FC2ブログ

ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・

シリア政府軍が化学兵器を使用する理由

シリアの化学兵器使用に関して、現時点では「毒ガスが使用されたことは確実」「誰の仕業かは証拠がない」状況です。これに対し、政権側は「すべて嘘」と、反政府側は「政府軍が使用」と主張しています。
 被害に遭った地区は反政府軍の支配地域で、政府軍による無差別砲爆撃が長期間続いていたエリアでした。化学兵器が使用されたとき、すでに政府軍が大掛かりな攻撃をかけていました。また、化学兵器使用とほぼ同時に、政府軍は戦力を集中投入し、同地域の掃討作戦を開始しています。これらは、(良し悪しはべつとして)軍事作戦としては有効なものです。
 前述したように、現時点で「政府軍の仕業」と断定できる証拠はあがっていませんが、これだけの軍事作戦はそれなりに準備が必要なもので、化学兵器使用はその一貫として実行されたと考えるのが自然です。反体制派犯行説もあるようですが、政府軍の攻勢のタイミングに合わせて反政府軍が化学兵器をあれだけの規模で散布できるかというと、まず現実には不可能でしょう。オペレーションには意思と能力が必要ですが、まず能力の点で陰謀論は排除できます。
 
 また、こうしたケースでの判断材料としては、各プレイヤーの過去実績もそれなりに重要です(もちろん例外はありますが)。まず、政府軍が一般市民の被害を一切考慮しないことは、これまでの実績が証明しています。
 他方、反体制派の自作自演説はこれまでもありましたが、すべて根拠がなく、陰謀論の域を出ていません。これほど情報がダダ漏れする時代に、陰謀があれば何かしらの痕跡が流出するものですが、それがないということは、そうした情報は妄想もしくは意図的な情報操作ととらえるべきです。
 今回も、自作自演であれば、あそこまで大きな被害をもたらす必要はないのに対し、政府軍の作戦とすれば、非常に効果的だったわけですから、情況証拠的には政府軍の犯行とみて間違いないでしょう。
 グータ地区などダマスカス東部の戦線は、現在も反政府軍優位の戦局にあったので、政府軍としてはなりふり構わなかったということでしょう。政府軍も余裕がなかったということですね。武力によって支配権を確保するという目的からすれば、政府軍は目的に沿った作戦を行ったわけです。

 この政府軍の行動が外国人にわかりづらいのは、化学兵器使用問題が世界で問題視され、ちょうど国連の調査団が入ったタイミングで、なぜ政府軍がそのような行動に出たのかが不思議にみえるからです。
 これは単純な話で、これまで長い間、シリア内戦の趨勢を決定してきたのは単純に双方の戦力比であり、国際社会はまったく無力だったからです。当事者の政府軍とすれば、国際的な非難よりも国内の戦闘が重要であるとの判断です。
 政府軍とすれば、とにかく反政府軍を撃退することが最優先との考えで、そのためにどんな手段でもとる、と。あとは対外的にはシラを切っておけば、どうせロシア、中国、イランが同調し、これまでと同様に国際社会を抑えてくれると見ているのでしょう。また、アメリカのオバマ政権が軍事介入には踏み切らないだろうとの判断もあったのでしょう。
 実際、フランスが軍事介入を匂わせていますが、肝心のアメリカの反応は鈍いです。
  1. 2013/08/23(金) 07:20:14|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:8
<<シリア人と外国人の意識の温度差 | ホーム | シリア化学兵器で大量殺戮>>

コメント

SARINを使用したのは反政府軍
  1. URL |
  2. 2013/08/23(金) 22:09:43 |
  3. 米国偽旗作戦屋 #-
  4. [ 編集]

>SARINを使用したのは反政府軍

 たいへん興味深いお話ですので,ぜひともその根拠をお出しくだされば幸いです.
 現状では,本エントリーにもございますように,
>反体制派の自作自演説はこれまでもありましたが、すべて根拠がなく、陰謀論の域を出ていません。
という状況ですので,もし仮に貴兄の申されることに信憑性高い根拠があれば,それは大変な大スクープです.

