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ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・

迷走のシリア問題言説

 オバマ大統領がシリア政府軍への攻撃の意向を明らかにしました。政府軍の常軌を逸した蛮行に苦しめられているシリアの人々には朗報ですが、ただし、「議会の事前承認を求める」方針だそうです。議会は現在、休会中で、9月9日に再開予定。ということは、早くとも10日も後にならないと実際には動かないということですね。
 また、アメリカの国益あるいは安全保障に直結しない問題ですから、議会がイギリスのように否決する可能性もあります。オバマ大統領もホンネでは消極的でしょうから、そうなると、仮に議会で否決された場合、「自分は動きたかったが、議会の反対でできなかった」となるかもしれません。
 シリアの人々はもう2年半前から、国際社会に対して、アサドの暴虐から自分たちを救って欲しいと願ってきましたが、それがことごとく裏切られてきたため、絶望的な気持ちになっていました。それが今回、初めて米軍が動きを見せたことで、不安ながらもようやく期待感を持ち始めていました。
 これがもしも、議会の反対ということでオバマ大統領が手を引いたら、あまりにも可哀想ですね。逆にアサド政権は勢いづき、「何をやっても許される」ということで、住民の虐殺をさらにエスカレートさせていくでしょう。

 28日のTBSニュースバード「ニュースの視点」に続き、29日のフジテレビ「とくだね」でVTRコメント、30日のTBS「ひるおび」スタジオ出演、31日のTBS「ニュースキャスター」VTRコメント、等々でシリア問題について発言させていただく機会がありました。
 シリア問題については、日本ではこれまでほとんど関心を持たれることがなかったのですが、ここ数日、急に大きく注目されるようになってきました。米軍出動がこんなにインパクトあるとは・・ですが、今回、これで軍事行動は少なくとも9月9日以降になりそうなので、シリア報道もこれで萎んでいくことでしょう。
 いずれにせよ、シリア問題では日本のメディアではなぜか現地の声をほとんど無視して(いまや日本人でも現地取材経験者はたくさんいるのに、なぜか彼らの伝える現地の声をあまり採り上げないんですね)「反体制派は外国の支援を受けたテロリスト」「シリア内戦は国外勢力の代理戦争」といったシリア国営通信みたいな言説が出回っているので、こちらはきっちりと「アサド政権は最悪の暴力政権」という事実を発信させていただきました。

 シリア問題に関する言説というのは、現在、ほぼ以下のような構図になっています。
▽現地取材経験者⇒反アサド(私は現地取材経験者ではないですが、主な情報ソースが現地の人脈なので、情報源のタイプとしてはこちらに入る感じです)
▽アルジャジーラ、欧米主要メディアなどを情報源とする人⇒反アサド(これらの国際メディアは、結局はいちばん現場を取材していますし、現地の声も拾っています)
▽シリア国営通信、ロシアのメディア、イラン・ラジオ、アブハジアのテレビなどを情報源とする人⇒親アサド(参考情報としては構わないと思いますが、これらを主なソースとするのはインテリジェンス的に落第ですね)
▽上の親アサド系メディア情報をソースとして書かれたネット情報を主な情報源とする人⇒親アサド(日本ではこの層が根強くいますね)
▽両論併記が原則の日本のマスメディア⇒中立(ホントでこれでいいんですか?とは思いますね)
  1. 2013/09/01(日) 04:04:53|
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マーヘル・アサドの暴走の可能性も?

 アサド政権寄りのクルド民兵「民主統一党」(PYD)のサレハ・ムスリム代表が、この時期に化学兵器を使うほど「アサド大統領はそれほど愚かではない」と発言。
 化学兵器攻撃は大統領の実弟マーヘル・アサド指揮下の第4師団が行ったとのイスラエル筋情報が事実なら、大統領が唯一コントロールできない人物であるマーヘルが暴走した可能性もあります(あくまで推測の推測です)。
 マーヘルは昔から粗暴で分別のない人物で有名でしたが、テロで重傷を負ったらしく、無分別に拍車がかかっている可能性があります。
  1. 2013/08/29(木) 10:23:47|
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アサド政権の時間稼ぎ

