■社会の変化と避妊法
【避妊法がなかった時代】
近代以前の社会で避妊を切望していたのは、売春婦であったと思われます。しかし、有効な避妊の方法はありませんでした。そこで考えられたのが、堕胎薬でした。日本でも、非常に優れた堕胎薬が開発されていたようです。しかし、いかに優れた堕胎薬であっても、女性の体に大きな負担となったことは想像に難くありません。
近代以前の社会では、子どもの数は共同体(むら)と自然が決めていました。近代社会では、むらに代わって家が子どもの数を決めるようになりました(「望まない妊娠・中絶と女性の人生について」↑参照)。家が子どもの数を決めるようになると、人口は急激に増加します。現在、開発途上国で起きている人口爆発も共同体の崩壊と関係しています。家に子どもがゾロゾロいる風景は、近代社会が生み出したものです。
【家族計画としての避妊】
子どもが多いために生活が苦しい。ここから、避妊の必要が考えられはじめました。日本の産児制限運動の提唱者に山本宣治(参照)という人がいます。彼は無産政党から国会議員になった人です。「貧乏人の子沢山」を解消するために避妊に注目したのです。
日本の避妊運動の提唱者だった山本は、右翼に暗殺されてしまいます。しかし、「貧乏人の子沢山」解消のための避妊という発想は、引き継がれていきます。
ここで避妊というのは、一定数の子どもを産んだ後にもう子どもを作らないということを意味していました。まさに家族計画だったわけです。家族計画としての避妊では、厳密な成功率は求められませんでした。3人の子持ち家族が4人目はいらないと考えたとします。4人目の子どもを産まないための避妊は、絶対的な成功率でなくてもよかったのです。コンドームは10年間使い続けると1度程度は失敗してしまいます。それで、3人の子どもが4人になっても、それほど大きな支障はなかったのです。
【ピルが受け入れられた社会的背景】
山本宣次が産児調節運動にとりくんでいたころ、まさに山本と同じような動機で産児制限運動に取り組んでいた女性がアメリカにいました。マーガレット・サンガーです。彼女は山本とも親交があり、日本にやってきています。そしてやがてピルの生みの親になっていきます。
サンガーには貧困からの救済と共に、女性の自立という思想がありました。サンガーも弾圧されたことがありますが、やがてアメリカ社会に受け入れられていきます。
欧米社会でコンドームによる産児制限が、そしてピルによる避妊が受け入れられていったのはなぜでしょう。そこには、大きくふたつの理由があります。
一つは女性の社会進出です。20世紀の世界では、仕事と家庭を両立させる女性が生まれてきました。彼女たちにとって、アバウトな避妊は満足できるものではありませんでした。より完全な避妊が求められたのです。
二つに晩婚化があります。家族計画の避妊というものは、子どもを産んだ後の避妊です。ところが、晩婚化にともなって子どもを産む前の避妊の需要が生まれてきました。現在の日本でも、女性はその生殖年齢の内の前半20年近くを未婚で過ごすことが珍しくありません。この間の避妊が問題となってきました。しかも、そこで求められる避妊はより完璧な避妊でした。
【社会の変化についていけない日本の避妊】
欧米社会でピルが普及する社会的条件は、十分にあったということができます。ひるがえって、日本ではどうでしょう。多少の時差はあったとしても、日本の社会にも同じような変化がありました。しかし、日本では社会の変化に避妊法がついていかなかったのです。
十代で結婚していた時代、婚前の避妊は必要なかったでしょう。30代で結婚するようになった現在もなお、家族計画の発想に固執している日本は奇妙な国といえるかもしれません。なにしろ、助産婦さんが出産後の避妊指導を丁寧にしてくれる国なのですから。
前時代の化石を懸命に守っている間に、多くの女性が望まない妊娠を経験し、そして中絶の悲しみを受けている現状。皆さんは、どう思われますか?
