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残酷な描写が続きますのでご注意ください。苦手なかたは飛ばしたほうが良いかも知れません。
争奪編 第一章 激動
      閑話
 二股の舌のそれぞれの先端が唾液でてらてらと光っていた。
 先端があべこべに動いた。舌の左側が上に、右側は下に。左に右に。

「面白いでしょ。鍛えればいろんなことができるようになるわ」

 バーバラは、自分が何を言われているのか、さっぱり分からなかった。
 レイシーは口づけをする距離まで顔を近づけ、バーバラの鼻先をきゅっと、舌で両側から挟みこんだ。
 女の舌はぬめっとしていた。
 それがざらりとした感触に変わる。女が舌の両側をねじったのだ。
 それからバーバラの両の鼻の穴にぬるりと舌を差し挿れた。
 蛞蝓(なめくじ)が鼻の穴まで入り込んできたような気分である。しかも思ったより、鼻の奥まで侵入してきて急に息苦しく感じた。

「げほっげほっ」

 鼻で呼吸が出来なくなって、口から血の唾を飛ばす。

「あら、ごめんなさい」

 そう言って、レイシーは顔を離す。なおも咳き込んで血の飛沫を飛ばすバーバラの鼻先が赤く照らされた。じょっと水気が飛ぶ音がした。
 眼前には、真っ赤に焼けた火箸が突きつけられていた。顔の近くで猛烈な熱気を放っている。

「ひっ」

 怖い。それをほんの少し前に押し出されるだけで、自分の顔には一生残る火傷がついてしまうのだ。

「心配しなくても、女の顔に傷をつける趣味はない」

 男はぬけぬけとそんなことを口にした。どうやら舌は顔の一部にはカウントされないらしい。

「さあ。バーバラどうするかね? 止血をしないと君は出血多量で死んでしまうよ?」

 それで、ようやく暖炉にはそのために火が入れられていたのだと思い至った。
 男はなんの決断を迫っているのだろうか。

「あ……あ……あ」

 頭が正常に働かない。

「無理か。出血もひどいしな」

 男はそう吐き捨てるように言って、バーバラのおでこにベルトのようなものをひっかけ、ベッドの左右へと結びつける。
 もの凄い力で頭が押さえつけられている。これで一切顔を動かせなくなった。
 それから、口の中にペンチを突っこまれた。
 どくどくと血管が脈動している舌が容赦なく引っ張り出された。

「うーん。まだ少し浅いな」

 男は不満げにそう呟いた。

「はっへ(待って)。はっへ(待って)」

 バーバラが呻く。
 痛みが閾値(しきいち)を超えたせいか、頭が麻痺してきたような気がする。

「ん? 薬が効いてきたか。拘束具には麻薬を染みこませていたからね」

「やふほくは、はもってふれふの(約束は守ってくれるの)?」

 バーバラは血を口の左右から吹き出しながらそのようなことを言った。

「舌の奥まで切らせてくれたら、約束通り君をぼくの女中長にしてあげるよ」

 バーバラの表情が引き()る。

「くく。なんでもしてくれるって言ったのは君のほうだよ。そろそろ麻酔が効いてきたから、さっきより痛くはないだろ?」

(な、なんでもって……?!)

 バーバラの返事を待たず、ペンチで容赦なく舌を摘まみ出された。
 口のなかには、大型の鋏が差し入れられた。腔内にはひんやりとした刃の感触。

「ひ、ひぃいい……」

 自分の喉奥を突き刺すように差し向けられた鉄の刃のなんと恐ろしいことか。
 舌とは筋繊維の塊である。そして人体のなかで最も感覚器の集まった部位の一つにあたる。
 舌の分かれ目の部分に、刃が触れた。

「はっへ(待って)!」

「いいかい。わたしに逆らったら、こうなるんだよ。よおく身体で覚え込んでおくんだよ?」

「ほねはひ(お願い)! はめへ(やめて)! ほねはひ(お願い)!」

 バーバラはもつれる舌で必死に哀願する。

「はんでもふるはら(何でもするから)!」

(……ああ、助けて、イングリッド……!)

 じょきん。
 無情な音がした。
 ぶちぶちと筋繊維の一本一本が切断されていく音が聞こえた。

「あ゛。あ゛あ゛あ゛ああああああああ。あああ!」

 悲鳴すら、うまく発することができない。
 さらに次の瞬間には、肉の焼ける匂いがした。 
 一本の火箸の左右を、舌を掴んだ二本のペンチが挟み込む。
 舌の切断面が焼かれているのである。自分の肉の焼ける臭いがここまで香ばしいとは知らなかった。
 鉄板の上で肉を焼く料理人(コック)のように流れるような手さばきであった。

「ぎゃあああああああああああああ、あああ!」

 手足がブルブルと不自然に痙攣しているのが自分でも分かった。

「ん。これで止血はもう大丈夫だ。レイシー。包帯を巻いてあげて。ちゃんと癒着しないように、根元まで二股に分けるんだよ?」

「はい」

 意識を失わなかったのが不思議なくらいだ。これも男が染みこませたと言っていた麻薬の作用かもしれない。
 レイシーは、慈愛に満ちた表情で、バーバラの舌に包帯を巻きはじめた。
 女は大きな乳房をしており、それぞれの先端からぶら下がったピアスが揺れていた。

