東洋経済オンライン 8月23日(金)8時0分配信
■ オウム真理教とは何だったか
――オウム真理教について伺います。大田さんは、本書の冒頭において、オウムの幹部であった上祐史浩氏と行った対談について触れていますね。
はい。『atプラス』(太田出版)という雑誌の企画で、上祐氏と対談する機会を与えられました。オウム真理教が起こした一連の事件に対しては、彼らは結局のところ何を目指していたのかと、いまだにさまざまな憶測や議論が交わされています。しかし、対談の場での上祐氏の発言によれば、オウムの活動の最終目的は「種の入れ替え」に置かれており、そのことは教団の上層部において、ある程度共有されていたというのです。
――「種の入れ替え」とは、聞き慣れない言葉です。どのような意味なのでしょう?
麻原の世界観では、人類全体が2つの種類に大別されていました。ひとつは、自らの霊性のレベルを高め、超人類や神仙民族と呼ばれる存在に進化する「神的人間」であり、もうひとつが、物質的欲望におぼれ動物化していく「動物的人間」です。麻原の見解によれば、現在の世界は「動物的人間」がマジョリティを占めており、他方、「神的人間」はマイノリティとして虐げられている。この構図を転覆しようというのが、「種の入れ替え」という言葉が意味していたものです。
オウムは、数々の修行やイニシエーションによって、「神的人間」を創出・育成しようとした。その一方で、人類の霊性進化の妨げとなる「動物的人間」を粛清しようと、70トンという膨大な量のサリン生産計画に着手したわけです。現在の日本をサリンで壊滅させた後、「シャンバラ」や「真理国」と呼ばれるユートピア国家を樹立しようというのが、オウムの最終目的でした。このように、オウムの世界観においても、「神への進化」と「動物への退化」という霊性進化論的な二元論が、極めて根幹的な役割を果たしていたのです。
――他方、同じく名前の出た大川隆法氏率いる幸福の科学は、7月に行われた参院選にも、「幸福実現党」から多数の候補者を出馬させました。オウムも過去に国政に進出しようとしましたが、両教団が政治に進出する理由とは?
オウム真理教と幸福の科学の教義において共通している点は、人類は全体として霊性の進化を遂げる途上にあり、その行程は「高度な霊性を備えた特別な存在」によってリードされていると考えられていることです。そしてこうした考え方は、両教団における政治観のベースをも形成しています。
オウムは1990年に「真理党」を、幸福の科学は2009年に「幸福実現党」を結党し、政治進出を企図しましたが、その根底にある政治観は「より神に近い人間、霊格の高い人間が、この世を統治すべきである」という考え方です。「神人」が政治の頂点に立てば、世界はユートピアに変貌するといった、神権政治的な祭政一致(政治的指導者と宗教的指導者が同一で、祭祀と政治が一体化している政治)の理念ですね。
また最近の大川氏は「世界教師」を自称していますが、これも典型的な神智学の用語のひとつです。大川氏はすでに1980年代から、宗教のみならず政治においても大規模な改革を成し遂げ、それぞれの分野で指導的役割を果たしたいという願望を表明していました。宗教政党が選挙に出てきた場合、有権者であるわれわれは、各候補者が訴える個々の政策のみならず、その政党の背景を形成している根本的な宗教観や政治観にも注意を払う必要があります。
最終更新:8月23日(金)11時15分
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