トライアスロン賛歌
 トライアスロンは楽なスポーツではない。練習も試合も正直いって辛い。トライアスロン大会出場のための準備は長くて根気のいる作業だ。プールでの数限りないターン、尻の皮がむける程のロングライド、暗くなってからのLSD、太らないための飲食制限。レースは真夏に行われるのが常で発汗は10リットルを超える。
 人間は元来怠惰にできている。しんどいことが嫌いなフツーの人間がトライアスロンをやってみようなどと思うはずがない。にもかかわらずトライアスロン大会はどれも盛況だ。なかでも、よりしんどいロングのレースは特別人気がある。選考漏れの悲哀を味わったのは私だけではないだろう。トライアスロンには辛いだけではない何かがある。
 近代科学文明は、人が体を使わなくても済む物を発明してきた歴史といえる。代表的なのが自動車で、一丁先のタバコ自販機まで車に乗っていく始末だ。食物生産力が飛躍的に増大したため先進国では過食が問題となっている。運動不足と栄養過多が、肥満と続発する糖尿病、高血圧などの成人病(いまは生活習慣病という)を蔓延させた。今日、管理社会のストレスと相俟って、自分は健康だと言い切れる人は少ない。
 トライアスリートへの道は健康への道と重なる。過食を慎み、スイム、バイク、ラン の練習を無理なく積み重ねていけば、普通の人がトライアスロンを完走出来る。かなづちが1.5Kmを泳ぎ、階段で息切れしていた人が10Km走れるようになるのだ。本来、すべての人間にはアイアンマンになれる潜在能力がある。トライアスロンレースを完走出来たあなたは自分の体力に自信を持つだろう。健康に不安を感じ、太い腹に嘆息していたのは誰だったのか。
 大変な努力なのだろうか、トライアスリートになるのは。トレーニング自体は決して楽しいとは言えない。サボりたくなるのも再々だ。しかし地道に努力すれば必ずあなたは変化する。ハードな練習は必要ない、むしろ有害だ。自己のレベルにあった低強度の練習を続けよう。継続は力なりだ。皮下脂肪が減り筋肉が盛り上がって来ればしめたものだ。
 以前はバイクで上れなかった坂が楽に登れる。長距離を走っても筋肉痛が残らない。体が軽く力がみなぎっている感じだ。レースでの順位が上昇する。あなたはすっかり変身した自分に驚く。それがトライアスロンの楽しみなのだ。