〜こうして、千と千尋のDVDは赤くなった〜皆さんは、色温度というのをご存じでしょうか?いま見ているパソコンの画面。背景が白くなっていると思います。この色は何でしょう?「白」と答える方が多いと思いますが、実際には違います。写真をやっている方などは詳しいと思いますが、この白く見える画面にもちゃんと色がついています。ですから、フィルムの種類を間違えて撮影すると、青かったり赤い写真ができるんです。でも、人間の目はすぐ慣れるので、そういうことはあまり気にしませんよね? 色温度の違いに目が慣れることを「色順応」と呼びます。 千と千尋をはじめ(たぶん)、ハイビジョンのスタジオでは、この色温度を6500Kという色で作業しています。これは日光と等と同じ色温度で非常に一般的な色です。ちなみに、色温度は高いとか低いとかいいます。食堂やレストランなど赤く見えるのは低くて5000K位、オフィスなどの青白い蛍光灯は6700K位です。ちなみに、一般的なテレビは9300Kと非常に青白い設定になっています。(手違いで、この後テレビ(NTSC)の色温度を9700Kと書いてありますが、9300Kが正しい数字です。) さて、では、ハイビジョンで作成された映像を一般のテレビで表示させるとどうなるでしょう?答えは、下の図の通りです。(誇張して表現してあります。)例えば、オリジナルで灰色の物をテレビで映すと青みがかって見えてしまうのです。これでは問題なので、色温度を変換させる必要があります。 さて、変換してみました。これで、9700Kで普通に見えるようになった…のはいいのですが、今度は6500Kでは、赤っぽく見えるようになってしまいました。でも、これは色温度という制限があるので仕方のない事です。 実際には、こういう補正もやらないという話もききますが、とりあえずこの補正自体に問題はありません。 さて、問題はここからです。基本的には、色温度を変換する時に色補正をして、作ったテレビの色合いはほとんど変更しません。ところが、プロデューサー鈴木氏曰く「ひとことでいって青っぽかった。」ということで、変換後の画像を「通常はやらないことなんですが、NTSC上でも、さらに色調整を行なったんです、フィルムの色に近づけようと。」どういう要件か分かりませんが、「宮崎駿監督の制作意図に応えるために、DVDの現場スタッフががんばったんですよ。私たちにとって、あたり前のことですから。」というわけで、次のような処理を行いました。 テレビの画像は、R(レッド)G(グリーン)B(ブルー)の光の三原色というものを利用して作られています。これらの色を全て点灯させると白になり、消すと黒くなります。青く見える画像を赤くするためには、赤い光をより一層強くするか、青い光を弱くするかです。千と千尋では、9700Kで綺麗に表示されるように、赤の光を強くして、青い光を弱くしました。下の図は実際に千と千尋でやった比率で調整した物です。(下に映画から引用して例で挙げる画像の服の白の部分が真っ白だったと仮定した場合です。) さて、テレビで見た場合、とんでもない色だったのが(本当に、ちょっと、どうしていいか分からないような色なんですが…・・・。)補正されて、ちょうどいい色になりました。ハイビジョン環境(スタジオ)で見ると赤すぎるけど、色温度の関係で仕方がない…。そう、おもったそこの貴方、良く見比べてみてください。 さぁ、では、問題の千と千尋の画像ですが、こちらですっ! でも、色温度の関係で、上のような映像になるのは仕方ないのだろう、と思った貴方! それでも、「テレビで見ればいいじゃん」と思っている人! それでも別に構わないと、おっしゃられる方もいるでしょう。それで構いません。 上の補正済みの画像を見て、他のDVDはこんなに赤くないぞ!と思った方、まったくその通りです(笑)他のDVDは具体的にどの様な処理をされているか、詳しく書きましたので、こちらをご覧下さい。 |
〜では、なぜ赤くしたのか?〜 さて、ここまでの説明で、どうして千と千尋が赤く見えるか、ご理解頂けたと思います。では、ここでは、何故こんな突拍子もない事をする事になったのか説明していこうと思います。 補正さえすれば、色温度の差は目が慣れます。…しかし!スタジオジブリの人やブエナビスタの人はそうではなかった!やっぱり青く見えてしまったのです(笑・上図右端)これは、そういう仕様なので理屈上どうしようもないのですが、そこで終わらないのがこの方々のすごいところです。なんと、変換した画像を、自然に見えるように補正したのです。先に書いたように、赤を強くして青を弱くします。すると、こうなります。 さて、まとめますと、テレビで見た時には映画で見た時より青っぽく見えるので、画像を赤くしたとそういうことです。えー、先にも書きましたとおり、人の目は色温度を自動的に補正する機能に長けているので、少しぐらい赤かったり青かったりしても気になる事はあまりありません。単独のソースしか無い場合は、「こういう色なんだ」と納得してしまう事の方がおおいと思います。 プロとしてあるまじき行為ではありませんか? |
