起訴取り消し:典型的な見込み捜査 大阪府警誤認逮捕
毎日新聞 2013年07月30日 06時17分
なぜ不十分な捜査が繰り返されるのか。大阪府警に誤認逮捕された男性会社員(42)の起訴が取り消された。昨年の遠隔操作ウイルス事件を教訓に、容疑者の言い分には真摯(しんし)に耳を傾けると誓ったはずだった。「捜査機関の信頼性が問われている」。大阪地検と府警は危機感を募らせている。
「典型的な見込み捜査だった」。起訴取り消しを聞いた府警幹部は肩を落とした。
捜査関係者によると、今回の窃盗事件を捜査したのは北堺署の「直轄警察隊」。署長直属で街頭犯罪を担当する捜査班だ。刑事課長代理(警部)をトップに計8人が捜査し、男性を誤認逮捕してしまった。経験が浅い若手が多かったという。一方、有罪を信じて男性を起訴したのは地検堺支部の副検事だった。
ただ、いずれも上司に捜査結果を報告して決裁を受けている。府警のベテラン捜査員は「上司がなぜ気付かなかったのか」と首をかしげた。検察には府警の捜査過程をチェックする役割もある。
起訴取り消しを発表した地検の上野友慈(ゆうじ)次席検事は「検事は府警の捜査を信用してしまった。(誤りがあるかもしれないという)思いが至らなかった」と述べた。検察幹部も「決裁時に見抜けなかった理由を検証する必要がある」と強調した。
大阪では昨年、遠隔操作ウイルスに感染したパソコンで犯行予告が書き込まれた事件で、府警がアニメ演出家の男性を誤認逮捕した。地検も起訴し、その後、起訴を取り消した。府警は昨年12月、検証結果を公表し、「容疑者が否認した場合、供述内容をよく聴き、第三者関与の検討を徹底する」と約束した。
別人が犯人であることを理由に起訴が取り消されるのは異例だが、ずさんな捜査は繰り返された。府警幹部は「全警察官が捜査に臨む姿勢を根本的に改めなければならない」と声を荒らげた。
府警の大村喜一(よしかず)・刑事総務課長は29日、「男性や家族にご迷惑とご心労をかけたことに深謝申し上げる」とのコメントを出した。北堺署の小坂義之署長は男性に直接謝罪する意向で、府警は捜査の検証結果を公表する方針。
◇記録時刻の確認怠る
アリバイ捜査と防犯カメラなどの記録時刻の確認。基本的なことさえ調べていれば誤認逮捕や起訴には至らなかった可能性が高い。