白仁田１勝　ドラ１の虎６年かかった

＜ＤｅＮＡ１－１０阪神＞◇３日◇横浜

　ついに開花の予感や～。６年の苦労を振り払うように、今季初登板の阪神白仁田寛和投手（２７）がガムシャラに腕を振った。虎の０７年大学・社会人ドラフト１巡目で入団した右腕が、プロ６年目でうれしい初勝利。突然巡ってきた初先発のチャンスを生かし、６回１失点の好投。初先発で初勝利を挙げたのは、阪神ドラフト最上位入団の右投手では初めてだ。

　弟よ、見てくれたか…。白仁田はとにかく必死に投げた。プロ６年目での初先発だ。次にいつ、チャンスが訪れるか分からない。自分のため、チームのため、そして家族のため…。横浜スタジアムの客席には、神奈川県に住む弟義典さんが観戦に訪れていた。それだけではない。いまから１２年前だ。０１年に当時９歳の弟誠弥君を交通事故で亡くしていた。野球好きの４人兄弟だった。いつも家の前でキャッチボールしていた。

　福岡・糸島の実家に帰省した際には墓参りも欠かさない。この日は特別な１日だ。天国から見守っている弟の分まで白球に魂を込めた。プロ初勝利のヒーローインタビュー。感謝したい相手を問われると「やっぱり両親です」と言う。目はうっすら潤んでいるようにも映った。ウイニングボールも実家へ。家族あってこそのマウンドだ。だから逆境でも踏みとどまれた。

　最大のピンチは６回だった。連打で無死一、二塁。２安打を浴びていた中村との対戦だ。「シュートしていたのが分かったので引っ掛けてくれればいいなと思った」。直球で打ち損じを誘い、狙い通りに６－４－３の併殺打を完成させた。自らの暴投で三塁走者の生還を許したが、１失点で切り抜けた。６回１失点で降板。大量得点に守られ、６年目での初勝利を挙げた。

　勝っても、満面の笑顔はなかった。０７年大学・社会人ドラフト１巡目で入団した経緯がある。過去５年間で１軍登板はわずか４試合だ。「迷惑しかかけていない。申し訳ない気持ちでいっぱいです。うれしさとかはない」と話した。それでも、６年間のすべてを出した。２回無死一塁。梶谷に内角直球でズバッと突く。見逃し三振に抑えた寸分違わない制球が成長の跡だ。スライダーなど変化球も効果的に用いて、好投した。

　今季も長く２軍暮らしが続いた。先発として２度、１軍昇格の筆頭候補に挙がったが結果を残せず、チャンスを逃していた。この日も当初はウエスタン・ソフトバンク戦（鳴尾浜）で先発予定だった。スタンリッジが腰痛で離脱し、思いがけない形で巡ってきたマウンドだ。気負いはない。初回から思い切り飛ばした。

　「今日は２軍で投げる予定だったのでちょうど良かったです。序盤は少し力んだけど、緊張することなく投げられました。野手の方が打ってくれたので、楽に投げられました」

　苦節６年目での初星はチームにとっても収穫だ。７月１７日ヤクルト戦では鶴が勝利。２軍でしのぎを削ってきた若武者がまた好結果で応えた。チーム事情もあり、今日４日に出場選手登録を抹消される方針だが、確かな手応えを得た。将来を期待されたドラ１右腕が、大きな１歩を踏みしめた。【酒井俊作】

＜白仁田寛和（しらにた・ひろかず）アラカルト＞

　◆生まれ　１９８５年（昭６０）１０月２日、福岡県糸島市（旧志摩町）生まれ。

　◆球歴　可也小４年のとき野球を始め、小学時代は捕手。志摩中２年のとき投手に転向。糸島高では３年のとき福岡大会５回戦敗退も、３試合連続２桁三振を奪い注目された。福岡大では九州６大学リーグでＭＶＰ１回、ベストナイン２回。通算２０勝８敗、防御率１・８１。０７年ドラフトでは大場翔太（ソフトバンク）の外れ１位として阪神から大学・社会人１巡目指名された。

　◆苦闘ロード　プロ入り３年間は大学４年の春に痛めた右肩が完治せずリハビリの日々を送りつつ、２軍戦に登板。１年目は２軍戦で６試合に投げ０勝１敗、防御率２・４５。２年目は２軍戦で４試合１勝１敗、防御率１６・６２。３年目は２軍戦１０試合１勝４敗、防御率５・７３。

　◆１軍デビューからここまで　４年目の１１年１０月２３日の広島戦で７回裏から３番手として救援登板し１軍デビュー。１回を無失点で切り抜けた。２試合に登板し１回１／３を無失点。２軍戦では１０試合に投げ、０勝３敗２セーブ。防御率５・９３。昨年は１軍２試合に登板し防御率３・３８。２軍戦では２８試合に投げ３勝３敗２セーブ、防御率２・６４。今季はウエスタン・リーグ１７試合に投げ４勝１敗で勝率トップの８割。防御率２・３２と阪神秋山に次ぎ２位。

　◆まりこ様と同級生　元ＡＫＢ４８・篠田麻里子とは糸島高で同級生。「まさかこんなふうになるとは」と驚いていた。

　◆サイズ　１８９センチ、８３キロ。右投げ右打ち。

　［2013年9月4日11時20分　紙面から］