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放射線と除染_28 代謝の攪乱 I(続) [医学~臨床]

体内に取り込んでしまった放射性核種を除去する方法のうち
「代謝の攪乱」を利用したヨウ素Iの除去方法を勉強しています。

1,抗甲状腺剤 が、ヨウ素の有機化を阻害する事と
2,1価アニオン に、甲状腺への摂取抑制や甲状腺からの放出促進効果があることを
昨日勉強しました。
http://mainichi-benkyou.blog.so-net.ne.jp/2011-04-27

今日はその他の方法についてです。


3,甲状腺刺激ホルモン
(私の独断で言えば、これこそ代謝の攪乱を利用した典型的な方法だと思うのですが・・)
甲状腺から甲状腺ホルモンを分泌させる事で、取り込まれたヨウ素を除去する方法です。

甲状腺をふくむ内分泌器官は、ホルモンを分泌する際に
主にその上位ホルモンによる調節を受けています。
甲状腺の場合には、脳下垂体前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモン※1によって調節されています。
※1 TSH; Thyroid stimulating hormone

TSHの分泌が多いと、甲状腺は刺激されて甲状腺ホルモンの分泌を旺盛にしますし
TSHの分泌が少ないと抑制されます。

ヨウ素I は甲状腺ホルモンの材料となりますので
TSHを分泌させて、甲状腺ホルモンとして放射性ヨウ素を放出させ、除去しようというわけです。

ただし、TSHの分泌は血液中の甲状腺ホルモンの多少によってフィードバックを受けています。
放射性ヨウ素を含む甲状腺ホルモンが血液中に多くなると
生来のTSH分泌は抑制されてしまうという点に注意が必要です。

また、TSHもまた視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン※2によって
さらに上位から調節されています。
※2 TRH; Thyrotropin releasing hormone

4,有機化済み放射性 I の除去
甲状腺に濃縮されて既に有機化された放射性ヨウ素の排泄は
甲状腺機能検査のために放射性ヨウ素を投与された患者などのデータがあります。

131 I を投与した後で、色々な物質(NaI, メチマゾール, 過塩素酸カリウムとチオシアン酸カリウムなど)を
5日間連続投与して、有効半減期を調べたところ
メチマゾールを投与した場合に明らかに半減期が短縮したそうです。
つまり、排泄が促進されたというわけです。

また同様に成人に対して131 I を投与した後で、
ヨウ化カリウム200mg経口 and/or TSH10単位筋注を投与したところ
ヨウ化カリウム単独は効果なし、TSH単独は効果はわずかだったのに対し
2つの併用の場合には、有効半減期は1/2以下に短縮されたそうです。
またこの併用効果の継続期間は約1日であることも分かっています。

仕組みとしては、TSHにより131 I を含む甲状腺ホルモン放出促進がなされ
ヨウ化カリウムによって131 I の甲状腺への濃縮・再利用を抑制しているのでしょう。


ただし、放射性ヨウ素の内部被曝に対する対処法の原則としては
ヨウ素剤をなるべく早く(2~3時間以内)に経口投与(=希釈)して
甲状腺へ放射性ヨウ素が取り込まれるのを抑制するのが
最も安全かつ有効な方法である事を忘れてはいけません。

代謝の攪乱による方法は、副作用と効果の問題や、複雑な手技など
様々な問題をはらんでいるため、適応には充分な検討が必要です。

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