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■妊娠のしくみ
排卵前の体の中では、卵巣の中にある一つの卵胞が大きくなっていきます。
卵胞からはエストロゲンが分泌され、子宮内膜が厚くなります。
エストロゲンが一定の水準以上になると、黄体化ホルモン(LH)が分泌されます。
これが排卵を起こさせるホルモンです。排卵された卵子の寿命はせいぜい1日です。
この1日の間に受精すると子宮の方へ移動し、着床します。
着床までに約1週間かかります。
その頃の子宮の中は黄体ホルモンの作用で、受精卵の着床ができやすい状態に変化しています。
妊娠すると着床出血という軽い出血がみられることがありますが、
これは実際の着床から1週間ほどして起きます。生理とは明らかに違う軽い出血です。
受精卵の着床した子宮からは、絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)が分泌されるようになります。
妊娠検査薬で絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)が確認できるようになるのは、
早くて着床から1週間後です。2週間経てばはっきり確認できます。
心当たりの性交渉から3週間たって妊娠検査薬が使えるのはこのためです。
妊娠検査薬はピルの成分や他の薬剤には反応しません。
性周期・妊娠に関係するホルモンを一覧表にまとめたのが下の表です。
. |
分泌臓器 |
ホルモン |
主要刺激臓器 |
刺激/抑制 |
備考 |
1 |
視床下部 |
性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH) |
下垂体 |
刺激 |
月経初日〜排卵 |
2 |
下垂体 |
卵胞刺激ホルモン(FSH) |
卵胞 |
刺激 |
月経2日目ころ〜排卵 |
3 |
卵胞 |
エストロゲン |
子宮・視床下部 |
刺激・刺激 |
月経2日目ころ〜排卵 |
4 |
視床下部 |
黄体化ホルモン(LH) |
卵胞→黄体 |
刺激 |
排卵直前。排卵日検査薬はLHを測定 |
5 |
黄体 |
エストロゲン・プロゲステロン |
子宮・視床下部 |
刺激・抑制 |
排卵〜月経前。 |
6 |
子宮内膜 |
絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG) |
黄体→妊娠黄体 |
刺激 |
着床〜。妊娠検査薬はhCGを測定 |
7 |
妊娠黄体 |
エストロゲン・プロゲステロン |
子宮・視床下部 |
刺激・抑制 |
着床〜。 |
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■「安全日」予測の難しさ
BMJ誌11月18日号掲載論文の抄訳 MedWaveに紹介記事
月経周期中における受胎期間のタイミング−前向きコホート試験による期日特定評価
Allen J Wilcox,
David Dunson, Donna Day Baird
アブストラクト
目的:「6日の危険日」の確実性についての評価。
被験者:221人の健康な女性。
方法:尿中エストロゲン・プロゲステロン測定により、のべ696月経周期の排卵を調査。
結果:月経期間中の長い期間が危険日であった。月経6日目から21日目までの間、危険日である確率は少なくとも10パーセントであった。また、突発的な排卵の遅れは予想できない。まだ月経の来ていない4〜6%の女性にあっては、月経第5週であっても受胎の可能性があった。
結論:危険日が最も危険な6日間(月経10日目から17日目までの間)の中に収まっていたのは、30パーセントだけである。多くの女性では、もっと早い時期から危険日であったり、あるいはもっと遅い時期まで危険日であったりする。月経周期が安定していたとしても、危険日は非常に予測しがたいと知らされるべきである。
序文
排卵を予測しうる信頼できる方法はなく、それゆえ危険日を予測することも信頼できない。臨床ガイドラインは危険日を予測するが、それは後ろ向き試験によるものである。我々は健康な女性につき前向き試験を行い、新しい評価を提出する。
参加者と方法
(省略)
結果
排卵は早い場合には月経8日目に起こり、遅い場合には月経60日目に起こった。図1は危険日の分布を示している。分布はなめらかな曲線を描いている。全体として、213人中2%は月経4日目から危険日であり、17%は7日目から危険日である。危険日である日にちのピークは月経12日目と13日目であり、この時54%の女性が危険日であった。排卵が遅れれば、危険日はもっと遅れた。月経5週目を迎えた女性のなかで、4-6%の女性は危険日であった。
月経不順の女性では排卵が遅れがちであり、不規則だった。その結果、彼女たちの危険日はより拡散したものになった(図2)。
図3は正常月経女性の月経周期別危険日確率を示している。27日以下の月経周期の女性では、平均的により早い排卵が認められた。それゆえ、比較的長い月経周期の女性と較べてより早く危険日となった。
比較的長い月経周期の55人中7%だけが第1週の内に危険日となったのに対し、39人の短い月経周期を持つ女性では1/3が第1週の内に危険日となった。
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■避妊法の失敗率とは?
