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ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・

「自由シリア軍」の現状

 シリア反体制派がガッサン・ヒトを暫定首相に選出しました。ヒト首相はこれから速やかに暫定政権の組閣に入ります。
 ヒトは1963年ダマス生まれの技術系ビジネスマンで、数十年をアメリカで生活し、アメリカ市民権を持つ人物とのこと。イスラム関係の活動もしていたようですが、これまで知名度はなく、どんな人物か詳細はまだわかりません。イラクのアハマド・チャラビみたいな人物でなければいいのですが・・・。

 ところで、「自由シリア軍」に関して興味深い記事がありました。
 自由シリア軍はもともとはアスアド大佐の一派が名乗っていた反政府軍の名称ですが、その後、自警団的に誕生した反乱軍の多くが自称したため、シリア国内では反乱軍の総称的に使われてきました。
 その後、ヌスラ戦線などのジハード系組織の台頭に伴い、国際メディアではイスラム系と世俗系を分けて考えるようになり、世俗系をなんとなく自由軍と呼ぶ雰囲気になっていますが、反乱軍の膨張とともに世俗派の中にもアスアド系とは一線を画してあえてそう自称しないグループも多く現れ、組織乱立に拍車がかかって、「自由軍」の範囲がなんだかよくわからない状況になっています(私も最近は反乱軍を「革命軍」と書くことが増えています)。
 ということで、そのあたりの混乱を整理し、自由軍の現状について詳細に分類したのが下記記事。
▽The Free Syrian Army doesn’t exist(SYRIA COMMENT)
「自由シリア軍は存在しない」とのタイトルですが、これはなにも「反政府軍などほとんどいないのだ!」という妄想記事ではなくて、きちんと反体制派を分類しようという試みです。
 抜粋翻訳したいところですが、ちょっと今は北朝鮮関連で手一杯なので、英文元記事のリンクでご容赦ください。

一方、下記はイギリスの世界最高峰の軍事情報研究機関「国際戦略研究所」(IISS)が先日発表した『ミリタリー・バランス2013年版』情報に基づく記事。
▽Syrian Deserters Cut Loyalist Troops to 50,000, IISS Says(BLOOMBERD)
 IISSの調査・分析によれば、もともと22万だったアサド軍が、今では半減。アサドが信頼できるのは各特殊部隊、共和国防衛隊、第3師団、第4師団の主力だけで、実質的に5万人だとのことです。
 他方、反乱軍は人数だけならもう10万人規模になっていますので(昨年12月に自由軍参謀長のサリム・イドリス准将は「反乱軍は12万人」と発言しています。誇張を差し引き、その後の3か月分を加算すると、まあ10万人弱くらいというのが妥当な数字と思います)、完全に逆転したといっていいでしょう。ただし、兵器レベルと組織的な統制はアサド軍がはるかに上手ですが。
 ちなみに、今年1月の下記エントリーで、私なりのアサド軍の兵力見積を書いていました。
▽引き篭もって情報機関の報告だけ聞いているアサド
 政府軍の兵力は十数万人といったところと思いますが、離反予備軍も多いので、実際に自由軍の脅威になるのはせいぜい6~8万人くらいではないかなと推測します。兵力だけなら、もう反乱軍側が優位に立っているとみていいでしょう。
 それから2カ月で、IISSはさらにアサド軍に厳しい評価ということですが、妥当な分析と思います。
  1. 2013/03/19(火) 14:34:28|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

はじめまして!

 初めてコメントをさせていただきます。ゆきのといいます。最近、黒井さんのワールド&インテリジェンスを見つけ、
読ませていただいております!私は、今年の1月16日に天然ガス精製プラントにおいて引き起こされた人質
拘束事件の一件があって以来、国際テロや宗教戦争について深く考えるようになりました。どうして10人もの
なんの罪もない日本人が殺されてしまったのか。日本はどうして助けることができなかったのか。テロを防ぐ
ことはできなかったのか。どうして信仰している神や考え方が違うだけで相手を批判するのか。人を幸せにするための
宗教によりなぜ戦争が起こるのか。こんなことをずっと考えていました。これ以上こんな悲しい事件や無意味な戦争は
起こってほしくないと思うようになりました。そのために私自身がなにかしていきたいとも思うようになりました。
しかし、まず今世界ではどんなテロがあってどんな紛争があってそれらはどうして起こったのか知らないことには何もすることはできないと思います。なのでこれからできるだけ黒井さんの文を読んで知っていこうと思います。
おかしな文もあると思いますが推測しながら読んでいただけたらうれしいです。
長文失礼しました。
  1. URL |
  2. 2013/03/19(火) 23:15:26 |
  3. ゆきの #z63RKErg
  4. [ 編集]

 コメントありがとうございます。拙ブログに目を留めてくださる方に、少しでもお役に立てればこれほど嬉しいことはありません。私自身、まだまだ浅学の身にて修行の途上ですので、どれだけご参考になれるかわかりませんが、今後ともよろしくお願いします。
  1. URL |
  2. 2013/03/20(水) 17:30:20 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

田中宇ニュース8月28号参照

田中宇ニュース8月28日号をどうぞご覧下さい。
自由シリア軍は外国人が多い傭兵集団であると書いて有ります。
この頃TVに出番の多い黒井様は如何お考えですか?
  1. URL |
  2. 2013/08/31(土) 15:49:05 |
  3. 楡井壮一 #-
  4. [ 編集]

相変わらず我田引水の記事を紹介するしか能がない黒井氏。
アメリカのイラク経済制裁が50万人のイラクの子供たちを死に追いやった(その事実は当時の国務長官オルブライトも認めている)ことは無視し、真偽があやしいYouTubeの映像を盾に憎いアサドの殺害を主張する。
どのような歴史的経緯があれ、どんなに反対派に残酷であれ、アサドがシリアの正当政権であることは紛れもない事実。それに武力で対抗すれば、世界中どこでもテロリストと呼ばれ、徹底的に弾圧されるのではないか。
なぜシリアのテロリストだけ正義があるのか。それに答えよ。
  1. URL |
  2. 2013/08/31(土) 22:03:07 |
  3. 奥の闇 #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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