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【東京】

墨田区「北斎美術館」瀬戸際に 入札やり直しへ

「すみだ北斎美術館」の模型(墨田区提供)

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 墨田区が東京スカイツリーと並ぶ観光拠点ともくろむ「すみだ北斎美術館」の建設計画が瀬戸際に立っている。世界的に有名な建築家・妹島和世(せじまかずよ)氏の設計だが、区が示した予定価格が低すぎ、業者が「採算が合わない」と七月に入札を辞退したためだ。区は予算を増額し入札をやり直すが、今月中に業者が決まらなければ、二〇一五年度の開館予定が遅れるばかりか、国や都の財政支援を受けられず、計画を見直す事態になりかねない。 (奥野斐)

 妹島氏は「建築のノーベル賞」と言われるプリツカー賞を受賞。この建物も見る角度により表情を変える外観が特徴で、一階で四つに分かれていた建物が二階以上で一つに合わさる複雑な構造だ。外壁に特殊アルミパネルを使い、周辺の下町の風景を映し込む。

 特殊な資材と技術を多用する設計だが、見積もりを担当した区営繕課が標準的な手間賃で見積もってしまい、建築工事費を実際より低めの約十一億二千万円として入札を公告。大手ゼネコンを筆頭とする共同企業体二グループが応札を検討していたが、七月二十六日の開札を前に「難易度が高く採算がとれない」と辞退したという。萩原和富(はぎわらかずとみ)課長は「認識が甘かった。妹島さんの設計なら(ネームバリューから)手を上げる業者があると考えていた」と陳謝した。

 設計の指定通りの資材と手間賃で再び見積もった結果、工事費は六割増の約十八億五千万円に膨張。交付金を差し引いた区の負担増加額は一億一千万円余になる。来年度中の竣工(しゅんこう)が国の交付金を受ける条件のため、区は今月末までに業者と工事契約を結び、来月から着工したい考え。入札をやり直すにあたり、七億三千万円増額した補正予算案を九月定例会に提出した。

 山崎昇区長は三日の区議会定例会初日に異例の所信表明演説を行い、「通常の算出方法ではできない内容であることを見抜けず、猛省している。ただ、ツリーの開業で墨田区に注目が集まっている今を逃すと実現は困難になる」と建設に理解を求めた。

 一方、区内では「ハコモノは要らない」との反対意見も根強い。西恭三郎(きょうざぶろう)区議(共産)は「完成後も管理運営費が毎年一億数千万円かかる。財政難の中、必要性があるのか」と問う。

 <すみだ北斎美術館> 墨田区が地元出身の江戸時代の絵師、葛飾北斎(1760〜1849年)を顕彰するため、JR両国駅に近い緑町公園に建設を計画。地下1階、地上4階。延べ床面積は約3300平方メートル。2009年、176事業者の設計案の中から妹島和世氏の案が選ばれた。

 1989年に構想が掲げられ、この四半世紀の間に財政悪化による事業の一時凍結や建設地の変更、東日本大震災の影響による防災面の設計見直しなどがあった。完成後は、昨年度末までに約16億5000万円かけて収集した「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」など北斎の作品1400点を収蔵・展示する予定。

 

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