韓国で「サラリーマンの神話」と呼ばれた姜徳寿(カン・ドクス)STXグループ会長(63)の挑戦が挫折の危機に直面している。財政難のSTXグループに対する資金支援に乗り出した債権団は3日、姜会長に対し、グループ中核企業のSTX造船海洋の会長と理事会(取締役会)議長からの退任を要求したためだ。
姜会長サイドは「退任要求は債権団の越権行為で、グループ再生に必死に取り組む機会を奪うものだ」と反発している。しかし、債権団は最近、「姜会長の経営失敗に対する責任を問うべきだ」との立場を固め、姜会長が経営権を維持できる可能性はほとんどなくなった。
姜会長は平社員として入社し、財界13位の企業グループのオーナーにまで登り詰めた立志伝中の人物だ。1973年に双竜洋灰に入社。28年後の2001年に最高財務責任者(CFO)を務めていた双竜重工業を買収する形で、STXグループを発足させた。その後は、汎洋商船(現STXパンオーシャン)、大東造船(現STX造船海洋)などを相次いで買収し、造船、海運、建設へと事業分野を拡大した。昨年のグループ売上高は18兆8300億ウォン(約1兆7000億円)で、資産ベースでは財界13位となった。
順調だった姜会長の足を引っ張ったのは、2008年の世界的な金融危機だった。
主力事業の造船、海運が同時に不況に陥り、2010年からグループ全体が深刻な資金不足にあえいだ。世界的な貿易需要低下で海運部門のSTXパンオーシャンの経営が行き詰まり、船舶受注減少でSTX造船海洋が危機に直面した。昨年はグループ全体で1兆4000億ウォン(約1260億円)の赤字を出し、過去の買収・合併時に借り入れた資金の返済も困難になる事実上の不渡り状態となった。
STXグループと債権団は昨年から財務構造改善に向け、大規模なリストラを進めた。健全経営だったSTXエナジーを日本のオリックスに売却。欧州子会社のSTX OSVの株式をイタリアの造船会社、フィンカンティエリに売却した。一連の売却で7700億ウォン(約690億円)の資金を調達した。
しかし、資金不足は解消せず、今年に入り、主力企業のSTX建設、STXパンオーシャンが相次いで裁判所主導の経営再建手続きに入った。また、STX、STX造船海洋、STXエンジン、STX重工業など造船部門も企業再生に向け、事実上債権団の管理下に置かれた。
債権団は姜会長に対し、STX重工業、STXエンジンなどの経営からも完全に手を引くことを要求する可能性が高い。姜会長は経営権を守るこれといった手段がないのが現状だ。自主再建に向けた協約を結ぶ過程で、系列企業の株式を債権団に委ねている上、担保として差し入れた株式も減資の対象となる見通しだ。