現在、各避妊法の避妊率の記述では、以下の文献が世界的にもっとも多く参照されています。
Trussell J. Contraceptive efficacy.
In Hatcher RA, Trussell J, Stewart F, Cates W, Stewart GK, Guest F, Kowal
D. Contraceptive Technology Seventeenth Revised Edition. New York NY: Irvington
Publishers, 1998
この文献では、妊娠率を一般的な使用Typical
Useと理想的な使用Perfect Useに分けて、記述しています。
たとえば、殺精子剤の一般的な使用では26%、理想的な使用では6%となっています。
この26%というのは何を意味しているかというと、殺精子剤だけを使って避妊した場合、1年以内に26%の女性が妊娠するということです。
妊娠率と避妊失敗率は厳密にいえば異なりますが、ほぼ同義語と考えてよいでしょう。
妊娠率26%はいうまでもなく、100人中26人は1年以内に妊娠するということです。でも、世の中には運のよさに根拠のない自信を持っている人がいるので(笑)、全員が妊娠するのにかかる理論上の年数(1回妊娠年数)を計算してみることにしました。
1回妊娠年数=100÷妊娠率(%)
たとえば、殺精子剤では、
1回妊娠年数=100÷26(%)=3.8(年)
となります。これは最も運のいい人でも、3.8年の間には妊娠するということを意味します。
それほど強運に自信のない人のために、1回妊娠平均年数も計算しましょう。
1回妊娠平均年数=1回妊娠年数÷2
殺精子剤についていえば、1.8年の内には妊娠すると考えてもよいでしょう。
(注)避妊失敗率を表す指標は、Pearl
Index(パールインデックス,PI)といわれます。
Pearl Indexは使用状況によって2段階表示となっています。Pearl
Index 9-25は、理想的な使用法で1年間に9%が妊娠し、一般的な使用で25%の妊娠率となることを示します。Pearl
Indexは一般名詞であり(R. Pearl は故人)、調査者により異なります。下記表中には上記Trussell
Jの著著を用い、適宜他文献のPearl Indexを※で示すこととします。
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■無避妊(避妊失敗)による妊娠の確率
【無避妊】
避妊なしの性交渉があれば、どんな状況でも妊娠の可能性があります。すぐに子どもを作りたいカップルがハネムーンに出かけたとします。このカップルがその月に子どもを授かる確率は16%程度です。ハネムーンベビーにならなくても、1年以内には85パーセントのカップルが妊娠します。
子どもをほしくないカップルが、たまたま避妊に失敗したとします。その性交渉で妊娠する確率は、どの程度でしょう。個々のケースについていえば、16パーセントのこともあれば、0パーセントのこともあります。しかし、16パーセントのケースなのか0パーセントのケースなのか、これを確かめることはできません。結果的に見れば、半数は排卵前であり、半数は排卵後であったということになります。したがって、1回の避妊なしの性交渉で妊娠する確率は8パーセントとなります。これは国際的に承認された考えですが、日本では30パーセント説が広く流布しています。そのカラクリについてはこちらを参照して下さい。
|
一般的な使用
(1回妊娠平均年数) |
理想的な使用
(1回妊娠平均年数) |
該当商品等 |
備考 |
無避妊 |
85 (0.59年)
|
85 (0.59年)
|
− |
− |
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■非近代的避妊法の種類と妊娠率
【殺精子剤】
フィルムタイプ・錠剤タイプ、ゼリータイプがあります。薬剤の主成分は界面活性剤です。
