余録:福島県の南相馬市を先日訪ねた…
毎日新聞 2013年09月01日 00時17分
福島県の南相馬市を先日訪ねた。東日本大震災の後、取材で知り合った男女2人の友人を頼り、毎年この時期に訪れている。早いものでもう3年目になった▲何度行っても胸が詰まる。広大な水田地帯の大半は雑草が繁茂するなど荒れ果てている。福島第1原発事故の影響で2年続いた稲作自粛は、一部地域では出荷も目指す作付けに移行したが、全袋検査で安全が確認されても風評被害の懸念がある▲避難区域の再編で1年以上も前に住民の出入りが許可された地区も、生活できる状況になく人の姿はまれだ。子供を避難させ、親子が遠く離れて住む家族も多い。地域社会は大きく崩れた。除染計画も遅れに遅れている▲初めて経験しているこの苦境について、友人たちは「去年も今年も、何も変わっていない」と言う。そして「原発事故さえなければ」と悔しがる。1人は大震災で家族2人を失った女性だ。自らの悲しみより地域の苦しみを訴えるのは、復興にはほど遠い現状へのもどかしさゆえだろう▲2人の案内で津波犠牲者の慰霊碑も訪ね、去年は接近さえできなかった地域を車窓から見ることもできた。重すぎる現実に圧倒されながらも「これを読者に伝えることには意味がある。今年も来てよかった」と思った▲しかし常磐線(じょうばんせん)の駅で友人たちと別れた後、急に苦い思いが込み上げてきた。自分は東京に戻る。彼らはここに住み続け、自らと地域の重荷を背負い続ける。その重荷の最悪の部分は、彼らに責任のない原発事故に由来する。あまりに理不尽ではないか。今までそのように厳しく考えなかった自分を恥じ、来年どうするかを考えている。