具体的な手順はこう☆DVD化の具体的な手順は下の通りです。(HiVi8月号の記事を参考に推測で書きました。) 「千と千尋」のデータはコンピュータ上にしか存在しません。セル画の場合、セルの色を見ればどんな色なのか確かめる事が出来ますが、コンピュータの場合、表示するデバイス毎に色が変わってしまうため、確認する事は不可能です。これを解決するために、撮影監督・奥井敦氏が使っている「バルコ製マスターモニター」を基準の色として、奥井氏立ち合いの元補正が行われました。 「映画テレビ技術2002/3号」によると、色温度5500K・輝度を90cd/m2・ガンマが2.2、2010x1068ピクセル、RGB(各16bit)である、というご指摘を受けました。有難うございます。 まず、上のマスターデータをハイビジョンの形式に変換します。まず、大きさをハイビジョンサイズの1920×1080ピクセルにトリミングし(サイズが微妙に異なるため、画面に出ないといけない部分がはみ出る恐れがあるので、どの部分を表示させるか調整します。)、走査線数1080本、24コマのプログレッシブハイビジョンマスターができました。ハイビジョンは6500Kということになっているので、恐らく6500Kだと思います。…撮影監督はこの時点で立ち合い、補正を行ったということです。(コンピュータ上の発色とハイビジョン上での発色が違うため、色の補正を行う必要があります。) モニタの色温度を勘違いしていたので、実際にはこの段階でも色温度の変換が行われていた可能性もありますが、詳細は不明です。 次にハイビジョンマスターを480/60iにダウンコンバート(画像をDVD収録用に小さくして、プログレッシブ画像をインターレスに変換する)して、D1マスターテープ(スクイーズ収録)を作りました。色温度は9300K(誌面に明記されています)で走査線が480本、30コマインターレスのコンポーネントマスタができました。(現行では、480/24Pで保存する規格が無いためD1の480/60iになったということです。)プロデューサーの鈴木氏の発言によると、この段階で、「青っぽかった」という事になり、NTSCモニター上で確認しながら調整したということです。特典映像では、フィルムから映像をとり、普通やらない調整が行われていないので、一般的な色合いで楽しむ事が可能です(制作サイドから言えば、やや青みがかっているとも言えます。)。 そして、やっと、DVDに収録です。DVDでは、逆2-3プルダウン処理を行う事により、走査線480本、24コマのプログレッシブ、9300KのDVDの完成です。実際には、色温度は便宜上つけてあるだけであり、DVDの映像の色温度が何色である…という指定はありません。9300Kで表示させれば、制作者側の意図した表示ができるということです。尚、ビデオもDVDと同じマスターを利用しているため、環境によっては赤く表示されます。 |
追加情報根拠 色温度 ↑6000〜6500K=太陽の表面温度を基準にして相対的に表した図、とのことです。(絶対的に見ると、中央付近にも色が付いていおり、例えば中央付近の6500Kだったら黄色い色が付いているということです。)上のような図しか見た事がなかったため、なんの疑いもなく掲載しました。ご指摘有難うございます。 もう少し詳しく書きました。色温度に興味のある方はご覧下さい。 データの損失 普通に見える−オートホワイトバランス、RGBゲイン補正、特典映像及び外国版 |
リンク全部無断リンクです。 千尋DVD(千と千尋の神隠しDVDに関して2ちゃんねるで出ている情報を集めてみました。)−主に、掲示板群「2ちゃんねる」に寄せられた投稿などを整理、収集しているサイトです。通称「赤問題研究室」。大量の情報が掲載されています。 赤い「千と千尋」リンク−「千と千尋」が赤い問題についてのリンク集です。マスコミ及び掲示版へのリンクが充実しています。 ブエナ・ビスタ・ホームエンターテイメント−「千と千尋の神隠し」DVD及びビデオの販売元、ウォルト・ディズニー・ジャパンの映像ソフト販売部門。同社はこの問題は不具合ではないとしている。 スタジオジブリ−「千と千尋の神隠し」を制作したスタジオ。色彩の決定はこちらで行われた。こちらも、不具合ではないとしている。両者間の意志の疎通がうまく出来なかったか、ジブリがこのことを承知で処理を強行させたかで責任の所在が異なる。 |