小黒一正

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増税先送りなら、社会保障費を中心に5~6兆円の追加削減が必要

投稿日: 2013年08月29日 17時55分

安倍政権の当面の主要課題の一つは、2014年4月に実施予定の消費増税の判断だ。当初は予定通り実施するとの見方が強かったが、増税実施時期の残り8か月で突然、雲行きが怪しくなった。理由は、安倍首相が、消費増税が景気にもたらす影響を再検証する「場」を設けるよう指示したからだ。現在、この場では、増税慎重派も参加し、増税がマクロ経済に及ぼす影響を複数案(①予定通り14年4月に8%、15年10月に10%に2段階で引き上げる、②最初に2%増税、その後1%ずつ増税、③毎年1%ずつ増税、④増税の先送り)に分けて検証中である。

この動きの直前の8月上旬、政府・与党は、「国・地方の基礎的財政収支(対GDP)の赤字を2015年度までに半減し、20年度までに黒字化する」との国際公約を達成するため、「中期財政計画」の閣議了解を行った。またそれと同時に、「中長期の経済財政に関する試算」を公表した。以下、これらの問題点を簡単に浮彫にする。

まず、中期財政計画では、国の一般会計のうち社会保障費や公共事業等にあてる政策経費の赤字を14年度から15年度に計8兆円削減する方針であるが、この8兆の削減には14年・15年の消費増税が不可欠である。この理由は単純である。まず、大雑把には、社会保障・税一体改革の合意により、消費増税5%分のうち、社会保障充実分を除いた4%分の約10兆円が、国・地方の基礎的財政収支の改善に資する(注:基礎年金国庫負担を2分の1に引き上げるための財源2.6兆円は、現在は年金特例公債で賄われている)。ただし、消費税率が8%から10%に引き上がるのは2015年度の中間時点(10月)であるから、15年度時点では5%ではなく実質4%(=3%+1%)分の増収効果しかない。したがって、厳密には、国・地方の基礎的財政収支の改善に資するのは10兆円×(4/5)=8兆円と試算できる。このうち、国の取り分は7割程度であり、5~6兆円程度が国の基礎的財政収支の改善に資する。よって、増税を先送りするならば、中期財政計画の8兆円削減目標を達成するため、社会保障費を中心に、さらに5~6兆円の歳出削減を進める強力な政治力が必要となるが、この中身は曖昧となっている。増税と歳出削減ではマクロ経済に及ぼす影響は異なるのは当然であるが、中長期試算では増税を予定通り実施したケースで、中長期のマクロ経済や財政の姿を推計している。

次に、中長期試算における「経済成長率の前提」である。中長期試算では、アベノミクスが掲げる3本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)が成功し、今後10年の平均成長率は実質2.1%、名目3.4%となる「経済再生ケース」を基本シナリオとしている。だが、この前提は「(名目成長率が)1-2%程度の民間調査機関の予測に比べるとかなり強気」(日経新聞・2013年8月9日朝刊)であり、財政見通しとの関係では「楽観的な」ものとなっている。むしろ、世界標準の財政見通しでは、慎重な成長率の前提を採用するのが常識である。このため、ここ数年(2010年-12年)の中長期試算では「慎重シナリオ」を基本シナリオとしてきたにもかかわらず、今回の中長期試算では、民間の予測に近い「慎重な成長率」は「参考ケース」(今後10年の平均成長率=実質1.3%、名目2.1%)に位置づけられてしまった。もし慎重シナリオの方が妥当な場合、「中長期財政計画」の中身も若干修正が必要なはずだが、その辺の記載はない。
 
いずれにせよ、民主主義の下では痛みを伴う改革よりも懸案の先送り(例:「増税の先送り」や「楽観的な成長率」)が選択されることが多いが、日本の政府債務(対GDP)は200%にも達する状態にあり、危機的な状態であることは明らかである。誰しも痛みを伴う改革を望む者はいないが、もはや財政・社会保障の抜本改革は不可避であり、早急に政治決断することが望まれる。2016年まで国政選挙がない期間は稀であり、安倍首相が担う責任は重い。

 

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人気コメント
26分前 (00時39分)
単純な疑問です。
消費税の増税に合わせて、社会保障の改革を同時に行うんですよね。
その改革の方針や内容は、消費税の税収額によって決まるのではなく、増税の決定に合わせて決まるんですよね?
社会保障改革の内容が決まって以降に、もしも消費行動が停滞して、消費税の収入が下がったとしても、社会保障の改革がストップしたり、縮小が化したりするようなことは無いんですよね?
16時間前 (09時13分)
国民が痛みを負う前に、政治家や官僚・役人が前面に出て自ら痛みを負う覚悟が必要なのでは。

一般国民にとって不必要な族議員の排出を止めるには、中央政府をスリムにして国が余計な仕事をやらないことです。

セーフティーネットを充実させた上で、社会保障費を削減するべきで、業界団体の言い分ばかり聞いていると国民にしわ寄せが来てしまい、増税路線に突き進んでしまいます。

増税が先にありきでは、景気回復の芽が萎んでしまい、またデフレに逆戻りになってしまいます。

国の借金でダブついているのは、国がやらなくていい公共事業などを多発するからです。

国の仕事を減らし、民間企業が自由に参画できるように、地方の特色を生かした自治行政をもっと多くし、地方と国の役割分担を明確にして、国は地方に口出しするべきではないのです。

国債の増発ではなく、国の歳出を押さえて民間企業を活性化させる事業を重点的に行い、地方経済が潤うような仕組みで景気を上昇させれば、増税に頼ることなく景気回復に進んで行くと思います。

改革無くして増税をすれば、景気は落ち込み財政再建も出来る訳がありません。
2013年08月30日 06時07分
日本では無駄な社会保障が多すぎます。
強制的に加入させられる国民年金とか、全く必要ありません。
個人的には入りたい人が勝手に集まってやってくれって感じです。

アベノミクスですが、金融緩和と財政出動はまあいいのですが、成長戦略ってのは幻想に過ぎないのではないでしょうか。
インフラが不足しているのは事実だと思うので、財政出動でそれを補うのはいいと思います。
成長戦略は実際のところ、規制緩和とか構造改革をすべきだと思います。
政府が率先して成長戦略を示すってのはなかなか難しいんじゃないでしょうか。
2013年08月29日 22時58分
国土強靭化計画 10年で200兆円 の方を先に削減すべきでは?

高度成長期に、GDP比で先進国平均2倍の費用を投じて作られたインフラを、全部メンテするのは余りにも異常。残すインフラと棄てるインフラに分けないと、無理です。コンパクトシティー化で棄てるインフラを捻出して行くしか、我国の生き残る道はありません。
2013年08月30日 01時14分
「我国」ではなく、「我党」の生き残る道だからでは?

次の政権に期待しましょう。
2013年08月29日 20時23分
無用な政府・省庁の外郭団体の無駄な予算を削減すれば、沸いてくる予算はまだまだ沢山あるはず。
それを先に議論せず、財政健全化の名の下に短絡的に増税を求める今の風潮は問題があるのではないでしょうか。

復興増税分の、意味不明な流用実績を見れば、増税しても、それが本当に社会保障に使われる保障さえないというのが現状ではないでしょうか。