この世界は「 確定未来形 」である ―――――――――――――――――――――― 〔― 捕捉 ―〕 絶対零度付近で起きる不思議な現象 我々が存在しているこの宇宙は、今現在も膨張、拡散を続けています。そして、そのスピードは以前に紹介したように、早まっているという観測結果があります。何度目かの宇宙のインフレーションが起きているということです。従って宇宙は、時間が経つにつれて、さらにさらに大きく膨張し、拡散して行くことになります。 ところで、現在の宇宙の温度は絶対温度で、2.7度です。絶対温度というのは極限の低温である、摂氏マイナス273.15度を基準とした温度です。これ以上低い温度は、理論的に存在しないとされています。つまり、それよりもわずかに、2.7度だけ高い温度なのです。もともとは火の玉状態であった宇宙が、膨張し、拡散したことによって物質密度が薄くなり、ここまで下がったと考えられています。ですから、このまま宇宙の膨張、拡散が続けば、いずれは絶対零度まで下がってしまうと考えられます。それがどれほど先のことになるかは不明ですが、確実にやって来る未来の出来事です。 近年、この絶対零度付近で、いろいろと不思議な現象が発生することが知られるようになりました。 その一つが、「超伝導現象」です。これは金属の電気抵抗が、ゼロになるというものです。金属線に電気を通しても、通常は一部が熱に変化してしまうために、送電中にかなりのロスが発生します。電線に電気的な抵抗が生じるためです。そのため遠方の発電所から都心まで運ぶと、膨大な量の電気が失なわれてしまいます。もし電線の電気抵抗が無くなれば、極めて効率よく流すことが出来ます。 そこで材料や材質に変更を加えたりして、この現象をより高温で発生させることができないかと、今では世界中の科学者が研究を続けています。もし常温でこの現象を発生させることができれば、画期的な発明になります。世界のエネルギー問題が解決されるだけでなく、計り知れない恩恵がもたらされるに違いありません。 また、この現象を利用すると、強力な磁界を発生させることが出来ます。そのために強力なモーターを造ることが出来ます。車体を磁力の反発で浮かせるリニアモーターカーは、この現象を利用した技術によって支えられています もう一つは、「ボース・アインシュタイン凝縮(BE凝縮)」といわれるものがあります。これは原子の群れが、あたかも一つの巨大な原子のように振舞う現象のことです。インドの物理学者、ボースの研究をもとに、アインシュタインが1920年代に唱えたものです。しかし当時は、それだけの超低温状態を作り出すことが出来なかったために、理論上の仮説とされていました。 ところが低温化技術の発達により1995年、米国立標準技術研究所のエリック・コーネル博士と、米コロラド大のカール・ワイマン博士は、約二千個のルビジウム原子からなる気体を極低温まで下げる実験に成功しました。また米マサチューセッツ工科大学のウォルフガング・ケターレ博士は、約500万個のナトリウム原子からなる気体で実現しました。 そして、これらの功績が認められて三氏が、合同で2001年に、ノーベル物理学賞を受賞しました。 この現象はその後、世界の研究者グループによって確認されています。日本の大学の研究グループも成功しています。東京大学大学院総合文化研究科の久我隆弘助教授(量子力学)らのグループです。そのことを紹介した新聞記事がありますので、下に紹介しておくことにしますす。 次に紹介するのは、1999年1月11日の朝日新聞、科学欄からの抜粋です。これはただでさえ分かり難い現象ですから、この現象の解説部分も含めて、少し長めに引用させていただきます。 「 ーーー 前段、一 部 省 略 ーーー まず、二十億個ほどのルビジウム原子を真空容器に入れ、レーザー光と磁気 によって運動を抑えることで絶対温度約十万分の一度に冷やした。この原子群 をどんぶりのような形にした磁場に落とし込み、エネルギーの低いものだけを「ど んぶりの底」に集めた。 原子のうち比較的エネルギーが高くてよく運動するものは、どんぶりのふちを 越えて飛び出す。どんぶりの高さをしだいに低くしていくと、最も冷えた原子群だ けが残る。「蒸発冷却」という。 底にたまった原子は七百万個ほどで、直径約一ミリにまとまっていた。絶対温 度で約千分の三度にまで冷えている。これほど超低温になると、量子力学の効 果が際立ち、原子の「波」としての性質が強まる。 これらの原子は、エネルギーや運動方向といった「顔つき」がまったく同じで区 別できない。磁場のどんぶりを外すと、原子群全体が一つの巨大原子のように落 下し、BE凝縮していることが確認できた。 『ゼリーのように手をすりぬける、つかみどころのない物体になっているのでし ょう』 と久我助教授。 BE凝縮は九五年、ルビジウム原子で人工的につくり出すことに米コロラド大学 のグループが成功して以来、実験研究が進んでいる。東大グループも、この手法 をほぼ踏襲した。」 さて、これだけでは単に新たな現象の発見にすぎませんが、実はこの現象が物理的に、どのような出来事を生じさせるかも分かって来ました。何と、光の速度が、自転車よりも遅くなるというのです。 次に紹介するのは、1999年2月26日、朝日新聞(夕刊)のコラム欄からのものです。これもやや長めに紹介させていただきます。 「 米ハーバード大などの研究グループが、極低温で光の進む速さを時速60キロ と自転車レース並に遅くすることに成功し、二月十八日発行の英科学雑誌ネイ チャーに発表した。 真空中を光が進む速さは秒速三〇万キロメートルで、宇宙の何者よりも速く、 物理の基本定数にもなっている。 グループは、ナトリウム原子のガスを零下約二七三度(絶対零度)近くまで冷 却して、反射率が光ファイバーの百兆倍のきわめて濃厚なガスを作り、レーザー 光のパルスを入射した。パルスは濃いガスとして作用して、真空中の約二千万 分の一に当たる秒速約十七メートルに減速されることがわかった。 極低温下でのみ起こる量子力学の『ボース・アインシュタイン凝縮』と呼ばれる 現象。現在の自転車の世界記録より、はるかに遅いという。 ーーー 以 下、省 略 ーーー 」 上に紹介した現象は、まだ実験室段階で確認されたものに過ぎません。宇宙と比べると、あまりにもミクロな世界の出来事です。しかし、もし宇宙の温度が絶対零度まで下がったら、これらの現象が全宇宙的な規模で発生することになります。 しかも、現在はまだ知られていない、様々な新たな現象も発生して来ると考えられます。その結果、どのような未知の出来事が発生するかは、誰にも予測するすることが出来ません。 またその段階に至って、それ等の現象を制御する新たな“力”が出現する可能性もあるわけです。そして「真空の力」が宇宙のインフレーションを引き起こしたように、その新たに発生して来る力によって、今度は宇宙のデフレーションが引き起こされるかも知れないわけです。そうすれば宇宙は急速に収縮し、縮小して行くことになります。そして最終的には、ビッグバンの逆の過程を辿って、ついには消滅することになります。 そうしたことがこれまでに何度も、何度も繰り返されてきたと考えると、先に紹介した仏教宇宙論と合致する考え方になります。 実験室レベルで捉えた現象だけでは、全宇宙的規模で起きる出来事は予測することができません。要するに、判断するに足る材料が、出揃っていないということです。ただし、宇宙の未来を考えるに際しては、このような不可思議な現象が実際に起きているということを知っておく必要があるわけです。それでなければ、あまりにも峡矮な宇宙観が導き出されてしまうからです。 2002. 4. 2. 店主記す |