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「はだしのゲン」再考 どこまで日本をおとしめるのか

産経新聞 9月3日(火)15時8分配信

 どこまで日本を自らおとしめたら気がすむのだろう。「はだしのゲン」騒動で改めて、日本という国が痛々しくてならなくなった。松江市教委のなんという腰砕けぶりであり、日本の新聞のなんという偏りであることか。

 最初に結論を書く。「はだしのゲン」は特に後半、偏向し、日本をあしざまにいうことはなはだしい。公立学校の図書館に置くべき本ではない。

 おさらいしておけば昨春、この漫画を学校の図書館から撤去する要求が男性から市教委にあり、市議会に陳情もなされた。陳情は不採択になったが市教委は昨年12月、子供が自由に閲覧できないようにする措置を市内の小中学校に求めた。

 先月半ばにこの件が表に出てから、朝日や毎日新聞などが騒いだ。試みに朝日の見出しを社説も含めて追ってみよう。「閲覧制限はすぐ撤回を」「松江市教委が事前アンケ 校長多くが作品評価」「『10歳で読めて良かった』 『はだしのゲン』に米漫画家」。制限の撤回を求めるキャンペーンである。こうした声に押されるように市教委は先月26日、あっさりと撤回の結論を出した。

 翌日の朝日は、朝夕刊とも大はしゃぎ。朝刊では「『ゲン』読む自由戻った」と、抑圧からの解放のように報じた。夕刊では男性が漫画の撤去を「しつこく求めた」などとも触れ、日本兵の残虐行為だという「ゲン」の絵をわざわざ載せた。得意の自虐である。

 撤回を決めた教育委員会会議の判断もまた、浅はかだった。当初事務局のみの判断で学校に制限を求めたことを「手続きの不備」として、撤回しただけ。その後の対応は学校に委ねた。

 今回の騒動の発端がどうであれ、公教育の場で日本の歴史をどう教えるかという問題提起があったのである。撤回は歴史問題を避けて通った、責任逃れの役所仕事にすぎない。手続き上の不備があったとしても、教育委員が集まった場で改めて閲覧制限の方針を出すこともできたのだ。

 ◆根深い日本の「左傾病」

 騒ぐメディアと押される当局。これは戦後日本を覆ってきた「左傾病」ともいうべき図式である。半世紀ほども前から日本の左傾メディアは、閣僚の憲法批判、靖国参拝などことあるごとに大悪事ででもあるかのように大騒ぎし、牽制(けんせい)してきた。病根は相当に深い。

 不愉快だが、この漫画が公教育の場にふさわしくない理由を改めて見ておこう。日本の兵士がアジアで「首をおもしろ半分に切り落したり」「妊婦の腹を切りさいて中の赤ん坊をひっぱり出したり」。こんなせりふを主人公が並べる。あるいは「君が代なんかだれが歌うもんかクソクラエじゃ」と主人公に叫ばせる。さらに登場人物たちは、「いまだに戦争責任をとらずにふんぞりかえっとる」など汚い口調で天皇をののしるのだ。原爆への怒りが、日本の戦争への一方的な断罪へと転化させられている。

 昭和48年に少年誌で連載が始まった「はだしのゲン」は、いくつか発表の舞台をかえた。左派系雑誌「文化評論」あたりから政治色を濃くし、同57年に「教育評論」という雑誌に移る。

 連載が始まった「教育評論」4月号の巻頭コラムには、こんな文言がふんだんに盛り込まれている。「政府自民党の軍国主義政策」「右翼暴力集団と自民党の戦略が名実ともに完全に一致した」。左がかった運動体の扇動文としか読めない。翌5月号の特集は「反核・平和・軍縮の教育」。反自衛隊、反原発などの内容だ。「ヒロシマの心を次代の子らに」という文では、「残念なことに日本軍国主義の野蛮な侵略行為の実相は、現行教科書ではほとんどふれられていない」とある。

 「はだしのゲン」はこの雑誌での連載中、反日的なイデオロギー色をさらに濃くした。「ゲン」が日本をののしってやまないころの昭和61年12月号。雑誌も日本兵のアジアでの「悪行」を写真入りで特集している。南京事件などを、中国寄りの立ち位置でそのまま書いているのだ。

 「教育評論」の発行は日本教職員組合情宣局。表紙には「日教組機関誌」とある。このような偏った思潮のなかで「ゲン」は学校に広まっていったのだろう。

 ◆どんな国を築きたい?

 閲覧制限を批判した論者のなかには、表現の自由や子供の知る権利を持ち出す者もいた。筋違いである。次代を担う青少年を育むべき公立学校の図書館で、この漫画が野放しになっていることの是非が論じられなければいけない。

 日本には表現の自由もあり知る権利もある。しかし公立の学校で子供たちがこの漫画を自由に読める環境を作るとき、大人はどんな「公」を考えているのか。左傾病は、日本という国家の将来を健全に築いていこうとする誠実さをまるで欠いている。

 折しも中国や韓国が、歴史認識についての言いがかりを強めている。誇張されたり作り上げられたりした、おかしな歴史認識を日本で持とうとするのが左傾病の症状のひとつである。

 それとも、ナニか。左傾病の人たちは、中韓から「良心的日本人」などといって頭をなでられたいか。だとしたら回復の見込みはもはや、ない。(編集委員・河村直哉)

最終更新:9月3日(火)16時33分

産経新聞

 
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