使用説明書通りの使い方をしないと、効果が極端に低くなります。つまり、薬剤挿入が正しく行われること、十分溶けていること、時間が経過しすぎないことなどが重要です。単独で使うというよりは、コンドームなどと併用するものと考えておいた方がよいでしょう。
※殺精子剤Pearl Index9.0-25.0
|
一般的な使用
(1回妊娠平均年数) |
理想的な使用
(1回妊娠平均年数) |
該当商品等 |
備考 |
殺精子剤 |
26 (1.9年)
|
6 (8.3年)
|
マイルーラ、ネオ・サンプーン、FPゼリー |
− |
【周期禁欲法】
危険日にはしないという方法?です。
そこで問題となるのが、危険日を知る方法です。排卵を確実に予測できれば、この方法も有効です。ところが実際には、排卵日を正確に予測することはできません。上の「妊娠のしくみ」でも説明したように、排卵は気まぐれに起きているのです。
周期禁欲法の中で、オギノ式は排卵を予測する方法、基礎体温法以下の3つは排卵があったと思われるときまで禁欲する方法です。
排卵後12日〜16日で月経が始まることから排卵日を予測する方法がオギノ式です。これに精子・卵子の寿命を加味すると妊娠しやすい時期の予測できることになります。便利なソフトがありますので、こちらでダウンロードしてみて下さい。
体から送られてくる排卵のサインをキャッチする方法には、いくつかの方法があります。代表的なものは基礎体温法です。おりものの性状変化やLH測定なども、排卵のサインをキャッチするものです。なお、基礎体温法以下の数字は、排卵のサインがあるまでは性交渉を持たないとしたときの数字です。
※基礎体温法Pearl Index 2.0-4.0
|
一般的な使用
(1回妊娠平均年数) |
理想的な使用
(1回妊娠平均年数) |
該当商品等 |
備考 |
周期禁欲法 |
25 (2.0年)
|
|
− |
− |
オギノ式 |
− |
9 (5.6年)
|
− |
− |
基礎体温法 |
− |
3 (16.7年)
|
− |
− |
頸管粘液法 |
− |
2 (25.0年)
|
− |
− |
排卵後限定法 |
− |
1 (50.0年)
|
− |
− |
【膣外射精】
カウパー腺液の中には精子が含まれています。射精そのものは膣外でなされても、妊娠することがあるのはそのためです。
|
一般的な使用
(1回妊娠平均年数) |
理想的な使用
(1回妊娠平均年数) |
該当商品等 |
備考 |
膣外射精 |
19 (2.6年)
|
4 (12.5年)
|
− |
− |
【キャップ・スポンジ】
キャップは、下記ペッサリーの小型版です。子宮頚管にかぶせて使用します。日本にはありません。海外でも現在はほとんど使われないようです。
|
一般的な使用
(1回妊娠平均年数) |
理想的な使用
(1回妊娠平均年数) |
該当商品等 |
備考 |
キャップ・スポンジ(経産婦) |
40 (1.3年)
|
26 (1.9年)
|
− |
− |
キャップ・スポンジ(未産婦) |
20 (2.5年)
|
9 (5.6年)
|
− |
− |
【ペッサリー】
ピアノ線の輪にお椀型のゴムを貼りつけた避妊具です。膣内に挿入して使います。現在、これを避妊用に使っている方は、日本にはいないのではないでしょうか。(医療用に生産はされています。)
※ペッサリーPearl
Index 2.0-5.0
|
一般的な使用
(1回妊娠平均年数) |
理想的な使用
(1回妊娠平均年数) |
該当商品等 |
備考 |
ペッサリー |
20 (2.5年)
|
6 (8.3年)
|
− |
− |
【コンドーム】
挿入の最初から使用することが、大切です。
男性用の使用法はこちら、女性用の使用法はこちらでご覧下さい。
※コンドームPearl
Index 2.0-5.0
|
一般的な使用
(1回妊娠平均年数) |
理想的な使用
(1回妊娠平均年数) |
該当商品等 |
備考 |
女性用コンドーム |
21 (2.4年)
|
5 (10年)
|
マイフェミィ |
− |
男性用コンドーム |
14 (3.6年)
|
3 (16.7年)
|
− |
− |
▲このページ先頭
■近代的避妊法の種類と妊娠率
【経口避妊薬】
