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泥のEM団子は環境を汚染するゴミ? 海や川の水質浄化、生態系復元のウソ

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2013.09.03

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 例えば、発酵を司る乳酸菌であろうと、体内で体調を整えてくれるような善玉菌であろうと、人間の意図に反して増殖した微生物は、ただの「雑菌」でしかない。微生物に水質浄化の働きがあるとしても、きちんと管理できない環境で「雑菌」をまき散らすのは、環境を汚染する行為なのだ。

 そもそも泥団子の材料であるEM活性液は、栄養豊富な有機物だ。以前から、家庭で米のとぎ汁をそのまま下水に流すことが、河川や海を「富栄養化」して水質を汚染するという危険が語られているが、EM菌もそれと同じだ。EM活性液に含まれるリンや窒素が原因となり、プランクトンの増殖や赤潮・アオコ等を発生させる可能性は十分にある。
【参考リンク:http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/water/attachement/H19-panf.pdf

 また、閉鎖系の小さな沼や水槽にEM活性液を投入した場合、好気性の微生物が水中の酸素を取り込んでしまうため、魚が酸欠状態になる可能性もあるのだ。ネットでは、メダカを飼っている水槽にEM活性液を投入したら、メダカが浮かび上がってしまったという書き込みもあった。だとすれば、効果がないどころの話ではない。生態系に重大な影響を及ぼしかねない事態に陥るだろう。

 先の海の日のEM菌投入イベントの一環として、神奈川県藤沢市の蓮沼でもEM団子の投入が予定されていた。だが、この蓮沼は藤沢メダカという希少種の生息地だったため、関係者から反対する声が上がった。最終的に、EM団子の投入は中止されたという。

●目的は手段を正当化しない

 結果的に環境汚染を招きかねないEM団子の投入イベントだが、参加している人は基本的に、環境に対する意識も高く、良かれと思ってやっている人ばかりだ。ただし問題は、「環境に良い」という主催者側の主張だけを信用してしまうことにある。

 開発者である比嘉氏らは、実際にEM団子の投入によって河川が浄化されたと主張している。だが、河川の環境保全活動を行っているのは彼らだけではない。確かに80年代、90年代に比べれば、多くの河川で水質は劇的に向上している。だが、下水や浄水施設などのインフラも整備され、多くの団体が日常的に清掃活動や環境美化活動を実施している。そうした条件を無視して、EM菌が河川を浄化したと断定することはできない。

 環境に対するEM菌の効果は、いまだに実証されていない。だが、その状態のまま、EM団子関連のイベントは、各地の環境ボランティア団体や一部の教育関係者の間に広まっている。 実証のないままのEM団子やEM活性液を海や川に投入することは、本来の目的に反しているのではないだろうか?

 それよりもむしろ、河川の浚渫やゴミ拾いなどによる周辺環境の浄化などのほうが確実な効果が期待できる。プールやビオトープの清掃作業でも、EM団子をただ投げ込むよりも、モップなどできれいにした方が効果もわかりやすいだろう。そうした地道な作業を避け、EM団子投入だけで環境浄化が可能だと考えるなら、いささか虫のいい話に思えてならない。

「目的は手段を正当化する」と言ったのは、ルネッサンス期のイタリア政治思想家ニッコロ・マキャヴェッリだが、環境活動においてこの言葉は通用しない。

 目的は手段を正当化しないし、ましてや目的の崇高さだけで環境が浄化できるなどと考えてはいけない。環境浄化には科学的な検証が不可欠だ。たとえどんな崇高な理念をもって行った活動であっても、手段が間違っていたら、その結果は最悪なものにもなりかねないのだ。
(文=六本木博之/フリーライター)

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