから思っていた率直な疑問を口にする。だって、武器はひのきの棒だし…
「ん~、そうですねぇ。勇児くんは初めてですから、ちょっとお手伝いしてあげますね」
そう言うと、ディーテがオレの額に細い指をくっつける。
「のーうーなーいーまーやーくーーー、ぞーーーりょーーーう♪」
どっかで聞き覚えのあるような裏声とふざけた口調でディーテが言った。ビカビカビカーン! と、背後に効果音とフラッシュが見えるようだ。
なんだよディーテのこのノリは。古書店の清楚なイメージはホントにどこいったんだろう…おちゃめなディーテは可愛いけど、あれに憧れてたオレはちょっと寂しいぞ。うん。
「あーーーんど、めがみのとりぃーびあーーー♪」
またか…と思うと、もう一度、ディーテの指先がオレの額に触れる。
すると、このヴァーチャルフィールドやうにょたちのことなんかの基礎知識と思われる情報が怒涛の様に流れ込んできた。
一瞬だけ意識が遠のき、くらっとする。んっ、妙に気分が高揚してきた?
「さあ、女神の魅力に集まった愚かな輩達よ!」
“オレが”そいつらに向かって叫んだ。
「その溜まりまくった欲求不満をぶちまけろっ! こんなとこにいるのは、現実で腐ったやつばかりだろう?」
・・・あれ。これオレが喋ってるんだよ・・・な?
「麗しの女神さまたちにイイトコ見せて、ご褒美たんまり貰おうぜっ!!」
キューーーーーー
スライムモドキ――じゃない、うにょたちの歓声が響き、ゼリー状の身体を蠢めかせる。
「オマエら、イかしてるぜっ! クールにキメてくれよなっ!」
キュ、キューーーーーーーー
いや、イカしてねーよ。キモイよ。と、オレは心の中でツッコむ。
何この性格とパフォーマンス…つーか、何でマイク持ってんだ、オレ? さっきのちゃぶ台と同じ具象化とかいうやつか?
「勇児くん」
と後ろからディーテが声をかけてくる。振り返るオレ。
「なんだい、愛しのディーテ!」
…自分のキャラがホントわかんねーよ、もう。
つーかなんだ、オレって多重人格かなんかだったのか?
「さあ、私たち三人の誰に攻撃させますですか?」
ディーテの言葉に、さっき流れ込んできた情報を読んだオレは――
→ 考える必要なんてない。愛しのディーテに攻撃してもらう。
→ ディーテに戦いは似合わない。ガサツなアテナに特攻させる。
→ ディーテより優しそうなヘラに、魔術で攻撃してもらう。
投票は終了しました。
………
………………
………………………
そしてディーテは声にならない言葉でどこかに問いかける。
「プレイヤーのみなさん――貴方の分身となる'うにょ'を選んで下さい」
→ 「にょろんにょろん」してる攻撃型の赤いうにょ。
→ 「ぬったかべ」みたいな防御型の青いうにょ。
→ 「バブってるスライム」風の補助型の緑のうにょ。
投票は終了しました。
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しろぬこ 著
イラスト みるくぱんだ
企画 こたつねこ
配信 みらい図書館/ゆるヲタ.jp
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この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
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