社説

雇用制度改革/働く側に最大限の配慮を

 安倍政権の成長戦略の一環として、政府の規制改革会議や産業競争力会議で雇用制度改革の検討が進む。厚生労働省の労働政策審議会も先月30日、労働者派遣制度見直しの議論を始めた。だが、行き過ぎた規制緩和や不安定な雇用形態の拡大は、長期的には社会全体の活力をそぐことにつながる。
 暮らしが安定してこそ経済は上向く。企業の論理を優先するのではなく、労働者、国民の生活を豊かにする視点で雇用改革を進めるべきだ。
 今や雇用者全体に占める非正規労働者は約4割。女性、若年層を中心に拡大した雇用の劣化が、消費の縮小を招くだけでなく、不安定さゆえの将来への不安が、結婚できない若者を増やすなど社会全体にひずみをもたらしてもいる。
 打開策の一つとして、安倍政権が打ち出したのが「限定正社員」だ。職務や勤務地、労働時間などを限定するため、給与は通常の正社員より低くなる。事業所閉鎖などを理由にした解雇が可能になるために企業が採用に前向きになり、雇用拡大につながるとされる。
 雇用制度改革が労働市場にもたらす柔軟性は、多様な働き方を求めるニーズに対応するという側面もある。その半面、安定的で高収入の職場の減少が並行して進むことを意味し、手放しでは歓迎できない。
 雇用形態の改革だけではない。労働時間や労働者派遣をめぐる規制緩和も進みそうだ。
 政府は年収800万円を超えるような大企業の課長級以上の社員を想定し、「ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間の規制除外制度)」の実験的な導入の検討も始めた。対象社員にはいくら残業させても、時間外手当や割増賃金を支払う必要がなくなる。
 派遣労働者の雇用期間を最長3年に制限する現行ルールを撤廃すべきだとする有識者会議の報告書を受けて、厚労省の審議会で見直しの協議に入った。
 勤務に制約がある限定正社員の増加やホワイトカラー・エグゼンプションの拡大は、裏を返せば、正社員に過重な負担が掛かる懸念が大きい。
 派遣労働者の規制緩和は正社員の仕事を派遣に置き換えたり、非正規雇用を固定化したりする事態を招きかねない。「結局、得するのは企業側だけ」ということがあってはならない。
 産業競争力会議で、経営者側は合理的理由のない解雇を無効とする労働契約法の条文を見直し、解雇規制を緩和すべきだと主張した。政府は7月の参院選への影響も考慮し、結論を先送りした経緯がある。この秋以降、解雇規制の緩和が再び議論される可能性もある。
 安倍政権が脱却を目指すデフレの要因の一つは、大企業を中心に内部留保を膨らませながら進めてきた賃金抑制にある。
 求められるのは雇用の安定と収入増から始まる経済の好循環。だからこそ雇用制度改革の推進には、労働者への最大限の配慮が必要になる。

2013年09月02日月曜日

新着情報
»一覧
特集
»一覧
  • 47NEWS