2013年8月30日(金)

緊迫シリア 反政府勢力のクルド人たちは今

鎌倉
「シリア国内の状況に目を向けますと、アメリカ主導の軍事行動が検討される中で、『反政府勢力』の内部対立が深刻さを増しています。」





黒木
「アサド政権と対峙する、シリアの反政府勢力。
決して一枚岩ではなく、大きく3つに分かれています。
まずアサド政権に反発し、軍から離反した兵士が主体の『自由シリア軍』。
シリア国外から流入し、国際テロ組織アルカイダにもつながると言われる『イスラム過激派の武装勢力』。
そして、シリア国内の少数民族である『クルド人』です。

これまでは反アサド政権ということで一致していた、この三者なんですけれども、ここにきまして、『イスラム過激派の武装勢力』が『クルド人』を激しく攻撃しているんです。





その『クルド人』、隣国トルコやイラク、そして、イランなどにおよそ3,000万人が暮らしていまして、独自の国家を持たない世界最大の民族集団と言われています。
このうち、シリア国内には300万人、これはシリアの人口の10%以上にあたります。
シリアから続々と避難するクルド人の現状を、シリアとイラクの国境の街で取材しました。」

複雑化するシリア 反政府勢力に異変あり

荒野の中、続く長蛇の列。
気温40度を超える中、シリア国内の戦闘から逃れてきた人たちです。




シリアとの国境近く、イラク北部にある難民キャンプ。
ほとんどが、シリアから来たクルド人です。
国連によると、難民の数はすでに4万人以上。
このままでは10万人を突破するとみられています。


これは、クルド人たちが多く暮らしていたシリア北部の町の映像です。
銃で応戦しているのは、クルド人。
激しい銃撃を加えているのは、イスラム過激派の武装勢力です。
この1年ほどは、イスラム過激派の武装勢力、「ヌスラ戦線」が特に激しい攻撃を仕掛け、犠牲者を増やしています。
背景には、世俗的なクルド人をイスラムの敵と見なすなど、宗教をめぐる対立があると指摘されています。

シリアのクルド人組織 サレハ・ムスリム氏
「アサド政権からの攻撃後、今度は過激派から攻撃してきたのです。」




イラク北部の難民キャンプに逃れてきた、アフメドさんとシンダーさんの夫妻です。
2週間前に待望の長男が生まれたばかりですが、突然、イスラム過激派の武装勢力の襲撃を受け、2日間かけて、難民キャンプにたどり着きました。

アフメドさん
「クルド人と分かればすぐ殺されます。
逃げるしかありませんでした。」

シンダーさん
「なんとかここまで来られて、少し安心しています。」

この日、難民キャンプを訪れたのは、イラク北部のクルド人自治政府のトップです。
シリアから来た同胞を全面的に支援することを表明しています。




イラク北部の街アルビル。
クルド人自治区の中心都市です。
イラクでは、旧フセイン政権のもと、クルド人はさまざまな弾圧を受けてきましたが、イラク戦争開戦後、国際社会の支援を得て自治区は大きく発展しました。
豊富な石油資源をバックに「第2のドバイ」と称されるまでになりました。

男性
「ここは中東で一番の大都会さ。」

男性
「街の発展はみんなの誇りだよ。」

イラクのクルド人自治政府は、隣国シリアのクルド人を守るためなら、あらゆる手段をとると警告しています。

クルド人自治区アルビル ハーディー知事
「もしシリアでクルド人大量殺りくが起きれば、彼らには身を守る手段がない。
我々は必ずシリアのクルド人を支援し、テロリストに応戦する。」



かつてフセイン政権の部隊との戦闘も経験した、イラクのクルド人武装組織は精鋭です。
すでに少数の工作員がシリア側に送り込まれ、偵察活動などを行っていると指摘されています。
今後、本格的な派兵となれば、外国の武装組織による、シリア内戦への新たな介入という事態になり、シリア情勢の行方はますます混迷を深めることも予想されます。

シリアのクルド人は今

鎌倉
「ここからは、中東のクルド問題に詳しいジャーナリストの勝又郁子(かつまた・いくこ)さんに加わっていただきます。
よろしくお願いします。」

ジャーナリスト 勝又郁子さん
「よろしくお願いします。」

髙尾
「まず、この地域のクルド人の置かれている状況についてお聞きしたいんですが、10年前のイラク戦争、そして『アラブの春』を通じて、だいぶ大きく変化してきているということなんでしょうか?」

ジャーナリスト 勝又郁子さん
「こちらを見ると、このだいだい色の部分がクルド人が集中的に住んでいるところなんですが、4つの国に分断されていると。
そして今、リポートされたのが、この辺りですね。
ここだけが自治区、正式な憲法で保障された政治的な基盤を持った自治区として、今、非常に経済的にも発展をしている。」