 シリア社会と関係の深い人がたくさんいる欧米やアラブ諸国では、アサド独裁政権の信用度などゼロに近いので、メディアでも世論でも、アサド支持者など泡沫の変人扱いされています。なので、今回の軍事介入への動きに対しても、それぞれの国内では「外国への軍事介入」に関してはさまざまな異論があっても、「反体制派の自作自演説」を論拠に反対する声が主流になるなど考えられません。
 ですが、なぜか日本ではアサド寄りの人が多く、「化学兵器は反体制派の自作自演」という陰謀論が根強くあります。アサド政権の性質を理解できていないということでしょう。
 化学兵器使用が反体制派の陰謀なら、なぜアサド政権は国連の調査団の受け入れをなんだかんだと長い間拒んできたのでしょうか? それこそ欧米取材陣も含めて即時に受け入れたら反体制派の蛮行を世界に示すチャンスであるのに。
 今回の件でも、目の前に調査団がいるのに、5日もストップをかけていました。サリンの効果などせいぜい半日くらい。数日で決定的な痕跡は検出が難しくなります。
 しかも、被害地に大規模な砲撃が加えられ、化学兵器使用の痕跡をさらに消しました。後に「反体制派が使用した」と言い出していますが、当初はそもそも化学兵器使用自体をごまかそうとしていたわけです。
 インテリジェンス的にみても、米英仏の首脳や政府高官があそこまで言い切るからには、まず間違いはないですね。アメリカは数日中にも証拠を公開するということです。偵察衛星画像かと思っていたのですが、通信傍受という説が出てきました。
 それはアメリカとしても、本来なら見せたくない手の内を見せるわけですから、切り札の公開です。本当にそこまでやれば、アメリカは本気だということですから、爆撃は間違いでしょう。
  1. 2013/08/29(木) 09:25:31|
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ロシア情報の信憑性が低い理由

 現在発売中の『週刊現代』でコメントを採用していただきました。エリア51に関する記事で「たぶん宇宙人はいない」と言ってしまいました。

 シリア問題でときおり「英米の情報は信用できない」「ロシア情報によると~」といった言説を目にするので、ひとこと。
 まず、インテリジェンスの基本として、どんな情報もそのまま鵜呑みにしてはいけないということがあります。この情報源は常に必ず正しい、などということもありません。
 それを踏まえたうえで、考えるべきは、「では、どの情報源のほうが正しい確率が高いか?」ということになります。
 シリアの化学兵器問題で、英米仏の情報と、ロシアの情報が真っ向から対立しています。この場合、英米仏の情報の確度が圧倒的に高いです。
 英米仏の場合、国家が意図的に偽情報を流すことには、非常に高いハードルがあります。メディアがその真偽を追及してきますし、嘘が露呈した場合、政権担当者が国民世論から容赦ない批判を浴びることになるからです。政権担当者にとって、露呈のリスクが高く、しかも露呈した場合のペナルティが致命的であるため、「意図的に」偽情報を流すのは、あまりに危険行為なわけです(イラク大量破壊兵器問題のように、インテリジェンスの誤謬による誤情報・誤分析は当然あります)。
 それに比べて、ロシアの場合は主要メディアが実質的にロシア政府のコントロール下にあるので、ロシア政府はメディアも世論もさほど気にする必要がありません。なので、ロシア政府筋の情報には日常的にプロパガンダが入っています。
 べつに反米思想などは個人の自由ですから構わないと思いますし、思想的にロシアの主張に賛同することも構わないとは思います。ですが、ロシア情報はそれなりに割り引いて捉える必要があります。
  1. 2013/08/29(木) 00:29:23|
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シリア情勢の解説なう

 本日、CS放送ですが、TBSのニュース専門局「ニュースバード」の「ニュースの視点」という番組に呼んでいただきました。シリア情勢の解説です。
 生放送は終了しましたが、現在、再放送中です。
  1. 2013/08/28(水) 21:05:41|
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シリア爆撃への期待

