接見中に、ご本人から、『認めようと思います』と言われました。否認を続けたまま裁判で有罪になると、反省の色がないとして実刑になるかもしれない。改悛の情を示したら、この事案なら実刑はない。一般論として、私もそんな説明はしました。それで、『認めたほうがいいのではないか』という気持ちになったんだと思います。『とにかくここから出たい』、その一心だったんでしょう。
ただ、私としては、本当にやっていないなら、否認を貫いたほうがいいとも伝えました。何とかしますよ、と約束した記憶がありますが、その時は有効な証拠もなかったし、具体的な策は何もなかったというのが正直なところです」
もしこの時、Aさんの弱気に赤堀弁護士も同調していれば、この窃盗事件は執行猶予つきの有罪事件として、淡々と終わっていたかもしれない。それこそまさに、大阪府警の望んでいた結末だった。
だが、赤堀弁護士はあきらめなかった。その闘志の源泉となったのが、Aさんの妻の存在だ。
Aさんがガソリンを盗んだとされる日、Aさん夫妻と二人の娘は、スキー旅行に出かけるところだった。夫がいつもガソリンを現金で給油することも知っている。夫は絶対に、やってない—妻のその信念が、赤堀弁護士を勇気づけた。
そして6月末日。ついに突破口が見つかる。
公判前整理手続で検察が開示した証拠に基づきながら、妻に当日の様子を改めて確認していたときのことだった。
「ガソリンを入れた後に、高速に入りました。午前5時40分頃のことです」
Aさんの車は、カーナビにETCの履歴が残る。その時刻も、5時40分となっていた。
「それはおかしい。犯行時刻が5時39分で、高速に入ったのが40分。犯行現場と高速の入り口は約6・4km離れている。1分でたどり着くには、時速384kmで走らなきゃいけない。そんなことはありえない」
赤堀弁護士はこれこそがAさん無罪の突破口になると直感した。事件当日と同じ日曜日、同じ時刻に車を走らせる実地検証も2度、行った。運よく信号に引っかからなくても6~7分はかかる。
「裏づけのため、ETCの記録も取り寄せ、Aさんの車が高速入り口を通過した時刻が間違いなく5時40分であることを確認しました。
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