レビュー
TDP 45W版Richlandの持つ実力と可能性を探る
A10-6700T
これは,日本AMDが「日本市場向けの限定モデル」と位置づける新製品で,その最大の特徴は,TDP
今回4Gamerでは日本AMDからA10-6700Tの実機を入手できたので,ゲームにおけるCPUコア性能と統合型GPUの性能を明らかにしてみたい。
動作クロックの引き下げによって
TDPを65Wから45Wへ
CPUとしてのA10-6700Tは,2基の整数演算ユニットが1基の浮動小数点演算ユニットを共有する格好の「Piledriver Module」を2基搭載した4コア仕様のプロセッサだ。これは,A10-6700と同じ仕様であり,付け加えるなら,Piledriver Moduleごとに容量2MBのL2キャッシュが用意されている点も変わっていない。
一方,GPUとしてのA10-6700Tが統合するシェーダプロセッサ「Radeon Core」の数は384基。演算ユニットたる「SIMD Engine」をVLIW4エンジンによって6基搭載する仕様となっており,こちらもA10-6700と同じだ。さらに,アンコア部のデュアルチャネルメモリコントローラがDDR3-1866対応となるのもA10-6700から変わらずである。
「CPU-Z」(Version 1.66.1 x64)実行結果。「Multiplier」を見ると,動作倍率が最大35倍だと分かる |
こちらは「Catalyst Control Center」でGPUコア情報を表示させたところ。最大動作クロックは720MHzとなっている |
A10-6700Tでは,CPUコアのベースクロックがA10-6700の3.7GHzから2.5GHzまで抑えられ,自動クロックアップ機能である「AMD Turbo CORE Technology 3.0」(以下,Turbo CORE)を有効化したときの最大動作クロックも4.3GHzから3.5GHzまで引き下げられている。さらにGPUコアの最大動作クロックも844MHzから720MHzへと下がっており,GPUブランド名も「Radeon HD 8670D」から「Radeon HD 8570D」へと変更済みだ。動作クロックを積極的に引き下げることで45Wという枠内に収めてきたモデルという理解でいいだろう。
表1は,そんなA10-6700TのCPUコアスペックを,A10-6700,そして競合の2コア4スレッド対応CPUで,グラフィックス機能「Intel HD Graphics 4000」を統合した「Core i3-3225」(以下,i3-3225)と比較したもの。表2はGPUコアのスペックを,A10-6700とi3-3225,VLIW5エンジンで6基のSIMD Engineを搭載する単体GPU「Radeon HD 6570」と比較したものになる。
CPUコアとGPUコア,両方の性能を検証
オンラインRPGを想定したテストも実施
テストのセットアップに入ろう。
A10-6700Tの評価は,CPUとGPUの両面から行う必要があるため,今回は表3のテストシステムを用意した。APUおよびCPUのクーラーは,いずれも製品ボックスに付属のものを用いる。
細かく見ておくと,まずCPUコア性能の検証では,GPUを「Radeon HD 7790」(以下,HD 7790)で統一しつつ,A10-6700とi3-3225を比較対象とする。このとき,テストに用いたHD 7790搭載グラフィックスカード「SAPPHIRE HD7790 1G GDDR5 PCI-E DL-DVI-I+DL-DVI-D/HDMI/DP DUAL-X OC VERSION」は,メーカーレベルで動作クロックが引き上げられたクロックアップモデルであるため,MSI製のオーバークロックツール「Afterburner」(Version 2.3.1)を用いて,動作クロックをリファレンスレベルにまで引き下げていることをあらかじめお断りしておきたい。
一方のGPUコア性能検証では,比較対象にA10-6700とi3-3225だけでなく,HD 6570も用意した。HD 6570搭載カードを利用するとき,APUにはA10-6570Tを組み合わせるので,A10-6700TとHD 6570の比較時は,CPU性能が完全に同一となる。つまり,(Turbo COREの効き具合がおそらく異なることを無視すれば)グラフィックス性能の横並び比較が行えることになるわけだ。
PSO2ベンチでは「簡易描画設定3」を,新生FFXIVベンチ キャラ編では,グラフィック設定プリセットに「標準品質(デスクトップPC)」をそれぞれ選択し,GPUによるボトルネックが生じにくくする。そして,テストは解像度ごとに2回実行し,その平均をスコアとして採用するという流れだ。