 英米仏軍が地中海からの爆撃準備を進めています。化学兵器再使用への抑止が目的ということで、軍事介入のレベルとしてはきわめて限定的なものに留まりそうですが、それでもシリアの知人たちのあいだでは期待が高まっています。
 少なくとも主要航空基地を潰してもらえれば、部分的ではあるけれども実質的な飛行禁止措置に近い状態になりますから、一般国民への攻撃がかなり軽減されるでしょう。
 反体制派も攻勢に出ますから、戦局も大きく変わります。

 前回、前々回のエントリーに疑問の声をいくつかいただいております。
 基本的に、私のシリア分析のベースにあるのは、20年間、親戚としてシリア社会を内部からみてきた経験です。私の親族はバース党でも政府関係でもない一般のスンニ派住民で、秘密警察に監視される側、つまり大多数の国民の側にいます。
 ちなみにシリアでは、シリア人の夫に外国人妻というケースは珍しくないのですが、逆は極めて少なく、秘密警察の強い監視を受けます。私自身、結婚して初期の頃は、乃木坂のシリア大使館に何度も呼びだされていますし、自宅に大使館員が来たこTもあります。シリアの親族も何度も現地の秘密警察に呼び出されています。
 いずれにせよ、そういう親族がいて、その周辺の友人知人関係に本音で話し合えるネットワークがあります。
 革命が始まってからも、そうした人脈からさまざまな情報をいただいています。もちろん一部の情報源にすぎませんし、バイアスもかかっていますから、情報ということではワンオブゼムにすぎませんが、アサド政権の性質といった社会通念のようなものに関しては比較的、シリアの方々と意識が共有できているのではないかなと自分では思っています。
 あとは、シリア以外の紛争地での取材経験、多少のインテリジェンス分析の勉強の経験などもありますが、やっぱり自分では何と言っても大きいのは、このシリアとの関わりの経験値ですね。
 当エントリーにおける記述には、必ずしも個別のソースのあるインフォメーションに限らず、自分の経験に基づく「シリア社会での常識」も入っています。あの徹底した秘密警察国家では、世論調査などのようなものはまったく意味がありません。各人がどれだけ深くシリア社会と関わったかが大きいのですが、それ自体は個人的な分析・評価にすぎません。
 なので、他の意見があってもいいかと思いますが、私の経験からすれば、「アサド政権が国民に支持されている」などの見方は、シリアという国のことをまったく知らない人の空想でしかないですね。「アサド政権なら平気で国民に化学兵器も使うだろう」というのも、あちらでは常識の範囲です。シリアだけでなく、アラブ独裁国ではどこもそうで、サダムもカダフィも同じでしたが。
 このタイミングでアサド軍が化学兵器を使ったのは、私にも意外ではありましたが、考えられないわけではありません。その理由は前々回に書いたとおりです。
  1. 2013/08/28(水) 08:34:29|
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シリア人と外国人の意識の温度差

 前エントリーで、「化学兵器を使用したのは政府軍か否か」に関して記述しましたが、私が「犯行は政府軍によるものである」と考えるいちばんの理由を書き忘れていました。
 それは、シリア人(国内居住者も国外居住者も)の大多数が、「そういうことやるのは政府軍だろ」と当たり前のように考えているということからです。私も他の外国人も、そういった皮膚感覚では所詮ガイジンであり、直感の部分では、かの国に生まれ、あるいは育った人々の感覚のほうが、たいていの場合、正しい確率が高いといえます。シリアにもさまざまな考えの人がいますが、アサド派も含め、シリアの人はほぼ「政府軍ならやりかねん」と知っています。
 こうした内外の人々の感覚の温度差ということでは、化学兵器に対する感覚でも大きく違っているようにみえます。外国人は「化学兵器だから大変だ」と考えますが、シリアの人は、それこそ毎日のように爆弾が飛んでくるなかで生きていますので、化学兵器だからといって、今さらそれほど特殊なことのようには考えません。通常兵器で何万人も殺害されている日常ですから当然です。
 逆に言えば、アサド政府軍も同様です。毎日市街地への無差別砲爆撃で国民を殺害していますから、いまさら化学兵器だから云々といった感覚は乏しいのでしょう。
  1. 2013/08/23(金) 16:14:35|
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プロフィール

黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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