平成25年8月31日
TPP交渉会合、関税は本格協議持ち越し−日本、競争・投資で新興国と隔たり
【バンダルスリブガワン時事】ブルネイで開かれた環太平洋連携協定(TPP)の第19回交渉会合で日本は、コメや砂糖など重要5項目の「聖域」確保が懸かる関税の撤廃・削減を扱う「市場アクセス」分野の協議に初めて臨んだ。9カ国と2国間協議を行い、6カ国と関税交渉案を交換したが、本格的な協議は9月以降に持ち越した。また日本企業の域内進出を促す「投資」「競争」など非関税分野では、新興国との溝が埋まらなかった。「10月大筋合意」の期限を前に、日本は厳しい交渉を強いられる。
今回、関税をめぐる協議で日本は、各国の戦略を見極める狙いも込め、10年以内の撤廃を約束する品目の割合を示す自由化率を80%程度と低めに抑えて各国に示した。政府は今後、他国の反応を見ながら自由化率を引き上げる方針だが、「大筋合意」を目指す10月上旬のTPP首脳会合まで残りわずか1カ月。利害関係者は「日本の主張を反映させるには時間が足りない」(農業団体)と交渉の行方を懸念する。
非関税分野では、ベトナムなど新興国に進出する日本企業が、国営企業と対等な条件で競争できるようにする制度づくりを目指す。しかし、エネルギーや交通、通信の分野で多くの国有企業を抱える新興国にとって、補助金などの打ち切りは国民生活に直結する。交渉筋は「国有企業の定義ですら各国間に隔たりがあり、議論が収れんしない」と明かす。
一方、外資系企業が進出先の制度変更で被害を受けた場合に相手国を提訴できる「投資家・国家間の紛争解決(ISDS)条項」をめぐっては、オーストラリアが適用に反対するなど先進国間でも足並みが乱れる。米国が求める映画や音楽の著作権保護期間と医薬品の特許期間の延長も、各国内で業界間の利害が対立し、着地点を見いだせない状況だ。
日本の鶴岡公二TPP首席交渉官は30日の記者会見で「交渉分野で進展が全くないものは一つもなかった」と成果を強調したが、市場アクセス分野を含め多くの懸案が残る。日本の交渉力が試されるのはこれからだ。
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10月大筋合意へ交渉加速−TPP首席会合、来月も米で
【バンダルスリブガワン時事】日本、米国など12カ国が参加した環太平洋連携協定(TPP)交渉会合は30日、関税を扱う市場アクセスなどでの一定の前進を強調する共同声明をまとめ、閉幕した。インドネシア・バリ島でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて10月に開くTPP首脳会合での大筋合意を目指し、各国は交渉を加速させることを確認。今後、分野別に中間会合を開くとともに、9月18〜21日に首席交渉官会合を米ワシントンで開催する方向となった。
鶴岡公二TPP首席交渉官は会合後の記者会見で、最大の焦点である関税協議で、10年以内の撤廃を約束する品目が全貿易品目に占める比率(自由化率)を低めに抑えた日本の交渉案について「まだまだ改善の余地があると(各国に)受け止められた」と指摘。「相手国の要望に応じて自由化率を上げていく」と述べ、例外品目を絞り込み、自由化率を今回提案したとみられる80%前後から90%台に向けて段階的に引き上げることを示唆した。
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甘利担当相、10月大筋合意「楽観せず」
甘利明TPP担当相は30日の記者会見で、事実上終了した環太平洋連携協定(TPP)交渉のブルネイ会合について、「劇的に進んだとはいえないが、方向性を共有して交渉参加国が動きだしたのは事実だ」と評価した。その上で「このまま手放しで目標とする10月の大筋合意に向かうほど楽観はできない」と指摘し、「これから一山も二山も越えなければならない」と述べた。
【解説】 米、「交渉終盤」を宣言−TPP妥結へなお曲折
【ワシントン時事】ブルネイでの環太平洋連携協定(TPP)交渉会合は、10月のTPP首脳会合を「重要な節目」と位置付け、協議を加速することを確認した。交渉を主導する米通商代表部(USTR)のフロマン代表は「終盤戦に入った」と述べ、年内妥結への意志を示す。だが、関税撤廃などの協議は難航しており、完全合意までには曲折が予想される。
米オバマ政権は「来年秋の中間選挙までに、TPP交渉妥結という外交成果を出したい考え」(通商専門家)とされる。今回の会合でUSTRは、たばこ規制が厳しいオーストラリアなどに配慮する形で、各国固有のたばこ規制を尊重する新たな条文案を提出。要求に譲歩を織り交ぜ、交渉の進展を図ったようだ。
しかし、知的財産分野では、医薬特許の保護強化を図る米国と、安価な後発医薬品(ジェネリック)の利用を求める新興国の対立が続く。関税撤廃などでも交渉参加12カ国の利害は交錯。各国は9月に小規模な中間会合を開き、妥協点を模索するが、外交筋は「協議は容易ではない」とみる。
さらに、妥結を急ぐ米政府自身が国内調整に課題を抱える。TPP締結には、米議会に協定批准の判断を促す「大統領貿易促進権限(TPA)」が不可欠だが、関連法成立のめどは立っていない。
こうした情勢から、通商専門家は「年内の完全合意は困難」と指摘。その上で、10月の首脳会合で「12カ国は基本姿勢の一致を確認し、『大筋合意』を演出する可能性はある」と語る。
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