ここから下が近代的避妊法といわれるものです。
一般的使用の妊娠率はミニピルなどを含んだ数値で、低用量ピルなど混合ピルだけについての数値は算出されていません。飲み忘れや不正な服用法等は、文化や国民性、年齢と関係していると指摘されています。
国内で実施された低用量ピルの第III相臨床試験では、延べ4,514例の女性の避妊効果が評価され、13例の妊娠例(0.29%)が報告されています。この内、飲み忘れが原因と評価された症例数は9例であり、その他の理由で妊娠した症例は4例で、原因としては効果不十分、頻回の下痢でした。
※低用量ピルPearl Index 0.1
- 0.9
※ミニピルPearl Index0.4-2.5
|
一般的な使用
(1回妊娠平均年数) |
理想的な使用
(1回妊娠平均年数) |
該当商品等 |
備考 |
全ピル |
5 (10年)
|
|
− |
− |
ミニピル |
--
|
0.5 (100年)
|
− |
日本では使われない |
混合ピル |
--
|
0.1 (500年)
|
こちら
|
低用量ピルなど |
【IUD】
子宮内避妊具の総称。かつては輪状の金属だったので、リングと呼ばれていました。その後材質が合成樹脂に代わり、ヒモがついていて取り出せるようになりました。現在、先進国のIUDは、銅付加・薬剤付加・銅+薬剤付加の3タイプが使われています。日本では、銅付加タイプがやっと認可されたばかりで、単純タイプがまだ主流です。 銅付加IUDは、銅イオンの作用で避妊効果が単純タイプよりも高くなります。微量の黄体ホルモン(0.02r/日程度)が放出される薬剤付加IUDでは、月経痛の緩和などピルの副効果と同じ効果も期待できます。
銅付加IUDは、単純タイプと較べて10倍程度避妊効果が高まるといわれています。臨床試験では、出血も少なくなったとされています。なお、日本で多く使われている単純タイプは、評価の対象になっていません。
※IUD Pearl Index1.0-3.0
|
一般的な使用
(1回妊娠平均年数) |
理想的な使用
(1回妊娠平均年数) |
該当商品等 |
備考 |
黄体ホルモン付加IUD |
2.0 (25年)
|
1.5 (33.3年)
|
− |
− |
銅付加IUD |
0.8 (62.5年)
|
0.6 (83.3年)
|
マルチロードCu250 |
− |
LNgIUD |
0.1 (500年)
|
0.1 (500年)
|
− |
黄体ホルモン+銅 |
【注射法Depo-Provera
】
黄体ホルモンの一種を注射するものです。一回の注射で3ヶ月間有効。日本にはありません。
※注射法Pearl Index 1.0以下
|
一般的な使用
(1回妊娠平均年数) |
理想的な使用
(1回妊娠平均年数) |
該当商品等 |
備考 |
Depo-Provera |
0.3 (166.7年)
|
0.3 (166.7年)
|
− |
− |
【皮下埋め込み法Norplant】
短いマッチ棒のようなカプセルを腕の皮下に埋め込むものです。一回の手術で3ヶ月間有効。日本にはありません。
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一般的な使用
(1回妊娠平均年数) |
理想的な使用
(1回妊娠平均年数) |
該当商品等 |
備考 |
皮下埋め込み法 |
0.05 (1000年)
|
0.05 (1000年)
|
− |
− |
【不妊手術】
|
一般的な使用
(1回妊娠平均年数) |
理想的な使用
(1回妊娠平均年数) |
該当商品等 |
備考 |
女性不妊手術 |
0.5 (100年)
|
0.5 (100年)
|
− |
− |
男性不妊手術 |
0.15 (333.3年)
|
0.10 (500年)
|
− |
− |
▲このページ先頭
■日本の避妊事情
ピル以下の避妊法は、一生の間一度も失敗しない可能性が高い。これが近代的避妊法といわれるゆえんです。先進国の多くは、近代的避妊法が6割から8割の普及率となっています。
一方、日本では近代的避妊法の普及率は数%に過ぎません。日本と欧米先進国の間には、非常に大きな落差があります。
