社説:原発汚染水対策 首相の危機管理を問う
毎日新聞 2013年09月03日 02時30分(最終更新 09月03日 06時18分)
地下ダムの必要性は、事故直後から指摘されていた。予算不足や人手不足を理由に、汚染水対策が停滞することは許されない。東電を事実上国有化した政府が、今後は対策の指揮命令系統を握る必要がある。東電に対策を指示するだけでは、問題は解決しないことを認識すべきだ。経産省や原子力規制委員会など関係機関は連携を密にし、目の前の危機に全力で立ち向かってほしい。
国内外で高まる海洋汚染への懸念に対しても、東電に代わり、政府が前面に立って説明を尽くすことが求められる。東電のこれまでの対応を見ると、隠蔽(いんぺい)体質は変わっておらず、社会的な信用は失墜している。
◇国会の早期召集検討を
国家の危機管理に関わるという認識がなお不足している点では、動きがみえない国会も同様である。
事態が底なしの状況をみせつつある中、臨時国会召集が予定される10月までの審議放置など論外だ。次期国会を「汚染水国会」と位置づけるくらいの覚悟で与野党は早期召集も含めた対応に動くべき局面である。
野党側は汚染水問題をテーマに関係閣僚が出席する衆院経済産業委員会の国会会期外の閉会中審査を要求した。だが結局、日程はセットされず近く現地を視察する方向となった。何とも悠長な対応である。
国会質疑は政府に当事者意識を持たせ、とりわけ原発事故に関しては必要な情報を国民に開示する意味がある。汚染水流出を踏まえ監視、点検体制をどう構築し、抜本解決に何が必要かを早急に徹底議論すべきだ。たとえば「地下水バイパス」計画は、多角的に審査したうえで政治が判断を下すべき課題だろう。
気になるのは、ヤマ場を迎える東京五輪招致への影響などを危ぶみ、オープンな議論を手控えるような雰囲気が政界にあることだ。むしろ説明不足が日本への不信を強めかねないという発想に転換すべきだ。参院選の関係で6月に通常国会が延長せず閉幕し、審議空白期が長引きかねないことを考えれば、早急な審議実施は当然である。
野党も与党への追及姿勢や野党間の違いばかり強調するような手法は取るべきでない。むしろ野党間で政策の共通点を探り、建設的な対案を与党に提示するような工夫が必要だ。政党の力量が問われている。
今月15日には、定期検査に入るため、関西電力大飯原発4号機(福井県)が運転を停止する。国内で稼働している原発は昨年7月以来、再びゼロになる。地震国日本で、原発に依存したエネルギー政策に逆戻りはできない。汚染水問題は、その現実を改めて突きつけている。