「苦しかっただろう。腕輪と足輪を外してあげるよ」

 そう言って、男は両手両足の拘束が外す。
 よほど暴れたのだろう。腕の皮膚は擦れて血が出るほど赤くなっていた。

「さあ、そろそろ挿れさせてもらうよ。挿れやすいように股を開きなさい」

 包帯が巻き終わった頃合に、ウィリアムがそう言った。
 バーバラがかろうじて意識を保っていられるのは、いつのまにか盛られた麻薬のおかげである。

「はひ……」

 女は脊髄で反応するかのようにそう答えた。

(痛みで意識を失ってしまえればいいのに……)

 女はただそう思った。
 女の感情はもう痛みで麻痺している。摩耗している。
 身体に染みついた恐怖がそれ以外の答えを許さなかった。
 そのまま特に考えることなく、仰向けになったまま赤い陰毛の見える股を左右に開いた。

「バーバラ。気を強くもちなさい。そうしないとこいつを入れてしまうからね」

 男は、そう言って、ベッドの下から馬ほどもある巨大な張り型を持ち上げた。

(…………ッ!)

 再び意識が覚醒した。これほど摩耗して、生命の危機を感じられるものだと自分でも驚いた。
 黒光りする張り型の亀頭の膨らみは、大人の握り拳二つ分ほどの太さがあるだろうか。
 そこまで長いと張り型というよりも短槍に近い。あのようなものを挿れられたら、間違いなく裂けてしまう。

「あ……あ……」

 バーバラは、ぶんぶんと首を振ろうとする。

「ふふ。安心しなさい。こいつはさすがに無理だから、代わりにこれを挿れてあげよう」

 男は、そう言って、もう一本の棒を背中から取り出すと、それをバーバラの眼前に突きつけた。
 さきほどのものの太さも長さも半分くらいの張り型である。幾分か人間らしいサイズである。
 だが、バーバラは、もう一度首を振る。

(無理だ……)

 口のなかにさえ入りそうにない。
 処女であのようなものを挿れてしまったら裂けてしまうかもしれない。

「おふひんはまのものを(ご主人さまのものを)……」

 バーバラは血の泡を吹くようにして、そう言った。
 すると、男はバーバラの赤毛の髪を鷲づかみにした。

「くくっ。良い返事だが、それはできない。だって君は貴族の血を引いていないじゃないか」

 ぐるりとバーバラの瞳孔が回る。

「わたしが気がつかないとでも思ったかい? ヘンリー家の奇行は有名だからね。赤毛の君がヘンリー子爵の種でないことは、だれの目にも明らかだ。貴族の血を引かない女など抱く価値はない。おまえの処女など(ごみ)だ」

 男は非人間であった。
 バーバラは青い瞳を反抗的に歪ませてギュンガスを射貫いた。
 少女の誇りが、一瞬だけ男に対する恐怖を忘れさせたのである。

「へいほひょうのへんは(女中長の件は)?」

「ほほう。君の精神的な貴族性はすばらしい。紛い物であっても愛でてあげよう。約束は守ろう。調教が完了した暁に、君は無事わたしの女中長になる」

 男の言葉に、バーバラは瞳で肯いた。

「さ、レイシー。わたしの代わりにバーバラの処女を破ってあげたまえ」

「ひっ!」

 身体の中心を無機質な冷たい剛直が貫いた。
 レイシーが、ずぶりと何の遠慮も躊躇もなく、腰に装着した張り型を、少女の女性器のなかに突き刺したのだ。
 黒髪の女は、腰に装着した張り型以外は、裸である。綺麗な身体つきをしており乳房は張っていた。
 両手で、バーバラの両の足首を掴んで、細い腰をぐぐっと前に押しつけた。

(馬鹿野郎! 無茶をするな!)

 女学院でも、ときに、このようなことは行なわれる。愛情の表現、あるいは敵対勢力に対する制裁、動機は様々だ。
 だが、処女膜を破るのに、わざわざ極太の張り型を使う必要はないではないか。

「ぐ、あ……あ、あ……あ……」

 もう痛いとか、そういう次元ではない。身体が内側からすり潰される。身体の中心に異物が差し込まれ、めりめりと身体を内側から押し広げようとしているのだ。
 レイシーは、足首を震えるほど強く掴み、一気に腰を叩きつけた。

「ぎゃあああああ、ああああ、ぐうううううあああ!」

 身体の内側がびりっと破けたような感じさえする。
 誰に処女を捧げるべきかは、女王蜂争いを勝ち抜くために何晩もかけて死ぬほど悩んだ。その処女膜はもう影も形もない。

「ちっ、一気に散らせるとは風情のない」

 男は不満そうにそう言った。

「申し訳ありません。どうするか、ご命令を受けていなかったもので」

「同病相憐れむというやつかね」

「そうですね。これが、わたしのしてあげられる、せめてもの情けですから」

 黒髪の女は、そう寂しそうに笑う。

(くそったれ! 絶対にこの女をクビにしてやる……)