この違いが生じる原因については、さまざまな見方ができるでしょう。日本滞在歴8年になる友人の見方を紹介してみましょう。
彼女の見方を一言でいえば、コンドームが消極的に選ばれているのが日本だということになります。
まず、近代的避妊法の選択肢が非常に少ない。ピルや銅付加IUDがやっと認可されたけど、ずっと日本にはその選択肢がなかった。ほかに選ぶものがないから、コンドームを使わざるを得なかったのだというわけです。
次に、費用。コンドームと近代的避妊法のコスト差が大きすぎるというのです。たとえば、ピルとコンドーム。彼女の国ではピルとコンドームに費用の差はほとんどないといいます。近代的避妊法のコストをこれだけ割高にすれば、だれでも仕方なくコンドームを選ぶんじゃないかしらというわけです。
三つめに、偏見。近代的避妊法パッシングには辟易だとか。彼女のことば。「だって、おかしくありませんか?マイルーラはSTDの検査が必要だなんて言わないでしょ。なのにピルやIUDになると、なぜSTDの検査が必要なの?これは近代的避妊法いじめですね。」ちなみに、ピル=副作用と思っている日本人がたくさんいるのは、信じられないとのことです。
四つめに教育。日本ではまともな避妊教育が行われていない。コンドームの付け方さえ教えていないのではないですか。知らない、知らない、の中でコンドームが選ばれているのではというわけです。
私は、なるほどと思いました。近代的避妊法については、「少ない・安くない・よくない・知らない」という状況があるように思います。
では、なぜ日本では近代的避妊法が選ばれにくいこのような状況が、作られてきたのか?これが問題なのだと思います。
▲このページ先頭
■なぜピルで避妊できるか?
ピルを飲んでいると妊娠しません。ピルでどうして避妊ができるのでしょう?ピルで避妊ができるのには、3つの理由があります。
1つ目は排卵が起きません。 「妊娠のしくみ」の表をみて下さい。黄体化ホルモン(LH)によって排卵が起こります。そして卵胞は黄体に変化します。この黄体は、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)というホルモンを分泌します。このホルモンが分泌されている状態では、黄体化ホルモン(LH)が分泌されることはありません。したがって、排卵は起こらないわけです。このことを利用して、排卵が起きないようにしたものがピルです。
繰り返しますと、排卵前の体の中にはエストロゲン(卵胞ホルモン)があります。排卵後や妊娠中の体の中には、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の両方があります(表の5と7)。この状態ではもう一度排卵があることはありません。プロゲステロン(黄体ホルモン)があれば、排卵しないわけです。プロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)は、ピルの主成分といえましょう。
2つめには、子宮内膜が着床に適する状態になりません。受精卵が着床するには厚くて柔らかな子宮内膜が必要です。自然の状態ではエストロゲンが子宮内膜を厚くし、ついでプロゲステロンが柔らかい子宮内膜を作るように作用します。ピル服用中は最初からプロゲストーゲン(黄体ホルモン剤)が作用しますので、十分な厚さにならないのです。これがピルに避妊効果がある2つめの理由です。
3つめには子宮頚管粘膜が粘りけをもつことです。精子は膣の奥にある子宮頚管をとおって子宮に進入します。この通り口の粘膜は、黄体ホルモンによって粘りけをまします。子宮頚管粘膜が粘りけをもつと精子の通過が妨げられます。
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■500歳で妊娠するピル
「完全な避妊はない」といわれることがあります。それは事実です。しかし、その事実はあまり意味のないことです。私たちにとって必要なことは、何でしょうか?それは自分の生涯の内に望まない妊娠を避けることができる避妊法であるかどかです。
