この夏、最も使われたあいさつは、「あっついね〜」だったはずだ。歴史的猛暑だった。8月12日に高知県四万十市で国内観測史上最高となる41・0度を記録したのをはじめ、8月中[記事全文]
福島第一原発事故の賠償に納得できない被害者と東京電力との交渉を仲介する原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)ができて、2年がたった。賠償は、求めなければ支払われな[記事全文]
この夏、最も使われたあいさつは、「あっついね〜」だったはずだ。
歴史的猛暑だった。8月12日に高知県四万十市で国内観測史上最高となる41・0度を記録したのをはじめ、8月中旬の平均気温はほぼ全国的に平年を2度以上上回り、統計を取り始めた1961年以降の最高記録を塗り替えた。
熱中症で救急搬送された人は5万3千人を超え、少なくとも87人が亡くなった。
一方で、暑さに一矢報いた痛快なできごとも見逃せない。
四万十市は酷暑を逆手にとって、観光客を集めた。きっかけは地元の主婦がつくった「あつさ日本一」の看板。反響に力を得て、「あついまちサミット」開催など、楽しみながら知恵を絞っているという。
企業や家庭の節電熱は、全国的に健在だった。
注目すべきは、省エネ製品への投資や運用の工夫による「がまんしない節電」が進んでいることだ。
JR西日本では、古い車両を順次、省エネ効果の高い車両に切り替えている。デパートやオフィスでは照明を節電型のLEDに替える動きが着々と進む。家庭でも、フル稼働のエアコンや冷蔵庫が故障したのを機に、高くても省エネモデルに買い替える人が目立った。
電気代や原油価格の上昇で、経営を圧迫される中小企業は多い。だが、こうした節電は一度始めてしまえば効果が持続し、コスト削減にもつながる。設備投資が広がれば経済にもプラスだ。ピンチはチャンス。そんな言葉を実感する。
これからも試練は続く。
関西電力の大飯原発3号機は定期検査に入った。4号機も15日に検査に入り、震災後2度目の原発ゼロ期間となる。
昨夏は厳しい数値目標が設定されたこともあり、原発ゼロでも乗り切れるだけの節電を達成したが、今夏はそれほどの余裕はなかった。
関西電力管内では、火力発電のトラブルが重なった8月22日に96%の電力使用率を記録。同社としては震災後初めて、他の電力会社から緊急融通を受けて乗り切った。
ただこれも、地域独占にこだわってきた電力業界で、原発事故を機に広域でやりくりする体制が進んだ成果と言える。
電力使用のピーク時に節電すると料金が安くなる仕組みの普及など、やれることはまだまだある。この夏の経験をいかし、賢くエネルギーを使う社会への変化を加速させたい。
福島第一原発事故の賠償に納得できない被害者と東京電力との交渉を仲介する原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)ができて、2年がたった。
賠償は、求めなければ支払われない。まず被害者が東電に請求し、東電は原子力損害賠償紛争審査会の中間指針に基づいて金額を算定する。
これが、なんの落ち度もないのに住む家や仕事を失った人には納得しがたいものであるという指摘がされてきた。
8月の紛争審査会では、中小零細業者や農・水産業者が保有する機械や備品について東電が示す賠償額が低すぎると、報告があった。
中間指針も、事業用動産に具体的な基準を示していない。被害者側の帳簿が整っていないと、十把一絡げで数十万円といった東電の「言い値」がまかり通っているという。
原発ADRには、裁判と違って手数料がかからず、早く解決できる利点がある。東電は特別事業計画でADRの和解案を尊重すると表明しており、賠償に伴う問題解決の最前線になると想定されていた。
実際、ADRでは東電が当初示した額の10倍以上の賠償金を仲介委員が提案したケースも出ている。
ところが、今年8月末までの申し立ては約7500件にすぎない。賠償額で合意した件数として東電が公表した約60万件に照らすと、ADRの利用をためらう被害者が多いことをうかがわせる。
理由の一つは時間だろう。3カ月程度での解決が目標だったが、和解案の提案までで平均7カ月かかっている。開設当初、仲介委員や調査官が不足していたためだ。
最近は短縮化しているが、ADRへのなじみのなさもあり、東電が示す額にそのまま応じた人が少なくないのではないか。
ADRでの東電の姿勢にも疑問がある。避難生活で用意するのが難しい詳細な証拠を求めることがしばしばだという。よりスピーディーに紛争を解決しようというADRの理念に外れている。
賠償を早く進めて問題解決を図ることは、東電にとってもメリットがあるはずだ。
これから土地や建物の賠償が本格化する。避難が長期化し、精神的損害の賠償にどう対応するかも、改めて考える時期にきている。
これまでのADRの判断の積み重ねも参考に、被害者の納得がえられる賠償基準作りを急いでほしい。