 バーバラはそう心に固く誓った。マルク家の女中長になって最初にやる仕事がそれである。

「ところで、自己紹介がまだだったね……」

 男が何気なく言った。

「え?」

「わたしの名前をギュンガスという。ウィリアムというのは、つい先日まで、わたしの主人だった少年の名前だ。もっとも向こうはわたしのことを、まだ部下だと思っているだろうけどね。ちょっとした手違いだ。やあ、悪かったね」

「え゛?」

「話題の男ドミドリスとの面会のアポイントが取れたんだ。まあ、それはこっちの話だがね」

 いけない。
 それ以上、考えてはいけない。

(わたしは、今日、一体なにをやらかしたの……!)

 地面がぐらぐらと激しく揺れている気がした。だが、揺れているのは自分の心の内側だけのようだ。
 そのバーバラの乳首のまわりを女の二枚舌が螺旋を描くように這い回っている。余計な快楽がバーバラの神経を一層苛立たせる。
 脳が理解するまえに、脊髄が勝手に反応した。

「ひ、ひはま(貴様)ッ!?」

 バーバラは身体を起こし、ギュンガスに掴みかかろうとするが、のし掛かったレイシーが邪魔で果たせない。

「ははは。レイシーとおそろいにしてあげよう」

「ぎゃんっ!」

 乳首に鋭い痛みが走った。女の背が反り、そのままベッドの上でバウンドした。バーバラの桃色の乳首から、幾筋もの血の流れを作っている。
 女は口から血を吐き、乳房から血の体液を垂らし、下半身は破瓜の血でぬかるんでいる。
 今度は反対の乳首に、女の舌が這い回る。またあの二筋の舌だ。
 きゅっと左右から少女の乳首が挟み込まれ、痛みの洪水のなかに一滴の快楽を垂らす。

「次は反対側を貫通させよう」

 男はそう言って、バーバラの目の前に鋭く尖った針を見せつけた。

「ひ、ひぃいい」

 舌を切られる痛みに比べたら大したことはない。膣を巨大な張り型で突かれる痛みに比べたら大したことはない。
 だが、それでも次に来る痛みを予感したときに、バーバラの精神は耐えられなくなった。

「ゆふひて(許して)! ゆふひて(許して)!」

 バーバラは必死に顔を左右に振り、哀願する。

「ぎゃあああ!」

 だが、無情にも鋭い痛みはやってきて、思わず顎を上げた。来るのが分かっている激痛は、人の心を大いに挫く。
 しかも痛みはさほどでもないにしろ、じくじくと心に染みるのだ。

「ひはい(痛い)。はたひははにひたっへひふのほ(あたしが何をしたって言うのよ)。……っ!? ぎゃあああ?!」

 さらに下半身にも鋭い痛みが襲ってきた。張り型を装着した女がバーバラの下半身で腰を振りはじめたのだ。
 今度は、痛みで文字通り、悶絶して、転がり回る。
 ギュンガスはベッドの上に靴を履いたまま上がり、革靴の底で血塗れのバーバラの顔を踏みつけにした。

「わたしに逆らったら、こうなることを心に焼き付けておくのだよ。まだわたしに逆らう気があるかい?」

「……はからひません(逆らいません)」

「これで君は一生わたしの奴隷だね?」

「はひ……」

 こうしてバーバラは完全に心を叩き折られた。

「……ひっく。ひっく……」

 全身を血塗れにした女が、顔を歪ませて泣きじゃくる。

「約束通り、いずれ君をわたしの奴隷頭にしてあげる。おっと女中長のことか。ま、どちらでも同じだけどな。傷が癒えたら、毎日レイシーとセックスさせるからな。苦痛でむせび泣いていたのが、快楽でむせび泣くようになる。楽しいぞォ。男女の性交と違って終わりがないからね。蛇の交尾みたいに、何日でもぶっ通しで励んでもらうのもいいかもな。女中長になるには、最低限、レイシーより上手になってもらわないとな。ハハハッ!」

「わたしを憎みなさい。あなたが女中長になった(あかつき)に、なんなら殺してくれたって構わない。自分でやる手間が省けるもの。わたしなら殺されてあげるから」

 長い黒髪を前後に揺らすレイシーの絶望に彩られた呟きは、バーバラの耳には届かなかった。

(……ごめんね。イングリッド……。ごめんね。イングリッド。わたし、もう……もう……)

 バーバラを誇り高い人間だと讃えてくれたあの盟友が、精も根も叩きつぶされたいまの自分の姿を見たらなにを思うだろう。
 少女は、口からぶくぶくと大量の血の泡を吹きはじめた。

「さあ。この愚かな少女をわたしの女中長にしてやるとして。マルク家の本当の女中長はどう出るでかね。できれば屋敷の外に出てきてくれるとありがたい。屋敷を離れた女中長など、陸に上がった海亀も同然だからな。くくく」

 少女のかすれゆく意識のなか、男はそんなことを呟いた気がした。


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