その解像度は,レギュレーションで規定するとおり,1280×720ドットと1600×900ドット,1920×1080ドットの3パターン。CPU性能の違いがより顕著に表れるよう,レギュレーション14.0準拠のタイトルでは,「標準設定」およびそれに準じた設定でのみテストを行う。
GPUコアのテストでも基本的にはCPUコアのテスト方法を踏襲するが,そのスペックを考慮し,「3DMark」(Version 1.1.0)では,「Fire Strike」の「Extreme」プリセットではなく,「Cloud Gate」テストを実施することにした。また,同じ理由で「Far Cry 3」のテストは省略し,「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)では「エントリー設定」を適用する。
なおテスト解像度は,現実的な実用レベルを考慮し,1600×900ドットと1280×720ドットを選択している。
A10-6700Tの実力はA10-6700の約8割程度
単体GPU換算ではローエンド以上エントリー以下か
まずはCPUコアのテスト結果から順に見ていこう。グラフ1は3DMarkの総合スコアをまとめたもので,A10-6700TはA10-6700の92〜96%というスコアを示した。A10-6700に対して,動作クロックはベースで約68%,最大で約81%に留まるA10-6700Tだが,その割には踏み留まっている印象である。
ただし,総合スコアはあくまでもHD 7790の存在によってスコアが“丸まって”いただけなのだということが,リアルタイム物理シミュレーションエンジン「Bullet Physics」をCPUベースで実行した結果から見て取れるのも確かだ(グラフ2)。ここだとA10-6700TのスコアはA10-6700の71〜72%程度なので,ほぼ動作クロックどおりのスコア差が出ていると述べてよさそうである。
続いてグラフ3はFar Cry 3の結果だが,ご覧のとおり1920×1080ドットでは描画負荷の増大にともなってGPU性能への依存が大きくなり,スコアは29fps前後で揃ってしまった。1600×900ドットでも30fps台後半でやや揃い気味といえる。
そこで,よりCPU性能が反映されている1280×720ドットを見てみると,A10-6700TのスコアはA10-6700比で約89%,対i3-3225では約74%となっている。「CPU性能はやはり低い」と見るか,「グラフィックスカードを差し,一定以上の解像度でゲームをプレイする限りにおいて大差はない」と見るかは意見が分かれそうだ。
グラフ4の「BioShock Infinite」も,Far Cry 3と同じような結果になっている。1280×720ドット時におけるA10-6700Tのスコアは,A10-6700の約83%,i3-3225の約78%だった。
描画負荷がそれほど高くないため,高解像度でも標準設定であれば比較的CPU性能差が出やすいSkyrim。その結果をまとめたグラフ5だと,A10-6700TのスコアはA10-6700の79〜82%,i3-3225の62〜69%と,どうしても引き離される。CPU性能勝負になると,A10-6700Tは少々厳しいかもしれない。
Skyrimよりさらに描画負荷の低いPSO2では,各APU&CPUのスコア差がさらに開く(グラフ6)。1280×720ドットだと,A10-6700TのスコアはA10-6700の約63%,i3-3225の約55%だ。
もっとも,1920×1080ドットだと,順に約86%,約82%まで持ち直すので,HD 7790搭載時に現実的な解像度でプレイするときの実力差は15〜20%程度といったところだろうか。
新生FFXIVベンチ キャラ編の結果がグラフ7で,ここではFar Cry 3やBioShock Infiniteと同じ傾向が見られる。1280×720ドットで比較すると,A10-6700TのスコアはA10-6700の約81%,A10-6700の約76%だが,1920×1080ドットまで解像度を上げると,スコア差は10%未満となる点は要注目といえる。
CPU性能検証の最後に,オマケとして,システム総合ベンチマーク「PCMark 8」の実行結果も示しておきたい。
総合スコアとなる「Home score」はグラフ8,その詳細スコアは表4に示したが,ここでは後者の「Video encoding」と「Casual gaming」でA10-6700Tが最も低いスコアを示しているのが気になるところだ。45WというTDPを実現するために引き下げられたCPUクロックには,多少の覚悟が必要ということなのだろう。
GPU性能もA10-6700比で8割程度
メモリ性能が足を引っ張るケースも
続いてはGPUコアというか,本命でもある3D性能のテスト結果を見ていこう。グラフ9は3DMarkのテスト結果で,A10-6700TはFire StrikeでA10-6700の約90%というスコアを示し,HD 6570と完全に並んだ。i3-3225に対しては約62%ものスコア差を付けて圧倒している。
