記者の目:骨抜きの原発被災者「支援法」=日野行介(東京社会部)
毎日新聞 2013年09月05日 東京朝刊
◇国は情報開示に努めよ
東京電力福島第1原発事故による被災者支援を掲げる「子ども・被災者生活支援法」の基本方針取りまとめを担当していた復興庁参事官(当時)による暴言ツイッター問題をきっかけに、支援法の骨抜きを進める政府の「真意」を報じてきた。取材の過程で、政府の無責任ぶりと不透明な政策決定過程が明らかになり、不信感は増すばかりだ。
支援法は原発事故による被災者支援のあり方を定めた理念法だ。昨年6月、超党派の議員立法で提案され全会一致で可決、成立した。放射性物質は自治体の境界を超えて拡散する。健康への影響の評価が定まらない現状では、被災者一人一人の意思を尊重した支援が求められる。このため、支援法は国の避難指示基準(年間累積線量20ミリシーベルト超)には達していないものの、放射線量が一定基準以上の地域を「支援対象地域」とし、国が住宅や医療面で被災者を支援すると規定した。支援対象地域での▽居住▽避難▽避難からの帰還−−のいずれについても、個人の選択を尊重するとした点に大きな特徴がある。
◇法の理念離れた対象地域決定
だが、成立1年2カ月後の先月30日に復興庁が公表した基本方針案は、本末転倒と言うほかないものだった。放射線量の一定基準を定めないまま、福島県内33市町村を支援対象地域としたからだ。根本匠復興相は線量による画一的な線引きは「地域を分断する」としたが、「地域」ではなく「被災者」を支援するという法の理念とかけ離れている。
もともと、支援法に基づく施策の推進を求める国会議員や市民団体は、法令などが定める一般人の線量限度(年間累積線量1ミリシーベルト)を支援対象地域の基準とするよう求めてきた。だが、復興庁は当初から1ミリシーベルトを基準にするつもりはなかったようだ。福島県外への対象拡大や財政支出増大などを懸念したと見られる。一方で1ミリシーベルトと20ミリシーベルト以外に基準となり得る数値がないため、基本方針案策定の先送りを続けたのが実態だ。