知識の資源が価値を持つ
――アプリやプログラムの開発は自然に増えていったのでしょうか。
実は、青空文庫のリーダーアプリを開発する人が増えているという状況を知って、注記全体を、プログラムで処理しやすい、曖昧さを排除したものに整理しようと考えました。そうすれば、リーダーや変換プログラムの力をもっと借りられるようになって、利用が広がるのではないか。そう考えてまとめたのが、「注記一覧」です。また、整理した注記に対応して、テキストをXHTMLに変換するプログラムも作り直しました。これは「組版案内」で、パブリックドメインを宣言して、ソースを公開しているので、最近ではAndroid版でも非常に優れたアプリがたくさん公開されています。
こうした流れには、注記一覧の整備も、多少寄与したかもしれません。ただ、それにもまして、青空文庫という、検索もできて自由に利用できる「テキストによる知識の資源」がクラウド上に存在することに対して、価値を感じられるようになってきたからだと思っています。公開されているフォーマットが汎用性の高いテキスト版とXHTML版であること、また、今までにさまざまな人達の意見を取り入れて、電子図書としてよりよい方向を目指して努力を積み重ねた結果、青空文庫をさまざまなデバイスで読んでみたいと思っていただけるようになり、開発者の方々もアプリ開発をする意義を感じてもらえているのだと思います。
また、青空文庫がきっかけで新しいビジネスが生まれた例もあります。「SkyBook」(http://sb.aill.org/)というiPhone用の青空文庫リーダーを開発された高山恭介さんは、このアプリがきっかけでダイヤモンド社から電子書籍用のリーダーの開発を依頼されたそうです。そのアプリは「SkyBook」をベースにいくつか仕様を増やしたものだということです。
社会的意義への意識
――青空文庫の今後について、課題があれば教えてください。
フォーマットという点に関しては、今話題になっているEPUBなどもこれから視野に入れる必要が出てくるかもしれません。今までにもXHTML版に変換するプログラムなどは作ってきましたので、おそらく、現在の青空文庫の注記の体系を整備していけば、対応はそれほど難しくはないと考えています。また、そうした新しい動きに対していろいろな方と情報共有できるよう、ツイッターを使ったりもしています。予想外の効果として、今までは何らかの形で青空文庫にかかわっている人達とのやりとりが中心だったのですが、ツイッターを利用してからは活動には参加していなくても関心はある、という方達とも気軽に意見交換ができるようになりました。今後もよい手段があれば検討していきたいと思っています。
――これからどんな方向を目指していかれますか。
いずれにしても青空文庫の一番の課題となるのは、いかに活動を続けていくかです。青空文庫単体でビジネスモデルを構築するというよりは、インターネットのコミュニティー活動と、実際の経済が連携するモデルが構築できるようになればいいのですが。特にボランティアベースの活動の場合、具体的な収益につながることに対する抵抗感が強いので、それよりも社会的な存在意義が認められる第三の勢力のようなかたちを目指したほうがよいと感じています。ほかにも課題は山積していますが、ひとつずつ解決できるよう、私自身は青空文庫での活動を最後まで続けていきたいと考えています。