BioShock Infiniteのテスト結果をまとめたものがグラフ10だが,ここでA10-6700TのスコアはA10-6700やHD 6570の84〜87%程度。4Gamerのベンチマークレギュレーション14.0では,本タイトルにおける合格ラインを平均40fpsとしているので,今回のテスト対象はどれもクリアできていないのだが,AMDの3製品でA10-6700Tだけが1280×720ドット解像度で平均30fpsを割っているのは少々気になるところだ。
なお,i3-3225に対しては安定して60%以上高いスコアを見せつけている。
グラフ11はSkyrimのテスト結果で,全体の傾向はBioShock Infiniteと似た印象を受ける。ただし,高解像度でA10-6700TはA10-6700およびHD 6570にスコア差を広げられているので,グラフィックスメモリをメインメモリと共用するA10-6700Tの仕様は,性能面で足を若干引っ張っているようだ。
CPUテストのときと同じく,簡易描画設定3でテストしたPSO2ベンチの結果がグラフ12だ。ご覧のとおり,A10-6700Tのスコアはあまり振るわないが,i3-3225がA10-6700T以上にスコアを落としていることからすると,ここでも「グラフィックスメモリをメインメモリと共有する」という,統合型GPUの宿命によって,こういう結果になっている可能性を指摘できるだろう。
もっとも,PSO2ベンチが規定するスコア評価と照らし合わせるに,A10-6700Tは,1600×900ドットでも「標準的な動作が見込める」とされるスコア2001〜5000の範囲内にあるので,大きく下回るi3-3225とは一線を画す印象だ。
グラフ13は新生FFXIVベンチ キャラ編の結果で,ここでA10-6700TはA10-6700に対してかなりいい勝負を演じている。1280×720ドットでの平均フレームレートも,A10-6700の51.4fpsに対してA10-6700Tは45.7fpsなので,まずまずといったところだろう。
ただ,HD 6570のスコアを見る限り,ここでもメモリ周りの足枷は,APUにとって多少なりともハンデになっている。
公称TDP値はコンサバ過ぎ!?
A10-6700Tの消費電力は相当低い
気になる消費電力もチェックしてみよう。いつものように,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比較してみたい。
今回,CPUコアの消費電力検証においては,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,システムに負荷をかけ続けるストレスツールの「OCCT」を30分間実行し続けた時点を「高負荷時」する。一方,3D性能のテストでは,高負荷時の代わりに,各アプリケーションベンチマーク実行時に,最も高い消費電力値を記録した時点を,アプリケーションごとのスコアとして採用することにした。
というわけでまずはCPUコアのみに負荷をかけた状態からだが,グラフ14に示したとおり,高負荷時の消費電力でA10-6700TはA10-6700比で62Wも下がり,i3-3225と同レベルになっている。A10-6700比でTDP値は20Wの違いに留まるA10-6700Tだが,実際の消費電力は相当に下がっていると述べていいだろう。ベースクロックを思い切って下げた効果はあった印象だ。
最後にグラフ15が3Dアプリケーション実行時の消費電力比較だが,ここでもA10-6700TはA10-6700比で圧倒的に低い消費電力を示している。その差は実に40〜51W。GPUコアクロックを引き下げた効果は如実に出たわけである。
性能よりも消費電力と割り切るならアリ
低コストでオンラインゲーム用PCを作りたい人に
やはりA10-6700Tで注目すべきは,A10-6700に対して圧倒的とも言える消費電力の低さ。これに尽きるだろう。しかも3D性能は,Intel HD Graphics 4000を統合したCore i3であれば圧倒しているわけで,「主にオンラインゲーム用として,イニシャルコストもランニングコストも低い小型PCを作ってみたい」という場合に,(少なくとも2コア4スレッド仕様のデスクトップPC向けHaswellが出てくるまでは)有力な選択肢として考慮に値するはずだ。
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AMD日本語公式Webページ
- 関連タイトル:
AMD A-Series(Trinity,Richland)
- この記事のURL:
(C)2012 Advanced Micro Devices, Inc.
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