現代の女性が避妊を必要とする期間は、生涯の内30年程度だといわれています。この30年間に望まない妊娠を避けることのできる避妊法が必要なのです。この条件を満たすものが、近代的避妊法と呼ばれているわけです。
コンドームの妊娠率は3パーセントです。これは30年間コンドームで避妊すれば、100人中90人は予期せぬ妊娠に遭遇することを意味しています。一方、ピルの妊娠率は0.1パーセントです。30年間に予期せぬ妊娠を経験する人は100人中3人です。この違いは、非常に大きいと思います。
<ちょっとひといき>
東洋にも西洋にも、不老不死物語がありました。もし、ほんとうに不老不死の薬を見つけてしまったら、・・・。実は、大変なことになってしまいます。なぜなら、人口が無限に増えてしまうからです。でも、ピルがあれば大丈夫です。不老不死の薬を発見したコロンブスが、100組のカップルと秘密の王国を作りました。今500歳前後になっていますが、皆500年前で年齢は止まっています。この王国の人口はピルのおかげで、50人増えただけだということです。500年間一度も避妊に失敗したことがなく、子どものいない50組のカップルは、ピルの禁止を国王に願い出るとか。
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■ピル服用中の避妊効果
ピルはコンドームなどと違って、避妊効果が得られていることを実感できません。ビルがほんとうに効いているのか確かめることができないので、不安に思われることもあるでしょう。しかし、ピルを飲んでいれば、排卵が起きませんからほぼ完璧に避妊できています。
飲み忘れや嘔吐・下痢などがなかったとして、ピルによる避妊効果が得られているケースについて以下にまとめました。
1.生理の初日に飲み始めた場合は、その日から
ピルを始めてのむ際の飲み始めの日が生理1日目であれば、その日から避妊効果が得られます。
生理1日目というのは、24時間以内とお考え下さい。たとえば、夕方に生理が始まり次の日の朝から服用を始めた場合、日付は変わっていますが生理初日と考えてかまいません。
2.自然流産あるいは人工流産の直後から服用を開始した場合、その日から
自然流産あるいは人工流産の場合、その日を生理1日目と数えます。したがって、自然流産あるいは人工流産のあったその日からピルの服用を開始した場合には、その日から避妊効果が得られます。
3.生理初日の服用開始ではなかったが、服用開始から2週間が経過している場合
サンデーピルなどの場合、たまたま生理が日曜日に始まらない限り服用開始は生理第1日になりません。服用開始が生理第1日でなかった場合でも、2週間経てば避妊効果が得られています。
なお、服用開始1シート目の避妊効果開始時期については、1週間後とする考えがあり、日本の説明書では7日間経過すれば避妊効果が得られるとしています。一方、服用第1周期については避妊効果が安定しないとする考えもあります。このような考えから、1シート目を飲み終わるまで他の避妊法を併用するように書いた物もあります。確かに、ピル服用中の避妊失敗は第1シート服用中に多くなっています。避妊効果が現れる時期について、1週間から1ヶ月まで幅があるわけですが、私は2週間経てば大丈夫と考えています。説明書には1週間とありますが、2週間後から避妊効果が現れると考えることにしましょう。
これは自然流産あるいは人工流産後何日か経って服用を開始したケースについても当てはまります。
4.7日間の休薬期間中も
7日間の休薬期間中(偽薬服用中)も避妊効果は持続します。
ただし、これはピル服用中止後7日間避妊効果が持続するということではありません。
休薬期間が終わって次のシートを飲み始める場合には、休薬期間中(偽薬服用中)も避妊効果は持続しているということです。
5.飲み忘れたけれども36時間以上の間隔が空くことなく、飲み忘れた際の服用法に従った場合(→飲み忘れた場合の服用法)
服用時間は一定であることが望ましいことは、いうまでもありません。しかし、多少のズレがあっても避妊効果に影響はありません。許容されるズレの範囲は12時間までと考えて下さい。12時間以内に飲み忘れに気づいた場合は、避妊効果に影響はありません。
