では、なぜ5時42分にAさんの姿が防犯カメラに映っていたのか。気づけば単純なことでした。防犯カメラの表示時刻が進んでいたのです」
ガソリンスタンドの協力を得て、防犯カメラの時刻とNTTの時報を照合したところ、やはり8分、進んでいた。さらに、当日の販売記録を、ガソリンスタンドの運営会社に頼み込んで見せてもらうと、〈午前5時34分、現金払い〉という記録が見つかった。
「間違いない。Aさんは5時34分に、現金払いで給油をしている。39分にカードで給油した真犯人とは別人だと確信しました」(赤堀弁護士)
防犯カメラは嘘をつく
7月10日、赤堀弁護士はこれら「証拠」一式を大阪地検に提出した。1週間後、検察官から「起訴は完全な誤りです。初公判期日は取り消します」と電話がかかってきた。無実が証明されたAさんは、ようやく釈放された。逮捕から85日目のことだった。
赤堀弁護士は30歳で、'11年に司法試験に合格したばかり。弁護士になってまだ8ヵ月しか経っていない。そんな「新米弁護士」の熱意ある独自調査がAさんの冤罪を晴らしたわけだが、問題は、新米弁護士が一人でできる調査を、大阪府警がやろうともしなかったことだ。元府警幹部が言う。
「今回、捜査に動いた直轄警察隊とは、名前は一丁前ですが実態は『若手捜査員の寄せ集め』なんです。交番勤務を終えて間もない20代後半から30代前半が中心で、この期間に適性を審査され、『刑事』『生活安全』『交通』など各分野の専務員になっていく。
警察では専務員になってからが一人前と言われていますから、当然、彼らは半人前の警察官。医者でいえば研修医と同じです」
今回、捜査のずさんさが際だったのは、防犯カメラの時刻のズレを、捜査員が一度たりともきちんと検証していないことだ。
捜査員が作成した捜査報告書には、
〈(防犯カメラの表示は)3分進んでいる〉
と記されている。だがこれは、犯行時刻が39分と特定され、Aさんがカメラに映っていた時刻が42分だったので、単純に引き算をして、3分進んでいると決めつけただけだった。
前出の元府警幹部はこの事実に驚きを隠さない。
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