2013年8月27日(火) 東奥日報 特集

断面2013

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■ 全国学力テスト/序列化懸念、目的どこへ

 4年ぶりに全員参加で実施された全国学力テスト。結果に大きな傾向の変化はなかったが、“教室の外”では市町村が学校別に成績を公表する動きが出ている。序列化を生んだ過去の苦い経験を踏まえ、自治体に禁じてきた文部科学省も公表方法の再考を始めた。「個々の児童生徒の指導改善に生かす」ことを目的に始まった学力テストは、どこへ向かうのか。

 ▽説明責任

 佐賀県武雄市は昨年12月、学力テストの小中学校計16校の成績をホームページ(HP)に掲載した。「保護者の関心が高まり、学校に関わるきっかけになる」。樋渡啓祐(ひわたし・けいすけ)市長は意義をこう強調し、「税金でやる以上、公開が原則だ」と説明責任を公開理由に挙げる。

 当初は成績が悪いと思われていた学校の成績が良かったとして、樋渡市長は「間違った評判ではなく、正確な情報を伝えるべきだ」とも訴えた。

 大阪府泉佐野市の千代松大耕(ちよまつ・ひろやす)市長も昨年10月、府独自の学力テストで学校別成績を市のHPに載せ、今回の全国学力テストについても公表する方針を一時表明した。

 今年1月には下村博文文科相に要望書を出し「首長は全体を把握した上で予算を適正に執行する責務がある」と主張。文科省が自治体に公表の判断を委ねることを含め、検討を始めるきっかけになった。

 ▽教訓

 しかし、学校別の公表が学校ぐるみの不正を招いたこともある。自治体独自のテスト結果を公表していた東京都足立区のある区立小では2007年、試験中に校長や教員が答えを間違っていた児童に問題文を指さすなどして誤答を気付かせていたことが発覚した。

 足立区は学校に順位を付けるだけでなく、成績の伸び率に応じた学校予算の傾斜配分も実施。「成績が悪ければ保護者から苦情も来るし、予算も減る。そうした状況で苦し紛れにやってしまった」。当時、区立小に勤務していた男性教員は今でも後悔しているという。

 区教委は「過度に競争をあおった」との反省から、現在は傾斜配分を廃止し、学校別公表や順位付けもやめた。

 学力テスト公表の動きに足立区の教訓は生かされるのか。鈴木一夫(すずき・いちお)区教育次長は「点数だけ出すのは駄目だ。支援策とセットでやる必要がある」と指摘する。だが、先の男性教員の見方は「(やり方を見直しても)不正はどこかで起きる。弊害しかない」と悲観的だ。

 ▽妥協

 1960年代に実施されていた文科省の学力テストでは、全国1位を争って各地で過度な競争が起き、不正が相次ぎ中止となった歴史がある。

 現在の全国学力テストは中山成彬文科相(当時)が「競い合う気持ちが大事と分からせたい」と訴え、07年度に復活。「全員対象の調査をすれば、説明責任を名目に公表に走る自治体が出てくる」との慎重論が根強く残る中、都道府県別の公表だけでスタートした。

 文科省幹部は「序列化への批判をかわし、早期に実施するための妥協の結果だった」と明かす。

 それから6年。当初の懸念は現実になりつつある。あるベテラン教員は「実施当初から競争させたいという国の本音が透けて見える。学校選択制や予算配分など、50年前のような子ども不在の競争が起きる下地は今も十分にある」と指摘した。

(共同通信社)




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