 ですので,ぜひとも論拠をご提示ください.
  1. URL |
  2. 2013/08/25(日) 20:47:35 |
  3. 消印所沢 #-
  4. [ 編集]

プロの仕業では?

アサド政権が化学兵器を使用する事は、米英を刺激して直接的な軍事介入の口実を作るだけなので、論理的に矛盾があります。むしろ、この戦争が英米の支援するテロリスト達が始めた戦争だという事にこそ注意が必要では無いでしょうか。反政府軍の中には、各国の諜報機関の息の掛かった者達も居るでしょうし、諜報機関自体が特殊部隊を潜入させて作戦を遂行する事も想定内です。かつてのCIAの中南米での行いを見れば、彼らの辞書には「国家主権」という言葉は見当たりません。

問題は、今、何故、中東を軍事的に不安定にする必要があるかを考える事ではないでしょうか?強権でしか国をまとめられない中東諸国で、カダフィーやムバラクやアサドを排除すれば当然内戦状態は発生します。表面上はイスラエルの敵対国が弱体化するかに見えますが、国境付近の治安が維持出来なくなる事により、ゴラン高原やシナイ半島からイスラエルにテロリストが入り込む可能性が拡大します。

中東は不安定の上にも安定していましたが、その均衡が破れる時、最も不安定な立場に立たされるのはイスラエルでは無いでしょうか。
では、何故、今、中東で戦乱の種を蒔くのか・・・アメリカが中東利権を手放すセレモニーとなるのか、あるいは原油の高騰でドルの価値を担保しなければならない事態が訪れるのか?

歴史は偶発を装いますが、トンキン湾事件を始め、歴史の重大事件にはだいたい裏があります。陰謀論を否定するのは簡単ですが、陰謀論を否定すると、事件の表層しか見えなくなります。陰謀という言葉が悪いのであって、「世界経営のアジェンダ」と思えば抵抗も無くなります。そして大事な点は、戦争の原因はいつでも経済問題が存在する事。「今、中東で戦争の危機を煽る必要が世界経済に存在するのか?」・・・これこそが、問題なのでは無いでしょうか?
  1. URL |
  2. 2013/08/27(火) 11:35:54 |
  3. 人力 #-
  4. [ 編集]

毒ガス使用が政府側によるとすると理屈が合わない、という部分に自分なりに考えてみたんですが、単純に「バレたとしても、今度も武力介入はないさ、せいぜい非難声明とか非難決議程度で今回も収まるんじゃね?」とタカをくくっている、という節もあるのかな、と思います(あと、「もうこれ以上の敗北、損害は許されない」という意識もありそうですが)。リビアへの武力介入や、イラク戦争の開戦事由の程度を既に超えていると思われる状態なのに、米をはじめとするNATO諸国の対応が及び腰なのは周知の通りですし、BC兵器の使用はまた一段階内戦の凄惨さを増す区切りではありますが、それ以前に空軍機による地上攻撃、トルコ側への砲弾落着など、介入の契機にしようと思えば使える事件は何度もありましたし。
  1. URL |
  2. 2013/08/28(水) 22:58:09 |
  3. AJAX #-
  4. [ 編集]

アメリカは状況だけで断定して武力介入しようとしています。
(すべて茶番劇の陰謀という説もありますが)

今回の化学兵器使用が自由解放軍(反政府軍テロリスト)であるという方が客観的事実に即していると思いますが、貴殿はニュースで垂れ流される偽情報以外もご自分で調べられましたか?

