<ミニシンポジウム> |
シンポジウム(4) ワカメ低利用・未利用部位の食品素材化 |
〜ワカメの低利用部位を利用した高品質な漬物用ぬか床の開発〜 |
阿部 孝弘(水産技術センター利用加工部) | ||||||||||||||||||||||||||||
【目的】 本県では養殖ワカメの生産・加工に伴い、元茎や先枯れ等の低利用部位が4,OOO〜6,OOOt/年生じている。ワカメの高水分・高粘度という特徴を生かし、かつ、低コストで高い保存性が得られるような食品素材を開発するため、乳酸発酵型食品への利用を試みた。具体的には、近年、消費者需要が伸びている「即席ぬか床」への利用を試み、有害微生物制御および栄養成分強化の観点から検討を行なった。 |
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【試験研究方法】 1 ワカメぬか床の調製および有害微生物制御効果の把握試験 (1) 表1のとおりワカメぬか床と従来のぬか床(以下、対照という。)を調製した(どちらも水分は57%、水分活性はO.95、塩分は4%)。調製後、25℃の恒温条件下で15日間の熟成を施した。熟成期間中、経時的に微生物数(一般生菌、乳酸菌、酵母)、総乳酸量、pHを分析した。 (2) 乳酸でpH3.5〜7.Oに調整したブイヨン培地10mlに表2の有害微生物を1白金耳接種し、37℃で24時間静置培養を行ない、乳酸によるpHの変化と増殖度との関係について検討した。増殖度は、660nmの波長で濁度を測定することで評価した。 2 ワカメぬか床の成分分析および野菜の漬け込み試験 熟成15日目のワカメぬか床および対照の一般成分、塩分およびミネラルを測定した。また、ワカメぬか床に特に多いカリウムの漬け込み野菜に対する挙動を把握するため、キュウリの漬け込み試験(5℃で18時間)を実施し、漬け込み前後のキュウリのカリウム含量を測定した。 |
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表1 ワカメぬか床と従来のぬか床の原料配合 g
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表2 供試した有害微生物
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【成果の概要】 |
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1 ワカメぬか床の調製および有害微生物制御効果の把握試験 (1)漬物用ぬか床の風味の形成には乳酸菌と酵母が重要な役割を担っており、特に乳酸菌は風味の形成のほかにも生物的保存効果等を有するといわれている(小川,1964)。本試験では、対照に較べてワカメぬか床は熟成初期の乳酸菌の増殖が速く、かつ、微生物叢を優占しており、総乳酸の蓄積能やpH低下能に優れることが示された。ワカメぬか床のpHは、熟成9日目でpH4.Oにまで低下する(図1)。 |
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(2)供試した有害微生物は、ぬか床原料からの混在や調製時の混入が危慎されるが、比較的低いpHでも増殖可能な大腸菌およびサルモネラ菌でもpH4.5以下では増殖できなかった(図2)。 また、米国医薬品庁が刊行したFish&Fisheries Products hazard&Controls Guide:2ndEdition(1998)でも、主な病原菌の増殖下限pHはpH4〜5であることが示されている。 ぬか床の有害微生物制御には、pHの他にも塩分等が相乗して作用するが、ワカメぬか床は熟成初期のpH低下能に優れるため、有害微生物の制御に有利であることが示唆される。 2 対照に較べてワカメぬか床は炭水化物や灰分が多く、ミネラルでは特にカリウムが多かった。漬け込み試験でも、キュウリヘのカリウムの増強効果が確認された(図3)。 ぬか床に野菜を漬け込むと、ぬか床中の塩分により野菜の細胞壁と細胞膜が分離する。ぬか漬けにすると野菜のビタミン等が強化されるが、これは分離した細胞壁と細胞膜の隙間にぬか床中の水溶性成分が流入するためといわれている(小川,1989)。 ワカメぬか床に漬け込んだ野菜には、カリウム等のミネラルのほかにもワカメ由来の水溶性成分が強化されていることが推測される。 |
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【今後の問題点】 1 特許出願 岩手県、(財)釜石・大槌地域産業育成センターおよび(独)水産総合研究センターの3者で共同出願予定。 2 技術応用による製品化 平成14年度の加工勉強会(水産技術センター主催)で試作品を公開のうえ、賛同いただいた県内企業数社と「ワカメ加工研究会」((財)釜石・大槌地域産業膏成センター主催)を立ち上げて商品化に向けた検討を実施している。 |
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