カードが使われたのは同市西区にあるセルフ式ガソリンスタンド。北堺署は「直轄警察隊」と呼ばれる捜査員を現場に派遣した。
スタンドの販売記録から、1月13日の午前5時39分に、道路からいちばん近い第1給油機で、盗まれたカードが使用されていたことがわかる。犯行の「場所と時刻」が特定された。
捜査員がスタンドの防犯カメラを確認すると、犯行時刻の前後に給油した車が2台あることがわかった。
防犯カメラ上の時刻は5時42分と48分。捜査員は42分に給油した人物が犯人だと断定。同じくカメラに映っていた車のナンバーから持ち主のAさんを割り出し、4月24日、給油カードの窃盗容疑で逮捕したのだった。
完全に否認を続けるAさんを、府警は「ガソリンを盗んだ罪」で再逮捕。6月4日に大阪地検がガソリン窃盗容疑で起訴した。
無実でも自白する
Aさんは本誌に託した手記にこう書いている。
「最初に逮捕された時は、まったくわけがわかりませんでした。なぜ自分だけがこんな目にあうのだろうかと思いました。そして、再逮捕、起訴され、釈放される時期がどんどん延びていきました。いつ釈放されるのだろうと不安しかありませんでした。
一時は、処罰されてしまう、と覚悟を決めたこともありました」
冤罪事件の恐ろしさはここにある。罪を犯していないことは、誰よりも自分自身がわかっている。しかし連日のきつい取り調べを受け、助けてくれる人が誰もいない状況の中、刑事にこう持ちかけられる。
「もうお前は逃げられないんだ。犯行を認めたほうが刑が軽くなるぞ」
追い詰められた冤罪被害者は、その言葉を「自分への優しさ」と勘違いして、思わずやってもいない罪を認めてしまうのである。
Aさんにもそういう局面があったと、弁護人の赤堀順一郎弁護士が言う。
「6月4日に起訴されて、その月の中頃でしょうか。ご本人もかなり参っていました。その時は有効な反証もなかったですから、このままでは処罰されてしまうと、あきらめの気持ちもあったようです。
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