2009年に大阪・木津川で遺体で発見された医師・矢島祥子さん(当時34)が不審死した通称「西成マザーテレサ事件」の続報である。
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西成に足を踏み入れてから数日、矢島さんが勤務していた診療所付近を聞き込みしているうちに、たまたま偶然、「ある重要人物」に行きついた。彼はこの事件にどのようにして関わっているのか。その証言の内容の真偽は読者の皆さんにご判断頂きたい。
彼の言葉を伝える前に、まずこの事件の問題点・疑問点をもう一度、振り返ってみたい。
・矢島さんの自宅(診療所から自転車で5分の距離)の鍵は開いていた。
・矢島さんの郵便ポストが破壊されていた。
・矢島さんの部屋の中(テレビの裏、本棚の天板、ドア敷居の上、書籍等にまで)にはいっさいのホコリが無く、現場検証では矢島さんの指紋すら非検出だった(西成署発表)
・洗濯機の中に衣服があった。
この中で、誰もがまず不思議に思うのは「部屋の中にはいっさいのホコリが無く、現場検証では矢島さんの指紋すら非検出だった」という部分だろう。
果たして、そんな不自然なことはあり得るのだろうか。うがった見方をすれば、第三者が犯人の指紋も含めて拭き取ったのではないかという疑念が残る。
今回、話を聞くことができた「重要人物」は氏名、容姿、年齢、すべての個人を特定する記述は差し控えさせていただく。それほど彼の証言は衝撃的だったからだ。この事件に対する疑念をひとつひとつ裏付けるように「重要人物」は重い口を開いた。
――どのような形でこの事件に関わったんでしょうか。
「事件の日、すぐに部屋に来い、いわれて。その部屋を片付けろって」
――殺しの証拠を片付けろ、と言われて呼び出されたんですか?
「とんでもない! そんな話聞いていたら断る。俺は部屋の全てをきれいにしてくれ。ホコリ、指紋一つ残さないでくれたら10万円、という金額に釣られただけだから。それ以外のことは何も知らない。事件のこともいっさい知らない」
――当日の様子はどんな感じだったんでしょうか。
「現地に朝に着いたら、ある組織の人間が車から降りてきて部屋まで連れていかれました。そこには女が3人、男が2人先にいて、部屋を片付け始めてた」
――それで全員?
「いや、すぐに男が2人、女が1人消えよった。残ったのは女2人だけやった」
――片付け仕事に違和感は感じなかった?
「そりゃ気持ち悪いですわ。女は何か呪文みたいなのをブツブツ言いながら、本棚から本を出して1冊ずつきれいに拭いていくんやで。これは大変なことに関わってしまったと。もう、はやく仕事終わらせることだけ考えて」
――その女二人とはどのような会話を。
「全く無いな。だからお互いの素性はわからん」
――何時間その部屋にいたんですか?
「7~8時間位とちゃうかな。その間、メシも抜きで。トイレも絶対に使うな。流すな、言われて」
――トイレも流すな? ずいぶん気持ち悪い仕事ですよね。
「そうや。その仕事終わったら少しの間、西成から離れてくれと言われるしな。まあ、仕事は斡旋してくれたけどな。それで1年くらいは西成から離れてて。そしたら連絡が来て、『全て終わったからもう平気やから西成に帰ってきていいぞ』言われた」
――自分が、凄く大きな事件に関わっている自覚はありますか?
「無い。あくまでも部屋の片付けの仕事だけやし」
これ以上は、何を聞いても口を閉ざすだけだった。
西成には職を求めている人間がたくさんいる。それに目を付けた「ある組織の人間」が被害者の部屋の片付けを依頼したのだという。
取材を進めれば進めるほど、この特別な地域独特の深い闇を思い知らされた。また、巨万が動く「貧困ビジネス」が、どれだけ多くの人間に富をもたらせているかが次第にわかってきた。この事件に詳しい、別の西成住民からはこう忠告された。
「どこまで調べたんや? ......(筆者の説明を聞いて考え込む)。そら、全然事件の本質から遠いわ。この事件では警察発表以外3人殺されてる、それも身元不明でな」
――3人もですか。
「命惜しかったら、この事件は絶対に深入りするなよ。警察も全て犯人掴んでるはずや。だけど逮捕できないのはよほど何か大きい問題があるんやろ、西成と言うのはそういう街や」
取材の過程で多く耳にしたのは、「西成で人が死んだり、殺されたりするのはよくあること」という言葉だ。警察も西成での事件にはあまり本腰を入れて捜査をしないと言われている。
とくにこの「西成マザーテレサ不審死事件」は警察からすると敬遠すべき要素が多すぎたのかもしれない。当初から自殺という判断をして初動捜査が時点で遅れていたことも問題を複雑化している。
その後、ご遺族と関係者たちの必死の訴えにより、西成署は自殺と他殺の両面から捜査していくと発表した。だが、まだ他殺と断定したわけではなく、容疑者も特定できていない。
<次週に続く>
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Written Photo by 西郷正興
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