従軍慰安婦問題:見えぬ糸口 民主党政権「提案」拒まれ 「日韓両国がもう少し真剣に検討していれば」
毎日新聞 2013年09月02日 東京朝刊
日韓両国で昨年末と今年2月に新政権が発足して半年以上、首脳会談のめどすら立たないという異常事態が続いている。歴史認識問題で強硬姿勢を崩さない韓国の朴槿恵(パククネ)大統領が「解決を急がなければならない課題」と重視するのが、高齢の元従軍慰安婦たちの問題だ。ただ、日本側には、民主党政権だった昨年春に行った「新提案」を韓国が断ったことで、問題解決の機会は当面なくなったという見方が強い。両国間ではその後、接点を探る動きすら途絶えている。【ソウル澤田克己】
日韓両国の政府当局者によると、提案は(1)野田佳彦首相(当時)が慰安婦問題に対する直接的な謝罪をする(2)駐韓日本大使が元慰安婦を訪ねて謝罪を伝える(3)日本政府の予算から元慰安婦に人道支援する−−という内容。謝罪の形式などは両国間で改めて協議するというものだった。
提案は、外務省の佐々江賢一郎事務次官(同)が昨年3月に訪韓し、韓国政府に伝えた。斎藤勁官房副長官(同)も翌4月、訪韓して青瓦台(大統領府)高官らに説明したという。
日本は政府も資金を拠出し、1995年に民間募金を「償い金」として元慰安婦に支給する「アジア女性基金」を設立。元慰安婦のいる国のうち、オランダなどでは「謝罪」として受け入れられたが、韓国では「日本政府が法的責任を認めたことにならない」との反発が出て、事業が挫折していた。
このため、昨年の提案は政府予算での支援という点に力点が置かれた。日本政府としては、65年の日韓国交正常化に伴う日韓請求権協定で、補償の問題は解決済みだという立場を崩せない。その中での新提案には「政府予算から人道支援するのだから、実質的な補償だと受け取ってほしい」(外務省当局者)という考えがあった。
青瓦台は提案を前向きに検討する姿勢を示したが、社会的影響力の強い慰安婦支援団体との窓口でもある外交通商省(当時)は「法的責任を認めたことにならない」と反対。韓国は結局、日本の提案を受け入れず、日本もそれ以上、深く求めはしなかった。
その後、昨年8月10日には李明博(イミョンバク)大統領(同)が島根県・竹島(韓国名・独島(ドクト))に上陸。日韓関係は最悪の状態が続いている。