今回の化学兵器しようについては国連の調査団がや客観的な証拠。証拠がでてから軍事介入すべきであるのに、アメリカは勇み足で介入しようとしています。

ロシアでは、今回の化学兵器搭載の自家製ロケット弾が反政府側の地域から発射された衛星写真と証言を得ているようです。

もう少し西側諸国の一方的な見方だけに汚染されてない情報も調べられてはいかがでしょうか。

  1. URL |
  2. 2013/08/29(木) 12:31:50 |
  3. 真実は #-
  4. [ 編集]

〉ロシアでは、今回の化学兵器搭載の自家製ロケット弾が反政府側の地域から発射された衛星写真と証言を得ているようです。

↑非常に興味深いお話ですが、そんな衛星写真はそもそも技術的に不可能です。
  1. URL |
  2. 2013/08/29(木) 13:03:47 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

過去の歴史を踏まえるなら、米国がイラク攻撃に踏み切った理由は大量破壊兵器の保持だったはずですが、結局、見つかりませんでした。
http://www.nids.go.jp/publication/briefing/pdf/2006/200612.pdf
さて、今回は違うという根拠はあるのでしょうか?
  1. URL |
  2. 2013/08/30(金) 01:19:22 |
  3. 謀略あるよね #ElJgphU6
  4. [ 編集]

「真実は」氏と「謀略あるよね」氏はタイトルの付け方からして同一人物だろうか。まずは「真実は」氏の

>化学兵器使用が自由解放軍(反政府軍テロリスト)であるという方が客観的事実

とあるが、何が「客観的事実」か。各国諜報機関が必死に事実を探っているの断言出来るのは何か特別なソース(旧KGB系とか)をお持ちか。それとも単に言葉の意味が解らないのか。

>ニュースで垂れ流される偽情報

様々なニュースがあり何が偽情報か具体的に指摘すれば我々にも大変勉強になる。

>証拠がでてから軍事介入すべきであるのに、アメリカは勇み足で介入しようとしています。

前半は同感。ただ、今回はフランス情報機関などが米国に先んじ米国の勇み足ではない。つまり、事実誤認で貴方が「勇み足」。

>西側諸国の一方的な見方だけに汚染されてない情報

何だか北朝鮮やイランの物言い。主体思想から見れば日本や欧米メディアなど西側は一枚岩で無いし、それぞれメディアの意見が違う凄い「汚染(笑)」。その視点で言えば独裁国家メディアは意見統一され「汚染」されないが、それを国際常識では検閲と言う。

勿論、自由諸国メディアも様々な圧力や利害や国家の要請もあり完璧で無い。逆に独裁国家情報が必ずしも嘘とは限らないが、独裁国メディアを有用に使うのは熟練能力が必要で普通人にはむしろ困難。西側メディアが八か九に独裁メディアが一か二くらいがベストミックスだろうか。


次に「謀略あるよね」氏だが、

>過去の歴史を踏まえるなら、米国がイラク攻撃に踏み切った理由は大量破壊兵器の保持だったはず

とあるが語義を確認。イラクの「大量破壊兵器」は開発途上の核兵器の事であり、イラクは毒ガスを保持していた。

しかも、サダム・フセインは同国南部の多数派シーア派や北部のクルド人やイラン軍に対して実際に神経ガスを使用。被害者のイラン人が日本にまで治療に来ていた事は御存知だろうか。

だが、誰もサダム・フセインを罰して無い。これは西側が当時反イランだったから。アサドの父親のハフェズも三十年前の弾圧時に化学兵器使用したかも知れないが、厳重な検閲下で証拠は出てこない。

それなら、自己の生存にかける現アサド政権が化学兵器を使用して何が悪いという感覚を持ってもおかしくない。

米国は何が何でも戦争を始めるつもりというのも事実誤認。オバマが本当に戦争をするつもりなら、米本土からそれ相当の陸軍兵力及び日本から空母などをシリア沖に派遣しなければならないがその気配が全く無い。

これは形だけの介入であり、シリア内戦は当分続くという事である。
  1. URL |
  2. 2013/08/30(金) 04:53:23 |
  3. 道楽Q #-
  4. [ 編集]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://wldintel.blog60.fc2.com/tb.php/1296-0acd9e11
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




最近の記事

最近のコメント

カテゴリー

月別アーカイブ

最近のトラックバック

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク

このブログをリンクに追加する

ブログ内検索

RSSフィード