髙尾
「イラク北部ということですね?」

ジャーナリスト 勝又郁子さん
「イラクの北部ですね。
そして、こちらのクルド人たち、あるいはクルド地域に逃げてきたアラブ人とか、それからクリスチャンといった人たちが、ここを越えて入ってきているというわけなんですね。
今、シリアからイラクに逃れている難民というのは、全部で20万人前後に達しているはずなんですが、そのうちの9割が、実はクルド地域に、クルド自治区のほうに入っているという状況です。」

鎌倉
「その北イラクの街の復興、発展というのは、クルド人全体の状況にどのような影響を与えてるんでしょうか?」

ジャーナリスト 勝又郁子さん
「これまではクルドの地域が分断されていたということもあって、それぞれの国の状況が違う、政体が違うので、民族闘争というのも、ばらばらに行われていたんですね。
ところが、イラクのクルド人の地域が政治的にも安定して、経済的にも発展している。
しかも、お隣のシリアで大変なことが起きているということで、いろんな国に分かれていたクルド人たちがイラクに集まって、なんとかシリアのクルド人を助けようじゃないかというような連携した動きというのが、今年(2013年)の春ごろから急速に強まっているという状況です。」

なぜ対立激化 シリア反政府勢力

鎌倉
「それでシリア国内ですけれども、反アサドの勢力の中で、イスラム武装勢力がクルド人を攻撃している状況なんですけど、このタイミングで反政府側の内部対立、激しさを増しているのはなぜなんでしょうか?」

ジャーナリスト 勝又郁子さん
「1つは内戦が長引いた。
長引いている中で、戦闘能力の極めて高いイスラム過激派、アルカイダとつながっていると言われる過激派が中心的な役割を果たすようになってきたと。
そしてクルド人というのは、実はアサド政権を打倒することに、そのためにアラブ人の反政府勢力と力を合わせることに、それほどの積極的な動きを見せていない、距離を置いていたんですね。
なぜかと言うと、新しくできたアラブ人中心の新政権が、ではクルド人の権利を保障してくれるのかと言ったら、それはまだ保障すると誰もギャランティーを与えてくれていないわけです。
それに対して今度、アラブ人のほうから見ると、アサド政権に対する、これだけ血を流して、みんなが戦っている時にクルド人は戦いに参加しないと。
おそらく、アサド政権とクルド人は裏でつながっていると。
こういう疑心暗鬼がずっと続いていた。
そして、バクダットやアレッポといった大都市、大都会で戦闘が激しくなっていったのが長引くにつれて拡散していく。
地方に拡散していくという状況の中で、クルドとイスラム過激派が衝突をするという事態になっているんだと思います。」

シリア反政府勢力 軍事行動の影響は

髙尾
「こうして反政府勢力側の内部にも対立があるという中で今、アメリカ主導の軍事攻撃が行われた場合、反政府勢力側には、どんな影響を与えることになりそうですか?」

ジャーナリスト 勝又郁子さん
「先ほどの話にも出ていましたけれど、政権転覆を目的としたものではないと、執拗に言っているけれども、2つを切り離すことは当然できないわけで、反政府勢力にとりましては、これは政権打倒の最大のチャンス到来ということになります。
その中で当然、イスラム過激派も中心勢力として、活動を活発化させることになる。
もう1つの問題は、アサド政権がこの軍事攻撃によって転覆する事態が、時期が早まったとしたら、では次はどうなるか、全くの白紙なんですね。
その白紙の状態で、対立を深めている反政府勢力がさらに内戦を続ける。
つまり、内戦は、さらに混とんとした状況になるんではないかという気がします。」

シリア軍事行動 “出口”戦略は

髙尾
「秋元さんにお聞きます。
軍事行動によって、シリア情勢、好転するシナリオをなかなか見つけにくいんですけれども、それでもなおアメリカは攻撃に踏み切る。
なぜなんでしょう?」

英国王立防衛安全保障研究所 秋元千明さん
「軍事行動というのは基本的には、外交の一部でなくてはいけないんですね。
つまり、必ず出口戦略というんでしょうかね、最後はこういう形で終わらせるという、1つの戦略を作ってから進める必要があるんですね。
今回は、そのような本格的な軍事作戦ではなくて、むしろ国際社会にメッセージを送る作戦ということで設計されていますね。
つまり、この紛争をなんとかしようという気持ちは、はなからなくて、ただ懲罰を与えるんだというようなことばを使ってる。
つまり、この作戦は大量破壊兵器を保有して使った国は、こういう結果になるんだということを、シリアの政権だけではなくて、国際社会全体に、そういったメッセージを送ると、メッセージを発信するということを目的とした非常に変則的な軍事作戦だろうと思うんですね。
ただ、こういった考え方に非常に落とし穴というのがありまして、軍事作戦というのは必ず相手があることですから、相手の出方によっては、自分が考えていたとおりの展開にならずに、さらに深みにはまっていくという可能性がありますので、非常に先の見えない不透明な軍事作戦であると言っていいと思います。」

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