6.下記の「妊娠しちゃう服用法」に該当しない場合
こちらも↓お読みになって下さい。
7.中用量ピルの場合
中用量ピルについては、避妊効果の十分な臨床試験が行われているわけではありません。中用量ピルの強い避妊効果を過信する考えもあるようですが、慎重に対処するようにしましょう。具体的にいうとこのページで2週間とあるところを1週間と読み替えるようにして下さい。
▲このページ先頭
■妊娠しちゃうピル服用法
ピルを服用するのはより完璧な避妊効果を期待するからですよね。せっかくピルを飲んでいるのに妊娠してしまっては、悲しすぎます。以下にピルの避妊効果が不十分となるケースについて説明します。このケースでは避妊効果が全くないというわけではありませんが、避妊効果が小さくなっている可能性はあります。「大丈夫かな」と不安なときには、他の避妊法を併用するなど万全の対応をとるようにしましょう。
1.最初の飲み始めが生理の初日でなかった場合(たとえば生理の3日目)
飲み始めて14日までの期間は避妊効果が不安定と考えましょう。特に最初の1週間は避妊効果が低いと考えて、必ず他の避妊法を併用するようにして下さい。
2.飲み忘れにより36時間以上服用間隔があいた場合
次の生理が始まるまで、またはその時から14日間は避妊効果が不安定と考えましょう。必ず他の避妊法を併用するようにして下さい。飲み忘れた場合の服用法も参照して下さい。
3.服用後4時間以内に嘔吐や下痢が現れたとき
ピル服用後約1時間半後に血中ホルモン濃度はピーク、約22時間で半減します。ピルが吸収されてしまうのに要する時間は4時間程度です。4時間以内に嘔吐があると、ピルの成分が排出されてしまう可能性があります。ピルが吸収されたかどうか不安なときには、正規の服用時間から12時間以内に追加服用するようにしましょう。
ピルの成分は小腸で吸収されます。激しい下痢が続く場合、吸収不全が起きる可能性があります。この場合も一応追加服用します。ただ、吸収不全を起こすような下痢の場合、1日だけということは少ないでしょう。念のため、次の生理が始まるまで、またはその時から14日間他の避妊法を併用するようにして下さい。
なお、服用直後に下痢があったとしても、必ず吸収不全を起こす健康状態になっているというわけではありません。一度だけの下痢であれば、心配することはないでしょう。
4.相互作用のある薬を服用しているとき
薬の中にはピルの吸収を悪くする薬があります。また、セントジョーンズワートもピルの吸収を悪くする恐れがあります。詳しくは他の薬といっしょに飲むときを参考にして下さい。
5.休薬期間が8日以上になったとき
休薬期間が8日以上になると排卵の可能性が生じます。2週間は他の避妊法を併用して下さい。
なお、実薬の終わりころの飲み忘れでは、休薬期間が実質上8日以上となることがありますので、注意して下さい。たとえば、19日目を服用せず、20日目21日目は普通に服用したというケースです。このようなケースでは、19日目から休薬期間に入ったと見なすようにして下さい。
6.分娩後最初の月経が始まる前にピルの服用を始めた場合
飲み始めて14日までの期間は避妊効果が不安定と考えましょう。必ず他の避妊法を併用するようにして下さい。
※上記中14日を7日としている文献もありますが、RURIKOは頑固に14日説です。
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■努力で完璧に近づけることのできる避妊法ピル
ピルによる避妊も確かに完璧ではありません。しかし、ピルのことをよく知れば、より完璧な避妊に近づけることができます。また、飲み忘れがないように正しく服用すれば、避妊失敗率は非常に小さくなります。
他の避妊法が突発的な事故による避妊失敗の危険を抱えているのに対して、ピルは自分の努力で危険を回避する事のできる避妊法です。どうかピルといいお友達になって下さいね。
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